負の指数のソボレフ空間H^{-k}、双対空間とは

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、負の指数のソボレフ空間\(H^{-k}\)とは何かを紹介します。

 



定義

関数空間を用いた偏微分方程式の議論では、弱微分可能な関数のなす空間:ソボレフ空間\(W^{k,p},H^k =W^{2,p}\)を考えます。

ここで指数\(k\)は非負の整数として定義されましたが、それが負:マイナスになるケースもしばしば用いられます。

\(H^{-k}(\Omega)\)の定義は、境界で0の値を取るソボレフ空間\(H_0 ^k(\Omega)\)の双対空間です。

一般に、ノルム空間\(V\)の(連続的)双対空間(dual space)\(V^{*}\)とは、\(V\)上の有界な線形汎関数のなす線形空間のことです。

線形汎関数とは、線形写像であって、実数値を対応させるような関数\(F:V \to \mathbb{R}\)です。有界であるとは、「\(|F(u)| \leq M \|u\|_V\)」を満たす\(M\)が存在することです。

 

\(k=1\)のケースとして、\(H_0 ^1 \)の双対空間\(H^{-1}\)について具体的に考えていきましょう。

 

\(f,g \in H_0 ^1\)に対し、

\[T_1 (f) : = \int_{\Omega} f(x) g(x)dx\]

と定めると、\(T_1 \)は線形汎関数で、\(T_1 \in H^{-1}\)です。

なぜなら、積分を取るという操作は線形性を持つので、\(T_1\)は線形写像です。また、実数値関数の積分は実数値なので、\(T_1\)は実数値関数となっています。さらに、コーシー・シュワルツの不等式より

\[\begin{aligned}  &|T_1(f)| \\ &= |\langle f,g \rangle_{L^2}| \\ & \leq \|f\|_{L^2} \|g\|_{L^2} \\ &\leq \|g\|_{L^2} \|f\|_{H_0 ^1}\end{aligned}\]

となるので、\(M=\|g\|_{L^2} \)として見れば、\(T_1\)は有界です。以上により、\(T_1\)は有界線形汎関数、すなわち\(T_1 \in H^{-1}\)がわかりました。

 

別の例として、\(\Omega \subset \mathbb{R}\)として、

\[T_2 (f) : = \int_{\Omega} f^{\prime}(x) g^{\prime} (x)dx\]

と定めると、\(T_2 \)も線形汎関数なので、\(T_2 \in H^{-1}\)です。\(f,g\in H_0 ^1\)から、1回までの弱微分が可能であることに注意しましょう。

 

超関数は、\(C_c^\infty (\mathbb{R})\)上の連続な(有界な)線形汎関数です。\(H_0 ^k\)は\(C_c ^\infty \)の\(H^k\)ノルムによる閉包として定義されました。したがって、超関数は常に\(H^{-k}\)の要素です。

例えば、デルタ関数は\(\delta \in H^{-1}\)です。

 

関数\(f\)を

\[ f(x)= \left\{ \begin{array}{lr} 0 && (x<0) \\ x && (x\geq 0) \end{array} \right. \]

と定めると、\(f \in H^1\)です。その1階弱微分はヘビサイド関数\(H \in L^2 =H^{0}\)、(超関数の意味での)2階弱微分は\(\delta \in H^{-1}\)となっています。

一般に、\(k\)を整数、\(\alpha\)を多重指数として、\(u \in H^k(\Omega)\)ならば\(D^{\alpha} u \in H^{k-|\alpha|}(\Omega)\)となることが知られています。

こうした性質をもつので、\(H^k\)の双対空間を\(H^{-k}\)という表記法で表すわけですね。

 

ポアソン方程式

負の指数のソボレフ空間は、偏微分方程式の弱解を調べるために用いられます。

 

ポアソン方程式

\[-\Delta u (x)=f(x) \quad (x \in \Omega) \]

\[ u (x)=0 \quad (x \in \partial\Omega) \]

弱形式は、\(\phi \in H_0 ^1\)に対し、

\[-\int_\Omega \langle \nabla u, \nabla \phi \rangle dx = \int_\Omega f(x)\phi (x)dx \]

と表されます。

この形の式を定義するには、\(f \in L^2\)である必要すらなく、\(f \in H^{-1}\)でありさえすれば良いです。右辺は超関数の\(\phi\)における値\(\langle f, \phi \rangle\)として見ることができます。

 

\(f \in H^{-1}\)に対し、ポアソン方程式は弱解を持つことが知られています。

解が一意に存在することを示すために用いるのは、リースの表現です。

リースの表現定理(Riesz representation theorem)

 

\(H\)を完備な内積空間(ヒルベルト空間)とする。

どんな有界線形汎関数\(\ell \in H^{*}\)に対しても、次の条件を満たす\(x_\ell \in H\)が一意に存在する。

すべての\(y \in H\)に対し、\(\ell (y)= \langle x_{\ell},y \rangle \)

\(H= H_0 ^1\)で、\(H^{*}=H^{-1}\)のケースを用いるわけですね。

おおざっぱに言えば、方程式の左辺\(-\int_\Omega \langle \nabla u, \nabla \phi \rangle dx\)は、\(H_0 ^1\)上の内積\(\langle u, \phi \rangle_{H_0^1} \)として見ることができます。右辺は有界線形汎関数です。したがって、リースの表現定理より、\(u \in H_0 ^1\)で、\(\langle u,v\rangle_{H_0^1} = \langle f, \phi \rangle\)を満たすようなもの、すなわち弱解が存在するといえます。

 

以上、負の指数のソボレフ空間\(H^{-k}\)を紹介してきました。

正の指数を持つソボレフ空間\(H^k\)の要素を超関数の意味で弱微分していくと、\(H^{-k}\)の要素になります。

双対空間\(H^{-k}\)を考える意義のひとつとして、リースの表現定理によって偏微分方程式の弱解が構成できることが伝われば嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

 

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