コンパクト対称作用素の固有値:ヒルベルト・シュミットの定理

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、コンパクト対称作用素の固有値に関するヒルベルト・シュミットの定理を紹介します。

 



ヒルベルト・シュミットの定理

\(H\)を可分な(可算な正規直交系を持つ)ヒルベルト空間(完備な内積空間)、\(F:H \to H\)をコンパクト対称な線形作用素とします。このとき、

  • 固有値はすべて実数
  • 固有値は多くても可算無限個。「すべての\(n \in \mathbb{N}\)に対し\(|\lambda_{n+1}| \leq |\lambda_{n}|\)」を満たすように固有値に番号付けするならば、\(\lim_{n \to \infty} \lambda_n =0\)
  • 固有関数系\((w_n)\)は、像\(F(H)\)の完全正規直交系(ヒルベルト基底)となる。
    • 特に、\(F(u) = \sum_{n=1}^\infty \lambda_{n}\langle u,w_n\rangle w_n\)と表せる。
  • さらに、\(F\)が可逆(単射)ならば、固有関数系は全体\(H\)の完全正規直交系となる。

これがヒルベルト・シュミットの定理(Hilbert-Schmidt theorem)です。スペクトル定理(spectrum theorem)や固有関数展開とも呼ばれます。

 

これは対称行列が対角化可能であることの一般化です。

固有ベクトルを並べた行列は対角行列となるようにでき、すなわち固有関数が\(\mathbb{R}^N\)において互いに直交し大きさが1となるように選べます。つまり、それらは正規直交系です。

そこで、線形作用素\(F:H \to H\)が対角化可能であることを、\(H\)の完全正規直交系\((w_n)\)で、それらが\(F\)の固有関数である

\[F(u) = \sum_{n=1}^\infty \lambda_{n}\langle u,w_n\rangle w_n\]

ものが存在する、と対角化可能の定義を一般化しましょう。

この言葉を使えば、「コンパクトな対称作用素は対角化可能」とヒルベルト・シュミットの定理をまとめられます。

 

証明

では、ヒルベルト・シュミットの定理を証明していきましょう。

 

  • 固有値はすべて実数

これは行列と全く同様に議論できます。

\(F(w) =\lambda w\)を満たす\(\lambda \in \mathbb{C} , w \in H, w \neq 0\)があったとしましょう。右側と左側から\(w\)との内積を取れば、内積の共役線形性から

\[\langle F(w),w\rangle_H =\langle \lambda w, w\rangle_H \\= \overline{\lambda} \langle  w, w\rangle_H \]

\[\langle w,F(w)\rangle_H =\langle  w, \lambda w\rangle_H \\= \overline{\lambda} \langle w, w\rangle_H \]

で、\(F\)の対称性からこれらは等しいので

\[\overline{\lambda} \langle  w, w\rangle_H = \overline{\lambda} \langle w, w\rangle_H \]

です。\(w \neq 0\)、内積の正定値性より\(\langle w, w\rangle_H \neq 0\)なので、両辺をそれで割れば、\(\lambda = \overline{\lambda}\)となります。固有値が実数であることが示せました。

 

  • 固有値は多くても可算無限個。「すべての\(n \in \mathbb{N}\)に対し\(|\lambda_{n+1}| \leq |\lambda_{n}|\)」を満たすように固有値に番号付けするならば、\(\lim_{n \to \infty} \lambda_n =0\)

コンパクトな対称作用素は作用素ノルムを固有値として持つことから出発しましょう。その固有ベクトルを大きさが1となるように割る(正規化)することで、\(Aw_1 =\lambda_1 w_1\)、\(\|w_1\|_H =1\)、\(|\lambda_1|=\|F\|_{B(H,H)}\)とできます。

そこで\(H_1 = \mathrm{span}(\{w_1\})^{\perp}\)、\(w_1\)に直交するベクトルの集まり、\(w_1\)が生成する部分空間の直交補空間としましょう。

直交補空間は、一般に閉部分空間であることが知られています。また、完備なノルム空間の閉部分空間は完備であることも知られています。

したがって、\(H_1\)は\(H\)の閉部分空間で、それ自身をヒルベルト空間として見ることができます。

\( u \in H_1\)に対し、\(F(u) \in H_1\)となります(\(H_1\)は\(F\)不変部分空間)。なぜなら、\(F\)は対称なので、\(\langle F(u),w_1\rangle_H=\langle u,F(w_1)\rangle_H= \lambda_1 \langle u, w_1\rangle_H=0\)となるので。

したがって、\(F\)の\(H_1\)の制限\(F|_{H_1}:H_1 \to H_1\)について、再び作用素ノルムの大きさの固有値が持つことを用いれば、\(Aw_2 =\lambda_2 w_1\)、\(\|w_2\|_H =1\)、\(|\lambda_2|=\|F|_{H_1}\|_{B(H_1,H_1)}\)とできます。

\(H_1 \subset H\)で、作用素ノルムの上限による定義から、

\[\begin{aligned}  & |\lambda_2|\\ &=\|F|_{H_1}\|_{B(H_1,H_1)}  \\& = \sup_{u\in H_1 , u \neq 0 }\frac{\|F(u)\|_H}{\|u\|_H} \\& \leq \sup_{u\in H , u \neq 0 }\frac{\|F(u)\|_H}{\|u\|_H} \\ &=\|F\|_{B(H,H)}\\ & \leq |\lambda_1|\end{aligned}\]

となりました。\(w_2 \in H_1 = \mathrm{span}(\{w_1\})^{\perp}\)より、\(w_1,w_2\)は直交しています。

\(H_{n+1}= \mathrm{span}(\{w_1,\dots,w_n\})^{\perp} \)として同様の議論を繰り返すことで(数学的帰納法)、固有値、固有ベクトルの列\(\lambda_{n+1},w_{n+1}\)が得られます。\(H\)が無限次元ならば、この列は無限に続きます(有限次元ならば、途中で\(H_k=\{0\}\)となる)。構成の仕方から、\((w_n)\)は正規直交系で、\(|\lambda_{n+1}| \leq |\lambda_{n}|\)です。

 

\(\lim_{n \to \infty} \lambda_n =0\)を示すために、そうでないと仮定しましょう(背理法)。

極限の定義の否定から、「すべての\(n\)に対し\(|\lambda_n| \geq \varepsilon\)」を満たす\(\varepsilon> 0\)が存在します。\(F(\frac{\varepsilon}{\lambda_n} w_n)= \frac{\varepsilon}{\lambda_n} \lambda_n w_n= \varepsilon w_n\)、\(\|\frac{\varepsilon}{\lambda_n} w_n\|_H \leq |\frac{\lambda_n}{\lambda_n}|\|w_n\|_H =1\)なので、\((\varepsilon w_n)\)は単位球の像\(F(B(0,1))\)上の点列です。しかし、正規直交系からなる点列は収束しないので、\((\varepsilon w_n)\)は収束する部分列を持ちません。これは\(F\)がコンパクトであること:有界な点列の像からなる点列が収束する部分列を持つ、に矛盾します。

よって、\(\lim_{n \to \infty} \lambda_n =0\)です。

 

  • 固有関数系\((w_n)\)は、像\(F(H)\)の完全正規直交系(ヒルベルト基底)となる。
    • 特に、\(Fu = \sum_{n=1}^\infty \lambda_{n}\langle u,w_n\rangle w_n\)と表せる。
  • さらに、\(F\)が可逆(単射)ならば、固有関数系は全体\(H\)の完全正規直交系となる。

\(V= (\overline{\mathrm{span}((w_n)_n)})^{\perp} \)とします(\(\mathrm{span}\)は\((w_n)\)の有限個の線形結合により生成される部分空間で、上の横棒はその閉包:固有関数系が生成する閉部分空間)。

\(V = \ker F\)であることを示しましょう。まず、\(v \in (\overline{\mathrm{span}((w_n)_n)})^{\perp} \)とします。それは\(w_n\)と直交していて、構成の仕方から\(\|F(v)\|_H \leq \|F\|_{B(V,V)}\|v\|_H \leq \|F\|_{B(H_{n+1},H_{n+1})}\|v\|_H  = |\lambda_{n}|\|v\|_H\)です。\(\lim_{n \to \infty} \lambda_n =0\)から極限を取れば\(\|F(v)\|_H=0\)で、正定値性から\(F(v)=0\)、すなわち\(v \in \ker F\)となりました。逆に、\(v \in \ker F\)とします。\(F\)の対称性から、\(0=\langle F(v),w_n \rangle _H =\langle v,F(w_n )\rangle_H = \lambda_n \langle v,w_n \rangle_H\)なので、0でない固有値を持つ固有ベクトルに対し\(\langle v, w_n\rangle_H=0\)です。よって、\(v \in (\overline{\mathrm{span}((w_n)_n)})^{\perp}\)です。

\(H\)が可分であることから、その部分空間である\(V = \ker F\)も可分です。\((v_n)\)を\(V\)の完全正規直交系としましょう。核の定義より\(F(v_n)=0\)です。

部分空間とその直交補空間\(H = V \cup V^{\perp}\)は直和分解になることが知られていて(有限次元のケースの一般化)、\(u \in H\)に対し、\(u = v+w\)、\(v \in V ,w \in V^{\perp}=\overline{\mathrm{span}((w_n)_n)} \)と表せます。したがって、列をあわせた\((v_n)_n \cup (w_n)\)は\(H\)の完全正規直交系で、

\[u = \sum_{n=1}^\infty (\langle u,v_n \rangle_H v_n + \langle u,w_n \rangle_H w_n )\]

と表せます。これに\(F\)を作用させれば、\(F\)の線形性、\(F(v_n)=0\)、\(F(w_n)=\lambda_n w_n\)より、

\[F(u) = \sum_{n=1}^\infty \langle u,w_n \rangle_H w_n \]

が得られました。これは\((w_n)_n\)が像\(F(H)\)の完全正規直交系であることを意味します。

 

特に、\(F\)が可逆(単射)ならば、\(V = \ker F =\{0\}\)なので、\(H= \overline{\mathrm{span}((w_n)_n)}\)となります。さきほどの結果から、

\[u = \sum_{n=1}^\infty  \langle u,w_n \rangle_H w_n \]

となっていて、\((w_n)_n\)は\(H\)の完全正規直交系です。

 

応用

ヒルベルト・シュミットの定理より、コンパクトな対称作用素があれば、その固有値や固有関数を議論できます。

例えばそれは、ヒルベルト・シュミット積分作用素を通して、ストゥルム・リウビル型微分方程式の固有値問題に応用できます。

また、ラプラシアンはそのままではコンパクトではありませんが、コンパクトな逆作用素を持ち、ヒルベルト・シュミットの定理に持ち込むことができます。それはポアソン方程式の弱解の構成、固有関数による解の近似(ガラーキン法)に応用されます。

これらについては別記事にて。

 

以上、コンパクト対称作用素の固有値に関するヒルベルト・シュミットの定理を紹介してきました。

対称行列の対角化は便利ですが、関数空間においても似た結果が使えるのは嬉しいですね。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

 

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