ヒルベルト空間の対称作用素とは:簡単な例

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、ヒルベルト空間の対称作用素とは:簡単な例を紹介します。

 



導入と定義

行列の固有値について考えるときに、対称行列は良い性質を持っていました。固有値が実数であり、必ず対角化できるというものです。

関数空間における線形作用素についても、固有値に関して良い性質を持っている作用素として、対称作用素を考えてみましょう。

 

行列については転置行列\(A^{\top}\)を用いて、転置と等しい\(A= A ^{\top}\)を対称行列の定義とできます。

しかし、線形作用素\(F:H \to H\)は、行列のような成分表示を一般には持っていません。関数空間\(H\)が無限次元であり、基底によって有限個の表示(行列表現)ができないからです。

ただし、内積を使って別の形で対称行列の定義を表すことはできます。

すべての\(x,y\)に対し

\[ \begin{aligned}\langle Ax,y\rangle= \langle x,By\rangle\end{aligned} \]

を満たすような行列は、\(B= A^{\top}\)です。

この性質をもって、対称作用素の定義としましょう。

 

\(H\)をヒルベルト空間(完備な内積空間)、\(\langle \cdot,\cdot \rangle_H \)をその内積、\(F:H \to H\)を線形作用素とします。

\(F\)が対称作用素(symmetric operator)であるとは、すべての\(u,v \in H\)に対し、\(\langle F(u),v\rangle_H =\langle u,F(v)\rangle_H\)が成り立つことです。

行列、有限次元のケースではあまり意識しませんでしたが、この定義では内積を利用しています。

 

対称行列

例えば

\[A=\begin{pmatrix}0 & -1 \\-1 & 1 \\\end{pmatrix}\]

という対称行列は、\(A: \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2\)と見て対称作用素です。

一般に、対称行列\(A :\mathbb{R}^N \to \mathbb{R}^N\)は対称作用素の定義を満たします。そもそも、そうなるように対称作用素を定義したわけです。

 

 

ヒルベルト・シュミット積分作用素

\(\Omega \subset \mathbb{R}^N\)を開集合とし、2変数関数\(k (x,y) \in L^2(\Omega \times \Omega)\)を使って、積分作用素\(K: L^2(\Omega) \to L^2(\Omega)\)を

\[[K(u)](x): = \int_{\Omega}k(x,y)u(y)dy\]

と定めます。\(K\)はヒルベルト・シュミット積分作用素(Hilbert-Schmidt integral operator)と呼ばれます。\(k\)を\(K\)の積分核( integral kernel)と呼びます。

 

もし\(k\)が対称\(k(x,y)=k(y,x)\)ならば、\(K\)が対称作用素となることを示しましょう。

フビニの定理より、積分の順序交換が可能です。

\[\begin{aligned}  &\langle K(u),v\rangle_{L^2}  \\ &=\int_{\Omega}[K(u)](y) v(x)dx \\ &= \int_{\Omega}(\int_{\Omega}k(x,y)u(y)dy) v(x)dx \\ &= \int_{\Omega}\int_{\Omega} k(x,y)u(y)v(x)dx dy \\ &=\int_{\Omega}\int_{\Omega} k(y,x)u(y)v(x)dx dy \\ &= \int_{\Omega}u(y)(\int_{\Omega} k(y,x)v(x)dx) dy \\&=\int_{\Omega}u(y) [K(v)](y)dy \\&=\langle u,K(v)\rangle_{L^2}   \end{aligned}\]

となるので、\(K\)は対称です。

 

対称でない例を作ってみましょう。\(N=1\)、\(\Omega =(0,1)\)、\(k(x,y)=x\)、\(u(y)=1\)、\(v(x)=x\)とします。すると、

\[\begin{aligned}  &\langle K(u),v\rangle_{L^2}  \\ &= \int_0^1(\int_0^1 x\cdot 1 dy) xdx \\ &=\int_0^1 x^2 dx \\&= \frac{1}{3}\end{aligned}\]

\[\begin{aligned} &\langle u,K(v)\rangle_{L^2}  \\&=\int_0^1 1 (\int_0^1 y xdx) dy \\ &= \int_0^1 \frac{1}{2}y dy \\ &= \frac{1}{4}\end{aligned}\]

となり、両者は一致しないので\(K\)は対称ではありません。

 

積分核が対称なときのヒルベルト・シュミット積分作用素は、コンパクトな対称作用素の例として重要です。コンパクトな対称作用素は「対角化」可能であることが知られています。

その応用例として、ストゥルム・リウビル型微分方程式の固有値・固有関数系の性質が知られています。

 

ラプラシアン

ラプラシアン\(\Delta : C_c^\infty (\Omega)\to C_c^{\infty}(\Omega)\)

\[[\Delta u](x) := \sum_{k=1}^N \frac{\partial^2 u}{\partial x_k ^2}(x)\]

は、\(L^2\)内積について対称作用素です。

 

\(C_c ^\infty\)はテスト関数のなす空間で、境界で値が0になります。部分積分によって境界での項が消えるので、

\[\begin{aligned}  &\langle \Delta u, v \rangle_{L^2}\\ &= \int_{\Omega} (\Delta u(x)) v(x)dx \\&= \int_{\Omega}\sum_{k=1}^N \frac{\partial^2 u}{\partial x_k ^2}(x)v(x)dx \\ &= – \int_{\Omega}\sum_{k=1}^N \frac{\partial u}{\partial x_k }(x)\frac{\partial v}{\partial x_k }(x)dx \\&=\int_{\Omega}\sum_{k=1}^N u(x)\frac{\partial^2 v}{\partial x_k^2 }(x)dx \\&= \int_{\Omega}u(x)(\Delta v (x))dx\\ &=\langle  u, \Delta v \rangle_{L^2} \end{aligned}\]

となり、対称作用素です。

 

これを弱形式として一般化し、\(A:= -\Delta\)、\(A:H_0^1 (\Omega) \to H^{-1}(\Omega)\)を

\[ \langle A(u),v \rangle:=a(u,v)  \]

\[a(u,v):= \int _{\Omega} \langle\nabla u ,\nabla v\rangle dx\]

により定めても、対称作用素です。(ここで\(H^{-1}\)は\(H_0^1\)双対空間です。リースの表現定理より、これらは同一視できます。)

なぜなら、

\[\begin{aligned}  & \langle A(u),v \rangle\\ &=a(u,v)\\&=\int _{\Omega} \langle\nabla u ,\nabla v\rangle dx\\&= \int _{\Omega} \langle \nabla v,\nabla u\rangle dx \\&=a(v,u)\\&= \langle A(v),u\rangle \end{aligned}\]

となるので。

ラプラシアン\(A=-\Delta\)は、\(L^2\)においては有界ではありません。したがって、コンパクト作用素でもありません

つまり、対称コンパクト作用素の固有値に関する一般論が適用できません。しかし、\(A\)はコンパクトな逆作用素を持つことが知られていて、そこから固有値の情報が引き出せます。

 

以上、ヒルベルト空間の対称作用素とは:簡単な例を紹介してきました。

対称作用素はノルムや固有値について良い性質を持っていますが、それについては別記事にて。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

 

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