線形写像の単射・全射の条件:核・像、基底・次元との関係、証明

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、線形写像の単射・全射に関する同値な条件として、核・像、基底・次元との関係、証明を紹介します。

前提知識:集合の要素、部分集合、等しいことの証明の書き方写像の単射・全射・全単射の判定、証明の書き方

 



単射な線形写像

\(V,W\)を有限次元の線形空間、\(f:V \to W\)を線形写像とすると、次のことが言えます。

次の条件は同値。

  1. \(f\)が単射である
  2. \(\ker f = \{0\}\)
  3. \(\dim (\ker f)= 0\)
  4. \(a_1,\dots, a_n \)を\(V\)の基底とすると、\(f(a_1),\dots,f(a_n)\)は線形独立。

 

確かめてみましょう。

1を仮定して2を示します。核の定義は\(\ker f =\{ x \in V \mid f(x)=0\}\)です。\(f\)は線形写像なので、\(f(0)=0\)です。したがって、\(0 \in \ker f\)であり、\(\ker f \supset \{0\}\)は成り立ちます。一方、\(x \in \ker f\)を任意の要素としましょう。\(f\)が単射であるとは、任意の\(x,y \in V\)に対し、もし\(f(x)=f(y)\)ならば\(x=y\)が成り立つことでした。今回は、\(f(x)= 0 =f(0)\)が成り立っているので、単射性より\(x= 0\)です。よって、\(x \in \{0\}\)で、\(\ker f = \{0\}\)が言えました。

2を仮定して1を示します。\(x,y \in V\)に対し、\(f(x)= f(y)\)が成り立つと仮定します。\(f\)の線形性より、\(f(x)-f(y)=f(x-y)=0\)です。核の定義から、\(x-y \in \ker f \)となります。仮定より\(\ker f = \{0\}\)なので、\(x-y=0\)、\(x=y\)で、\(f\)の単射性が言えました。

2と3の同値性は良いでしょう。\(\{0\}\)という線形空間の次元は0ですし、次元が0の線形空間は\(\{0\}\)のみです。

2を仮定して4を示します。\(w_1 f(a_1)+\cdots +w_n f(a_n)=0\)という線形関係が成り立つとしましょう。\(f\)の線形性を使って左辺をまとめると、\(f(w_1 a_1 +\cdots +w_n a_n)=0\)です。核の定義より\(w_1 a_1 +\cdots + w_na_n  \in \ker f\)ですが、仮定\(\ker f = \{0\}\)より\(w_1 a_1 +\cdots + w_na_n=0\)です。ここで\(a_1,\dots, a_n\)は\(V\)の基底、特に線形独立なので、\(w_1 =\cdots =w_n =0\)で、\(f(a_1),\dots,f(a_n)\)の線形独立性が言えました。

4を仮定して2を示します。先程同様、\(\ker f \supset \{0\}\)は成り立ちます。一方、\(x \in \ker f\)を任意の要素としましょう。\(a_1,\dots, a_n\)は\(V\)の基底なので、\(x= x_1 a_1+\cdots +x_n a_n\)と表せます。また核の定義から\(0=f(x)=f(x_1a_1+\cdots +x_n a_n)\)ですが、右辺は\(f\)の線形性を用いて\(x_1f(a_1) +\cdots +x_n f(a_n)\)に等しいです。仮定より\(f(a_1),\dots, f(a_n)\)は線形独立なので、\(x_1 =\cdots =x_n =0\)となります。すなわち、\(x=0\)が得られ、\(\ker f = \{0\}\)が言えました。

 

全射な線形写像

線形写像が全射であることについては、次のことが言えます。

次の条件は同値。

  1. \(f\)が全射である
  2. \( f(V) = W\)
  3. \(\dim (f(V))=  \dim W\) (\(f\)のランクは最大。フルランク)
  4. \(a_1,\dots, a_n \)を\(V\)の基底とすると、\(f(a_1),\dots,f(a_n)\)は\(W\)を生成する。

 

確かめてみましょう。

1と2の同値性。像とは、\(f(V ) = \{y \in W \mid ある x\in V によって f(x)=y と表せる\}\)という集合でした。なので、\(f(V) \subset W\)です。\(f\)が全射であるとは、どんな要素\(y \in W\)に対しても\(f(x) =y\)を満たす\(x\in V \)が存在することでした。仮に\(y \in W\)を任意の要素とすると、\(f\)の全射性から\(y \in f(V)\)で、\(f(V)= W\)が言えます。逆に\(f(V) =W\)を仮定すると、どんな要素\(y \in W\)に対しても、\(y \in f(V)\)でもあるので、\(f(x)=y\)と表せて、\(f\)の全射性が言えました。この言い換えは、\(f\)が線形写像でなくても一般に成り立つものです。

2と3の同値性。2から3は、一方の基底がもう一方の基底にもなるので、その個数=次元は等しいです。3から2は、\(f(V )\subset W\)より、\(f(V)\)の基底\(S\)は\(W\)の線形独立なベクトルです。有限次元のベクトル空間\(W\)では、線形独立な\(S\)にいくつかの要素を加えて\(W\)の基底\(B\)を作れます。仮定より次元が等しいので、\(S=B\)です。よって\(W\)の要素は\(f(V)\)の基底の線形結合で表せるので、\(W \subset f(V)\)が言えました。

1を仮定して4を示します。\(y \in W\)を任意の要素とすると、\(f\)の全射性から\(f(x)=y\)を満たす\(x\in V\)が存在します。基底を使えば、\(x= x_1a_1+\cdots +x_n a_n\)と表せます。\(f\)の線形性を使えば、\(y=f(x)=x_1 f(a_1)+\cdots +x_n f(a_n)\)です。\(f(a_1),\dots,f(a_n)\)が\(W\)を生成することが示せました。

4を仮定して1を示します。\(y \in W\)を任意の要素とすると、\(f(a_1),\dots,f(a_n)\)は\(W\)を生成していることから、\(y= y_1f(a_1)+\cdots+ y_n f(a_n)\)と表せます。\(f\)の線形性を使えば、\(y=f(y_1a_1+\cdots+y_na_n)\)です。\(y_1 a_1+\cdots +y_na_n \in V\)なので、\(f\)の全射性が言えました。

 

全単射な線形写像:同型写像

今までの結果をまとめれば、次のことが言えます。

次の条件は同値。

  1. \(f\)が全単射である
  2. \(a_1,\dots, a_n \)を\(V\)の基底とすると、\(f(a_1),\dots,f(a_n)\)は\(W\)の基底。
  3. \(\dim V  = \dim W\)
  4. \(f(x)=Ax\)を満たす行列\(A\)(表現行列)が正方行列で、可逆である

1と4の同値性については:可逆な行列(正則行列)、逆行列とは?例と同値な条件

 

線形写像\(f\)は、単射ならば基底の線形独立性を保ち、全射なら基底が生成することを保ちます。合わせて、全単射であるならば基底であることを保つと言えます。線形空間\(V,W\)には、要素ひとつひとつに対応関係があり、特にそれぞれの基底の個数まで保たれるのです。

上の条件のいずれかを満たす線形写像\(f\)を、線形同型写像(linear isomorphism)と呼びます。また、同型写像があるとき、2つの線形空間\(V,W\)は同型であると言い、\(V \simeq W\)と書きます。一見異なるように見える線形空間があったとしても、同型写像があれば線形空間としては実質同じなのです。

\(V\)がよくわからないけれども有限次元の線形空間とわかったとしましょう。その次元を\(n\)とすれば、それはユークリッド空間\(V \simeq \mathbb{R}^n\)です。同型の考え方を使えば、線形空間というかなり一般的な枠組みを、数の空間や行列の理論に落とし込んで考えられるわけですね。

線形代数に限らず、数学では2つの対象が構造的に等しいと見れるときに、同型という用語を使います。

参考:群論入門~回転群と巡回群を例に、群の定義・同型・位数を解説無限集合の濃度とは? 写像の全単射、可算無限、カントールの対角線論法

 

以上、線形写像が単射・全射であることについて、核・像、次元・基底との関係、証明を紹介してきました。

線形写像が単射や全射であることは、線形独立や生成といった線形代数の用語で言い換えることができます。特に、全単射なときは2つの線形空間の基底を保つ写像となり、空間が同じ(同型)であるという見方が見えてきます。さまざまな線形空間を理解するためにも、それを他の線形空間と関連づける線形写像の扱いに慣れてみてはいかがでしょうか。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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