レリッヒ・コンドラショフの定理、コンパクト作用素、コンパクトな埋込みとは

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、レリッヒ・コンドラショフの定理、コンパクトな埋込みについて紹介します。

 



レリッヒ・コンドラショフの定理

無限次元のノルム空間において、単位球はコンパクトではありません。しかし、グローバルアトラクターの構成のためには、何らかの形で関数空間にコンパクト集合が存在することが示したいです。

そこで用いるのが、レリッヒ・コンドラショフの定理(Rellich–Kondrachov theorem)です。

\(\Omega \subset \mathbb{R}^N\)を境界が\(C^1\)級の有界な領域とする。

このとき、ソボレフ空間\(H^1(\Omega)\)は\(L^2(\Omega)\)にコンパクトに埋め込まれる。すなわち、どんな\(H^1\)の有界集合\(K\)も、\(L^2\)における閉包を考えればコンパクトである。

より一般のソボレフ空間に対するバージョンもあります。証明は、Evans「Partial Differential Equations」など参照。

偏微分方程式の力学系において、\(H^1\)の有界な吸収集合\(B\)が構成できたとしましょう。\(B\)の\(L^2\)における閉包を考えれば、それはレリッヒ・コンドラショフの定理より、コンパクトな(吸収)集合です。したがってグローバルアトラクターの存在が示せるわけです。

 

コンパクトな埋め込み

コンパクトな埋め込みについて、用語を少し一般的に解説します。

\(X,Y\)をともにバナッハ空間(完備なノルム空間)、\(F:X\to Y\)を線形作用素(線形写像)とします。

\(F\)がコンパクト作用素(compact operator)とは、\(X\)の任意の有界集合\(A\)について、その像の\(Y\)における閉包\(\mathrm{Cl}_Y (F(A))\)がコンパクトとなることです。

\(F\)がコンパクト作用素であることの同値な条件として、「\(X\)の任意の有界な点列\((u_n)\)に対し、\((F(u_n))\)が\(Y\)において収束する部分列を持つ」が知られています。

 

簡単な例としては、\(X=Y=\mathbb{R}^N\)、\(F=A\)という行列のケースがあります。行列の作用素ノルムを\(\|A\|\)とすると、常に\(\|Au\| \leq \|A\| \|u\|\)となるので、\(X\)の有界集合の像は必ず有界集合です。その閉包を考えれば、ユークリッド空間の有界閉集合はコンパクト(ハイネ・ボレルの定理)なので、\(A\)はコンパクトです。

数列のなす空間\(X=Y = \ell^2\)において、恒等作用素\(I(a):=a\)を考えると、\(I\)はコンパクト作用素ではありません。なぜなら、\(\ell^2\)における単位球を考えると、その像の閉包は単位球そのものですが、それはコンパクトではないからです。

 

\(X\)が\(Y\)にコンパクトに埋め込まれる(compactly embedded)とは、\(X\subset Y\)であって、恒等作用素(埋め込み作用素)\(I:X \to Y\)がコンパクト作用素となることです。これを\(X \subset \subset Y\)と二重の包含記号で表すこともあります。

レリッヒ・コンドラショフの定理で言えば、\(X=H^1,Y=L^2\)とし、\(H^1\)が\(L^2\)にコンパクトに埋め込まれています \(H^1 \subset \subset L^2\)。それが意味するのは、\(H^1\)の有界集合の閉包が\(L^2\)でコンパクトであること(恒等作用素を考えているので、像は\(I(K)=K\)と変わらないので、考えなくて良いです)。または、\(H^1\)の有界点列が、\(L^2\)において収束する部分列を持つ、とも言い換えられます。

コンパクトな埋め込みにおける恒等作用素\(I\)は、有界集合について考えるときは\(X\)のノルム、像について考えるときは\(Y\)のノルムを考えていることに注意しましょう。数列空間の恒等作用素がコンパクトでなかったのは、\(I:\ell^2 \to \ell ^2\)と同じ空間を考えていたからです。

 

一般に、コンパクト作用素は有界作用素でもあることが知られています(逆は一般には成り立たない)。

レリッヒ・コンドラショフの定理でそれを書き下すと、「すべての\(u \in H^1\)に対し、\(\|u\|_{L^2} \leq C \|u\|_{H^1}\)」を満たす定数\(C\)が存在することです。

一般に、\(X \subset Y\)とし、\(X\)が\(Y\)に連続に埋め込まれる(continuously embedded)とは、「すべての\(u \in X\)に対し、\(\|u\|_{Y} \leq C \|u\|_{X}\)」を満たす定数\(C\)が存在することです。恒等作用素\(I:X\to Y\)が連続作用素(有界作用素)である、とも。このことを、\(X \hookrightarrow Y\)とも表します。

コンパクトな埋め込みは、連続な埋め込みでもあります。すなわち、コンパクトな埋め込みは、ある種の不等式を含んだ結果というわけです。特に、ソボレフ空間の間の連続な埋め込みは、ソボレフの埋め込み定理と呼ばれています。

 

以上、レリッヒ・コンドラショフの定理、コンパクトな埋込みについて紹介してきました。

おおざっぱに言えば、ある空間で有界集合を作れば、別の空間でコンパクト集合が作れるというものです。より一般的な枠組みとしては、コンパクト作用素や関数解析の用語を知っていると良いですね。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

 

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