時間つき関数空間、バナッハ空間値関数とは

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、時間つき関数空間、バナッハ空間値関数について紹介します。

 



導入

熱方程式を含む一般的な放物型方程式

\[\frac{\partial u}{\partial t} -\Delta u =f(x,t)\]

\[u =0 \quad \mathrm{on } \Omega\]

\[u(x,0) =u_0\]

を、強い意味での微分ではなく、弱微分について意味を持つように定式化するという問題を考えましょう。

ポアソン方程式を弱形式にする場合、方程式は空間\(x\)のみに関する微分を含み、未知関数\(u(x)\)は\(u \in H_0 ^1\)を満たす、といったように表現できました。

しかし放物型方程式の場合、関数は空間と時間の変数を持ち、\(u(x,t)\)となります。\(u \in H_0 ^1\)といって空間方向の条件を指定したとしても、時間方向について曖昧です。もしくは、両者に同じ条件を課さなくなくてはならなくなります。そこで、時間と両方の条件を別々に指定した関数空間を用意しましょう。

 

時間つき関数空間、バナッハ空間値関数とは

\(I \subset \mathbb{R}\)を時間を表す区間、\(X\)をバナッハ空間(完備ノルム空間。例えば関数空間)としましょう。

関数\(u(x,t)\)を、\(t\)を決めれば\(x\)の関数が決まる\([u(t)](x):=u(x,t)\)と見ることで、\(u(t):I \to X\)というバナッハ空間に値を取る関数として見ることができます。そこで、

\[L^p (I,X)\\ := \{u:I \to X \\ \mid \|u\|_{L^p(0,T;X)} := (\int_I \| u(t)\|_X ^p dt)^\frac{1}{p}\}<\infty\]

と定義します。このバナッハ空間値関数のなす空間を時間つき関数空間と呼びましょう。

 

\(L^p\)だけではなく、連続関数のなす空間\(C^0(I,X)\)やソボレフ空間\(W^{k,p}(I,X),H^k(I,X)\)も同様に定義できます。

例えば、\(u \in H^1((0,T),L^2(\Omega))\)とは、時間\(t\)については\(H^1\)の関数、空間\(x\)については\(L^2\)の関数のことです。ノルムを書き下すと

\[\begin{aligned}  & \|u\|_{H^1((0,T),L^2(\Omega))}\\ &= (\int_0 ^T \| u(t)\|_{L^2} ^2 +\|\frac{du}{dt}(t)\|_{L^2}^2 dt)^\frac{1}{2} \\&= (\int_0 ^T (\int_{\Omega} |u(t,x)|^2 dx) + (\int_{\Omega} |\frac{\partial u}{\partial t}(t,x)|^2 dx) dt)^\frac{1}{2} \end{aligned}\]

ですね。

 

バナッハ空間値関数に対しても、弱微分が同様に定義できます。\(u,v \in L^1((0,T),X)\)について、\(u\)の(時間)弱微分が\(v\)である(\(\frac{du}{dt} =v\))とは、すべてのテスト関数\(\phi \in C_c ^\infty\)に対し、

\[\int_0^T u(t) \frac{d\phi}{dt}(t)dt = – \int_0^T v(t) \phi (t)dt\]

が成り立つことです。時間と空間を分離した表記であるため、時間微分が常微分の記号\(\frac{d}{dt}\)になっています。

弱微分との内積については、\(u \in L^2((0,T),H^1(\Omega)\)、\(\frac{du}{dt} \in L^2((0,T),H^{-1}(\Omega)) \)ならば、

\[\frac{d}{dt}\|u(t)\|_{L^2}^2 = 2 \langle \frac{du}{dt},u\rangle \]

が成り立つことが知られています。

 

以上、時間つき関数空間、バナッハ空間値関数について紹介してきました。

少し複雑な表記になりますが、多変数関数\(u(x,t)\)を、\(t\)を固定して\(x\)の関数が定まる、バナッハ空間値の関数として見ることで、時間を含む問題を扱いやすくなります。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

 

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