どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、「AならばB」という形の命題の証明の書き方3種類、直接法、対偶法、背理法を紹介します。
「AならばB」を直接法で示す
「AならばB」を直接法で証明すること(direct proof)は、一番素直な方法です。すなわち、Aであることを仮定して、そこからBを導くことです。やってみましょう。
\(x\)が偶数ならば、\(x^3\)は偶数である
Aに該当するのは「\(x\)が偶数」で、Bに該当するのは「\(x^3\)が偶数」ですね。
「\(x\)が偶数ならば」という言い方をしているので、「\(x\)は整数である」と暗黙のうちに仮定されていることに注意しましょう。通常、整数\(x\)に対して偶数であるかどうかは議論されます。
さて、これを証明しましょう。
Aが正しいと仮定します。すなわち、\(x\)が偶数であることを仮定します。
偶数の定義より、\(x=2k\)となる整数\(k\)が存在します。
両辺を3乗しても等式は等しいので、\(x^3 = (2k)^3\)です。
右辺を計算すれば、\((2k)^3=8k^3 =2\cdot (4k^3)\)が成り立ちます。
\(\ell= 4k^3\)と置くと、整数同士の積は整数なので\(\ell\)は整数であり、\(x^3 = 2 \ell\)と表せます。
よって、偶数の定義より、\(x^3\)であること、Bが正しいことが示せました。
直接法の証明は、およそ次の形を取ります。
「AならばB」が正しいことを証明したい。
Aが正しいと仮定する。
\(C_1\)が成り立つ。
\(C_2\)が成り立つ。
…
\(C_k\)が成り立つ。
よって、Bが成り立つ。
出発点をAとして、そこから確かにわかる事実\(C_1,C_2,\dots,C_k\)を積み上げていき、そこからゴールBを導くのが証明です。
上の具体的な証明では、証明の中身\(C_1,C_2,\dots,C_k\)を示すために、偶数の定義、等式の性質、べき乗の定義、整数の性質などを用いました。こうした基本的でよく知られた事実を用いて、Bが正しいことを段階を踏んで述べましょう。
「AならばB」を対偶法で示す
「AならばB」を、直接法でなく示す方法があります。そのひとつが、対偶によって証明する方法(contrapositive proof)です。
「AならばB」の対偶とは、「Bでない ならば Aでない」という命題です。ある命題とその対偶の真偽は常に一致することが知られています。
そこで、対偶「Bでない ならば Aでない」が正しいことを示して、それによって「AならばB」が正しいことを示すという方針です。
具体的にやってみます。
\(x^2\)が奇数ならば、\(x\)は奇数である。
Aは「\(x^2\)が奇数」、Bは「\(x\)は奇数」に対応します。
これを直接法で示そうとして、\(x^2 =2k+1\)と置いてみます。平方根を取れば\(x =\sqrt{2k+1}\)となるわけですが、これが奇数となるかはただちにわかりません。\(x^2 =2k+1\)と表される時には\(k\)に条件がつき、そこから\(\sqrt{2k+1}\)が奇数となることを示す必要があります。できないわけではありませんが、面倒です。
そこで、対偶が示せないか考えてみます。
Aでないとは「\(x^2\)は偶数」、Bでないとは「\(x\)は偶数」です(すべての整数は奇数または偶数に分かれます。偶数でない数は奇数であり、奇数でない数は偶数)。したがって、対偶は「\(x\)は偶数ならば、\(x^2\)が偶数」です。これを示しましょう。
\(x\)を偶数であると仮定します。
偶数の定義より、\(x=2k\)となる整数\(k\)が存在します。
両辺を2乗しても等式は等しいので、\(x^2=(2k)^2\)です。
計算により\((2k)^2 = 2 \cdot 2k^2\)が成り立ちます。
\(\ell = 2k^2\)と置くと、\(\ell\)は整数の積なので整数で、\(x^2 =2 \ell\)が成り立ちます。
よって、偶数の定義より、\(x^2\)は偶数です。
対偶が示せたので、「\(x^2\)が奇数ならば、\(x\)は奇数である。」ことが示せました。
対偶による証明は、次の形を取ります。
「AならばB」が正しいことを、対偶「BでないならばAでない」を示すことによって証明したい。
「Bでない」が正しいと仮定する。
\(C_1\)が成り立つ。
\(C_2\)が成り立つ。
…
\(C_k\)が成り立つ。
よって、「Aでない」が成り立つ。
対偶が示せたので、「AならばB」が正しいことが示せた。
同じ真偽を表す命題でも、「AならばB」と「BでないならばAでない」は、場合によって示しやすさが違います。直接示そうとしてうまくいかないときは、対偶を使って言い換えてみると、簡単に示せることもあるでしょう。仮定Aが複雑な形、結論Bが単純な形のときは、対偶を使うと議論しやすいです。
対偶「BでないならばAでない」を、逆「BならばA」と混同しないように注意しましょう。「AならばB」とその逆には、真偽の対応関係は一般にありません。
例えば、「\(x\)が4の倍数ならば\(x\)は2の倍数」は正しい命題です。しかし、その逆「\(x\)が2の倍数ならば\(x\)は4の倍数」は偽の命題です。\(x=2\)は2の倍数ですが、4の倍数ではありません(倍数とは整数倍を考える)。
対偶「\(x\)は2の倍数でないならば\(x\)が4の倍数でない」は、もとの命題と真偽が一致して正しいです。
「AならばB」を背理法で示す
「AならばB」を直接的でなく示すもうひとつの方法が、背理法(proof by contradiction)です。
Aであることを仮定し、さらに結論Bが偽であると仮定すると、ある矛盾(contradiction)を導いてしまうことを示します。結論Bは真または偽ですが、偽である可能性が否定されたので、Bは正しいと示せた、という仕組みです。
具体的にやってみましょう。
\(x^2\)が奇数ならば、\(x\)は奇数である。
Aは「\(x^2\)が奇数」、Bは「\(x\)は奇数」に対応します。Bでないは「\(x\)は偶数」です。
「AならばB」を背理法によって示しましょう。
すなわち、\(x^2\)が奇数であり、かつ\(x\)が偶数であると仮定します。
奇数の定義から、\(x^2 =2k+1\)となる整数\(k\)が存在します。
偶数の定義から、\(x=2\ell\)となる整数\(\ell\)が存在します。
\(x=2\ell\)を2乗すると、\(x^2 =4 \ell ^2\)が成り立ちます。
これらの結果を合わせれば、\(4\ell ^2 = 2k+1\)が成り立ちます。
しかし、\(4\ell ^2\)は偶数であり、\(2k+1\)は奇数です。
偶数でありかつ奇数である数は存在しないので、\(4\ell ^2 \neq 2k+1\)が成り立ちます。
\(4\ell ^2 = 2k+1\)と\(4\ell ^2 \neq 2k+1\)が両方成り立つのは矛盾です。
よって、「\(x\)が偶数である」という仮定は偽で、「\(x\)が奇数である」ことが示せました。
背理法による証明は、次の形を取ります。
「AならばB」が正しいことを、背理法によって示す。
すなわち、AでありBでないときに矛盾を導くことを示したい。
Aが正しく、かつ「Bでない」が正しいと仮定する。
\(C_1\)が成り立つ。
\(C_2\)が成り立つ。
…
\(C\)かつ\(C\)でないが成り立つ(矛盾)。
よって、「Bでない」は偽である。
すなわち、「AならばB」が正しいことが示せた。
今回は「AならばB」でBの否定から矛盾を導くという方法を紹介しました。
単に「Aである」ことを示すために、「Aでない」と仮定して矛盾を導くことも背理法と呼ばれます。例えば、\(\sqrt{2}\)が無理数であることを証明するために、\(\sqrt{2}\)が有理数であると仮定して議論する方法は有名です。(背理法の他の例としては、素数が無限に存在すること、カントールの対角線論法など)
対偶による証明では、「AならばB」と「BでないならばAでない」が論理的に等価(同値)であることを利用しています。背理法による証明は、「AならばB」と結論の二重否定「Aならば「「Bでない」でない」」が等価であることを使っているわけです。
数学者のハーディは(ユークリッドによる)背理法を、「数学者の最高の武器の一つ」と形容しています。背理法は便利である一方で、直接法や対偶法に比べて、証明が単純でないように見えることがあります。
例えば、構成主義(constructivism)と呼ばれる立場からは、背理法により何かの存在を証明する議論は不十分であり、直接にその存在を構成する必要がある、とされます。
これは数学のひとつ捉え方(哲学)ではありますが、普通に数学の証明を書くにあたり、背理法自体を避ける必要はないと思います。証明が書けるならばその手段として背理法を使ってみて、その後に背理法を避けられるかどうか考えると良いでしょう。
以上、「AならばB」の示し方として、直接法、対偶法、背理法を紹介してきました。
同じ命題の示し方としても、文字通りにそのまま示すやり方と、対偶や二重否定を使って言い換えるやり方、どちらを取っても良いです。
事実にたどり着く道は唯ひとつではなく、簡単な道も難しい道もあります。ぜひ工夫しながら証明の方法に慣れてみてください。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
Richard Hammack (2019-07-19T00:00:01Z)
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