どうも、木村(@kimu3_slime)です。
(主に受験)数学において、「数学は暗記だ」「暗記は悪。理解すべき」といった議論をしばしば見かけます。
今回は僕が大学で数学を学んだ経験を通して、暗記との向き合い方、公式の覚え方について書いてみます。
暗記とは何か:語呂合わせを例に
そもそも、暗記とは何でしょうか。人によってイメージするものが違えば、まともな議論にはなりません。
[名](スル)文字・数字などを、書いたものを見ないでもすらすらと言えるように、よく覚えること。「英単語を―する」「丸―」「―力」
引用:暗記
「記憶」とかなり意味が似ていますが、暗記では「何も見ずにアウトプットできること」というニュアンスが加わっているようです。
字義通りに取るならば、暗記は勉強において良いことに見えます。覚えてアウトプットできるようになることに、損はないでしょう。
暗記の典型例としては、語呂合わせがあるでしょう。
数学ならば、ルート2の近似値\(\sqrt{2} \simeq 1.41421356\dots\)を「一夜一夜に人見ごろ」は有名です。僕も、化学において元素の周期表は、「水兵リーベ僕の船」で(最初は)覚えました。
語呂合わせは覚え方と意味が伴わない面があり、機械的な暗記と言えます。すぐに役立ちますが、理屈が伴わないので応用が効きません。
覚え方が確立されていて、かつ自分と相性が良い(すぐにゴロが覚えられた)なら有効でしょう。しかし、そうなっていない知識は多い、というかほとんどすべてのことがそうです。
すべて語呂合わせで覚えられるほど記憶力が良いならば、試験勉強で苦戦することは少ないでしょう。現実には、多くの人は意味や関連性のないこと、記号の羅列を多く覚えられません。少なくとも僕には無理でした。
できるだけ語呂合わせ(という非現実的手段)に頼らずに、暗記=「何も見ずにアウトプットできるくらい記憶する」をしたい。これを(受験)勉強における出発点と言えるでしょう。
公式の暗記、パターンマッチ教育への批判
しばしば、数学における公式の暗記を、数学の教育者や学習者、専門家が批判しているのを目にします。
よく例として挙げられるのが、小学校算数における、距離・時間・速さの関係。いわゆる「はじき(きはじ)」「くもわ」です。
筆者は初めてこれを見せられ話をきいたとき,受験生が距離と時間と速さの関係を“覚える”ということについて非常に驚いた.「きはじ」を使う生徒たちは「速さ」という概念をわかっているとはいえないだろう.
引用:「きはじ」と論理的思考
僕も実際、小学校や中学校で「はじき」の話を聞いたときに、「そんな無意味な覚え方をしたら、(数学力を高めるための授業のはずなのに)余計にわからなくなってしまうのではないか」と思っていました。
僕はその覚え方自体が無意味(効果がない)とは思いません。実際、それに当てはめることによって問題が解けるようになった生徒もいるでしょう。しかしそれでも批判されるのはなぜかといえば、「はじき」という言葉が表すようにそれが語呂合わせに近いからです。本来意味を持っている式を、意味がない呪文かのかのように扱ってしまうから問題視されるわけですね。
はじきの批判者は、「速さとは何か(速度の定義)」を理解せよ、と言っていると思います。
50mを走るのに20秒かかる人と10秒かかる人、どちらが速いですか、と言われたら多くの人は正しく答えられるでしょう。その「速さ」の感覚を数量化する必要があります。
前者は1秒あたり、(平均して)2.5m動いています。後者は1秒あたり5m動いています。動いた距離を、移動時間で割って比べてあげれば良いわけです。速さとは、移動距離を移動時間で割った割合のことで、
\[ \begin{aligned}速さ=\frac{距離}{時間}\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}v = \frac{\Delta x}{\Delta t}\end{aligned} \]
これが速さの定義式です。速さとは何かがわかっていれば、速さがわかっているときに移動距離を求めることもできます\(\Delta x = v \Delta t\)。
- 速さとは、割合(比)である→分数(割り算)で表される
- 何と何の割合か→移動時間に対する位置の変化(距離)の割合
ということを、具体例を持ち出しつつ説明できるようになれば、「はじき」を覚える必要はないでしょう。
結局、「「はじき」と言わずともこれは暗記ではないか?」と言われれば、僕はその通りだと思います。「速さとは何か」という取り決めは、人々の間で共有されたものを用いなければ通じないので、暗記せざるを得ません。しかし覚えるにしても、そこは速さという言葉の意味が伴っているのです。
(「はじき」が広まる原因のひとつには、小学校算数では記号・中学校の数学を用いてはならない的な不文律もあるでしょう。\(v=x/t\)といった簡単な文字式表示を教えられないから、「はじき」に頼る面があるのではないでしょうか。僕としては、簡単な文字式を学んでから、速さについてきちんと知るので良いと思ってます。)
公式の覚え方:意味を具体的に関連させて理解しよう
「数学で暗記は良くない」という批判の声はありながらも、結局は語呂合わせ的な手法に頼るのは、式から意味を読み解くのが難しいからだと思います。生徒や指導者が、意味を理解できないから、(非効率ではあるが)丸暗記せざるを得ないのでしょう。
僕の今までの経験によると、意味を理解し、「暗記=何も見ずにアウトプットできる」をするための工夫には、2つあります。
- 具体的に考える
- 物事を関連させる
まずは、具体的に考えることです。簡単なケースを試すことです。これは、数学を学ぶ最強のコツだと思っています。
例えば、次のような式が因数分解の「公式」とされていたりします。これを暗記したいとしましょう。
\[ \begin{aligned}(a+b)^2=a^2+2ab+b^2\end{aligned} \]
\(a=1,b=1\)という具体的な数をあてはめて計算してみます。左辺は\((1+1)^2=2^2 =4\)です(チェック:2乗の意味、計算の順序を理解していますか?)。右辺は、\(1^2+2\cdot1\cdot1 +1^2=1+2+1=4\)です。確かにこのケースでは成り立っています。
こうやって具体値について公式が正しいか調べていると、自然と公式の形(使い方)は身についてくるものです(自転車の乗り方やスポーツを覚えるようなもの)。
(この展開式は、長方形の面積として幾何学的に見ることでも理解できます)
もうひとつのコツは、関連付けることです。これは何も数学に限らないことですが。
さきほどの式の左辺は、数の分配法則によって計算できて
\[ \begin{aligned} (a+b)^2&=(a+b)(a+b) \\ &=a(a+b)+b(a+b)\\ &=a^2+ab+ba+b^2 \\ &=a^2+2ab+b^2\end{aligned} \]
となることがわかります(これが公式の証明です)。分配法則というのは、
\[ \begin{aligned}c(a+b)=ca+cb\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}(c+d)(a+b)=c(a+b)+d(a+b)\end{aligned} \]
といった性質のことです。\((a+b)^2=a^2+2ab+b^2\)は、この分配法則の特殊なケース\(c=a,d=b\)にすぎません。
つまり、数の分配法則の扱いがわかっていれば、覚えようとしていた公式は覚えるほどでなく、簡単に導けることがわかります。このように、物事を関連付けることができれば、覚える量自体が少なくなります。
一見してバラバラの物事を覚えようとするのではなく、他の物事との共通点や違いを探していると、暗記は簡単になります。
これは一般的に、普遍的に考えるということです。具体的に考えた経験・題材が多くないと、関連付けるのは難しいでしょう。最初は、手の届くレベルから始めるのが良いと思います。
例えば、円の円周と面積、球の体積と表面積の公式は、微積分を知っていると相互に関連していることがわかります。たとえ微積分そのものを知らなくとも、相互に関係していると知れば、少しは覚えるのが楽になるでしょう。
以上、数学における暗記との向き合い方、公式の覚え方について書いてきました。
暗記=何も見ずにアウトプットできることは、大事な力です。大学の数学の勉強発表(ゼミ)では、ノートを使わずに発表できるくらい理解することが求められます。そこで語呂合わせに頼るのには当然限界があるので、意味を捉えて暗記するのが大事です。そのコツは、具体化すること、関連付けることでした。
数学や公式の理解、暗記について、この記事が考えるきっかけになれば嬉しいです。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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