l^2、無限次元ヒルベルト空間の単位球がコンパクトでないことの証明

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、\(\ell^2\)、無限次元ヒルベルト空間の単位球がコンパクトでないことの証明を紹介します。

 

無限次元とコンパクト性

偏微分方程式においてアトラクターが存在することを示すためには、可積分関数のなす空間\(L^p\)など、無限次元の関数空間においてコンパクトな(吸収)集合が存在することを示す必要があります。

ユークリッド空間\(\mathbb{R}^N\)、一般に有限次元のノルム空間においては、コンパクトであることは有界閉集合であることと同値でした(ハイネ・ボレルの定理)

一般の距離空間において、「コンパクトならば有界閉」は成り立つのですが、逆「有界閉ならばコンパクト」は成り立つとは限りません。その具体例を、今回示していきましょう。

 

一般の距離空間において、コンパクトであることと、点列コンパクトは同値であることが知られています。\(A\)が点列コンパクト(sequentially compact)であるとは、\(A\)の任意の点列が収束する部分列を持つことです。

今回はこれを利用し、コンパクトでないことを示します。

 

\(\ell^2\)の単位球はコンパクトでない

二乗和が有限な数列のなす空間

\[\ell^2 =\{a \mid a=(a_k) ,\sum_{k=1}^\infty a_k^2 <\infty\} \]

において、内積とノルム

\[\langle a,b\rangle = \sum_{k=1}^\infty a_k b_k\]

\[\|a\|= (\sum_{k=1}^\infty a_k^2 )^\frac{1}{2}\]

と単位球\(B = \{a \in \ell ^2 \mid \|a\| =1\}\)について考えます。

単位球がコンパクトでないこと、すなわち点列コンパクトでないことを示すには、単位球上の点列で、収束する部分列を持たないようなものがあることを示せば良いです。

 

そこで数列\(e[n]\)を

\[ e[n]_k= \left\{ \begin{array}{lr} 1 && (k=n) \\ 0 && (k \neq n) \end{array} \right. \]

によって定め、数列の点列\((e[n])_n\)について考えましょう。数列の添字は\(_k\)、数列の点列の添字は\([n]\)によって表しています。

\(\mathbb{R}^N\)において、\(i\)番目の成分だけが1、他が0のベクトル\(e_1,\dots,e_N\)を標準基底と言いました。その一般化となるような点列です。

すべての\(n\)に対し、\(\ell^2\)ノルムを計算すると

\[\|e[n]\| = \sum_{k=1}^\infty e[n]_k =1\]

です。ひとつの項だけが1で、他が0となっているので。したがって、\((e[n])_n\)は単位球\(B\)上の点列です。

 

しかし、収束する部分列を持ちようがありません。なぜなら、\(n,m\)が何であっても、\(n \neq m\)ならば

\[\langle e[n],e[m]\rangle = \sum_{k=1}^\infty e[n]_k e[m]_k \\=0\]

と内積が0になり(直交)します。\(n \neq m\)なので、\(e[n]_k e[m]_k\)が同時に0でなくなることはなく、常にどちらかが0になっているので。したがって、ノルムと内積の関係から

\[\begin{aligned}  &\|e[n]-e[m]\|^2 \\ &= \|e[n]\|^2 -2\langle e[n],e[m]\rangle+\|e[m]\|^2 \\&= 1+0+1 \\&=2\end{aligned}\]

です。どんな部分列\((e[n_j])\)を考えても、十分先の項では項の差が\(\sqrt{2}\)以下にならないので、コーシー列ではありません。一般に、収束する列は必ずコーシー列になるので、その対偶を考えれば収束しない列であることがわかりました。

よって、単位球\(B\)は点列コンパクトでないこと、コンパクトでないことが示せました。

 

一般に、ノルム空間の単位球は閉集合です。

したがって、\(\ell^2\)においては、有界な閉集合であるが、コンパクトでない集合が存在することもわかりました。

無限次元の空間においてコンパクト性を判定するには、有界な閉集合を作るだけでは十分ではないというわけです。有限で閉じた範囲の点列を考えても、今回のように永遠に直交し続け逃げていってしまう(収束しない)ことがあります。

 

ヒルベルト空間の単位球はコンパクトでない

以上の議論は、ある程度簡単に一般化できます。

可算な正規直交系\((w_n)\)を持つ無限次元内積空間において、単位球はコンパクトではありません。

特に、可分な(可算な完全正規直交系を持つ)無限次元のヒルベルト空間(完備な内積空間)において、単位球はコンパクトではありません。

例えば、二乗可積分関数のなす空間\(L^2\)は、可分なヒルベルト空間であることが知られています。したがって、その単位球はコンパクトでないわけです。

 

証明していきましょう。\((w_n)\)を可算な正規直交系とします。

正規であることからノルムは常に1 \(\|w_n\|=1\)なので、\((w_n)\)は単位球\(B\)上の点列です。また、直交しているので、番号が異なればそれらの内積は0です。

したがって、さきほど同様のノルムと内積の関係から、\(n \neq m\)ならば

\[\begin{aligned}  &\|w_n-w_m\|^2 \\ &= \|w_n\|^2 -2\langle w_n,w_m\rangle+\|w_m\|^2 \\&=2\end{aligned}\]

です。どんな部分列を考えても、それはコーシー列でなく、したがって収束列ではありません。よって、単位球は点列コンパクトでないこと、コンパクトでないことが示せました。

 

少し工夫が必要になりますが、非常に一般的な条件で同様のことが言えます。

無限次元のノルム空間においては、単位球は必ずコンパクトではありません。(参考:黒田「関数解析」定理1.41)

例えば、\(C^k,\ell ^p, L^p\)の単位球はコンパクトではないのです。

以上の結果をまとめれば

  • ノルム空間が無限次元であることと、その単位球がコンパクトでないことは同値

となります。無限次元ならば単位球がコンパクトでないことは示しました。その逆「単位球がコンパクトでないならば無限次元」は、対偶「無限次元でない=有限次元ならば単位球はコンパクト」と言い換えられて、これはハイネ・ボレルの定理より正しいです。

同値の否定を取れば、

  • ノルム空間が有限次元であることと、その単位球がコンパクトであることは同値

と言えますね。

 

以上、\(\ell^2\)、無限次元ヒルベルト空間の単位球がコンパクトでないことの証明を紹介してきました。

ユークリッド空間、有限次元の空間に慣れていると、コンパクトと言えば有界な閉集合という印象を持つかもしれません。しかし、無限次元においては有界閉は十分ではないわけです。それを示す例として、今回の話を知ってもらえたら嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

 

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