関数空間が無限次元とは? 多項式関数を例に

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、関数空間が無限次元であるとはどういうことか、多項式関数を例に紹介したいと思います。

 



N次多項式関数のなす空間

以前、連続関数のなす集合\(C(\mathbb{R})\)は、線形空間となることを紹介しました(関数空間)

\[ \begin{aligned}C(\mathbb{R}) = \{f:\mathbb{R} \to \mathbb{R} \mid f は連続\}\end{aligned} \]

この空間は、実は無限次元となります。それを理解するために、連続関数のなす集合の部分集合、特に多項式関数からなる集合を考えましょう。

 

\(P_N\)を\(N\)次までの多項式の集合\(P_N (\mathbb{R})= \{f \mid a_N,\dots,a_0 \in \mathbb{R} が存在して、 \\ f(x) =a_N x^N +\cdots +a_1x +a_0 と表せる\}\)とすると、\(P_N\)は線形空間となります。

\(f(x)=a_N x^N +\cdots +a_1x +a_0\)、\(g(x)=b_N x^N +\cdots +b_1x +b_0\)と表されるとき、その和、スカラー倍を次のように定めましょう。

\[ \begin{aligned}f+g (x)=(a_N+b_N) x^N +\cdots +(a_1+b_1)x +(a_0+b_0)\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}cf(x)=c a_N x^N +\cdots +ca_1x +ca_0\end{aligned} \]

と定めると、それぞれ\(N\)次以下の多項式なので、\(f+g,cf \in P_N(\mathbb{R})\)です。

結合法則、分配法則、両立条件などは、値が実数値なので満たされます。

0ベクトルとしては、係数がすべて0の多項式\(g_0(x)=0\)が存在します。\(f\)の逆ベクトルとしては、\(-f(x):= -a_N x^N+\cdots+(-a_1)x+(-a_0)\)が選べます(それぞれ確かめてみてください)。

以上により、\(P_N\)は線形空間の条件を満たすことがわかりました。

 

例えば、\(x^2 +3 \in P_2\)です。(\(f(x)= x^2+3\)と置くと、\(f \in P_2\)であるという意味。\(3 \in P_2\)と書くとき、\(3\)とは\(g(x)=3\)という定数関数を表すことに注意しましょう。)

また、\(5x, 2 \in P_2\)は線形独立です。\(c_1 5x +c_0 2=0\)と仮定すると、\(x=0\)のときの等式から\(c_0=0\)です。\(5c_1 x=0\)において\(x=1\)のときの等式を考えれば、\(c_1=0\)です。よって、これらは線形独立であるとわかりました。

最大次数が異なる多項式は、線形独立となっているわけです。

 

一般には、\(P_N\)は\(N+1\)次元であることもわかります。

(有限次元の線形空間を考えるとき)次元とは基底の個数のことでした。\(S=\{x^N,x^{N-1},\dots,x,1\}\subset P_N\)として、\(S\)が\(P_N\)の基底であることを示しましょう。

\(S\)が基底であるとは、線形独立であり、任意の関数をその線形結合で表現できる(\(P_N\)を生成する)ことでした。

\(S\)が線形独立であることを確かめます。\(c_N,\dots,c_0\)なる係数で、\(c_Nx^N+\cdots +c_1x+c_0=0\)を満たすものが存在するとしましょう。これは関数としての等式であり、右辺は常に0の値を取る関数\(g_0\)を表し、任意の\(x\)について成り立つ式です。\(x=0\)のときを考えれば、\(c_0=0\)です。等式の両辺は\(x\)につき微分可能なので、微分すると、\(Nc_Nx^{N-1}+\cdots +c_1=0\)です。\(x=0\)における等式を見れば、\(c_1=0\)が得られます。これを繰り返せば、\(c_N=\cdots=c_1=c_0=0\)となり、\(S\)は線形独立です。

\(f \in P_N(\mathbb{R})\)を任意に取ると、\(f(x)=a_N x^N +\cdots +a_1x +a_0\)と表されます。これは\(S=\{x^N,x^{N-1},\dots,x,1\}\)の線形結合です。よって、\(S\)は\(P_N\)を生成しています。

以上によって、\(P_N\)は\(N+1\)次元の線形空間であることがわかりました。

 

無限次元の線形空間

今まではある次数\(N\)までの多項式を考えましたが、任意の次数の多項式をすべて集めた集合を考えることもできます。

\[ \begin{aligned}P(\mathbb{R})=\{f \mid あるN\in\mathbb{N}でf\in P_N(\mathbb{R})\\を満たすものが存在する\}\end{aligned} \]

 

\(P(\mathbb{R})\)は、さきほどまでの議論と同様にして、線形空間です。しかしながら、無限次元であることを示すことができます。

線形空間\(V\)が無限次元(infinite dimensional)であるとは、有限次元ではないこと、と定義します。

\(V\)が有限次元であるとは、ある\(k\in \mathbb{N}\)で「\(k\)個の線形独立なベクトルの集まり\(S\)で、\(V\)の任意のベクトルは\(S\)の線形結合で表せる」となるものが存在することでした。有限次元であるときは、その個数\(k\)は一定となります。

 

\(P(\mathbb{R})\)を有限次元であると仮定しましょう。その次元を\(k\in \mathbb{N}\)、基底を\(S_k\)とします。

仮定より、基底をなすベクトルの個数は\(k\)個なので、\(k+1\)個のベクトルは必ず線形従属となります。

一方で、\(S_{k+1}:=\{x^k,\dots,x,1\}\)とすると、上で行った議論により、\(S_{k+1}\)は線形独立です。

これらは矛盾するので、\(P(\mathbb{R})\)は有限次元ではない、すなわち無限次元であることがわかりました。

 

多項式関数のなす集合\(P_N,P(\mathbb{R})\)は、連続関数のなす空間\(C(\mathbb{R}\)\)の部分集合であり、それ自身線形空間でもあります。すなわち、部分空間です。

\(P(\mathbb{R})\)が無限次元なので、それを含む\(C(\mathbb{R}\)\)も無限次元であることがわかります。

以上の議論は、定義域やスカラーが実数\(\mathbb{R}\)でしたが、複素数\(\mathbb{C}\)でも同様になり立ちます。

 

今回の無限次元の定義では、無限次元空間の基底とは何か、については何も言っていないことに注意しましょう。あくまで、有限個の基底が存在しないことを、無限次元と呼んでいます。

無限次元線形空間の基底には、いくつか種類が知られています。例えば、関数空間\(L^2\)では、三角関数系\(\{\cos 0x, \cos kx, \sin kx\}_{k=1}^{\infty}\)が、完全正規直交基底と呼ばれる性質を持ちますが、これがフーリエ級数展開の原理です。

参考:線形代数の応用:関数の「空間・基底・内積」を使ったフーリエ級数展開

 

以上、無限次元の関数空間の例、多項式関数のなす空間を紹介しました。

線形代数学においては、線形空間を有限次元のものに限って議論することがほとんどです。しかし、連続関数のなす空間\(C(\mathbb{R})\)や可積分関数のなす空間\(L^p(\mathbb{R})\)といった関数空間は、一般には無限次元です。

フーリエ級数展開や偏微分方程式の理論では、関数空間を調べる必要があり、そのような分野は関数解析と呼ばれています。

関数のなす線形空間は、一般には有限個の基底を持たないこと、無限次元であることを、具体的に感じてもらえたら嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

線型代数入門 (基礎数学)
齋藤 正彦(著)
東京大学出版会 (1966-03-31T00:00:01Z)
4.3outof5stars
¥2,090

 

関数解析 共立数学講座 (15)
黒田 成俊(著)
共立出版 (1980-11-01T00:00:01Z)
4.4outof5stars
¥5,390

 

こちらもおすすめ

連続関数、可積分関数のなす線形空間、微分と積分の線形性とは

線形代数の応用:関数の「空間・基底・内積」を使ったフーリエ級数展開