写像の単射・全射・全単射の判定、証明の書き方

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、写像の単射・全射・全単射かどうかの判定、証明の書き方を、簡単な例で紹介します。

 



写像の単射・全射・全単射の判定

写像とは

\(f_1 (x)=2x\)をごく簡単な例として扱いましょう。これは実数\(x\in \mathbb{R}\)に対し、\(2x \in \mathbb{R}\)を対応させています。このような関係は、写像や関数と呼ばれるものです。

\(A,B\)を集合とします。\(A\)のすべての要素\(a\)に対し、\(f(a) \)と表される\(B\)の要素がただひとつ定まるとき、その対応\(f\)を\(A\)から\(B\)への写像(mapping)と呼びます。\(A,B\)が数の集合であるとき、写像は関数(function)と呼ばれます。\(A\)は\(f\)の定義域(domain、\(B\)を終域(codomain)と呼びます。

\(f_1(x)=2x\)は、\(\mathbb{R}\)から\(\mathbb{R}\)への関数です。定義域、終域を明示するときは、\(f:\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)と書きます。

 

単射とは

あらゆる写像には、単射かどうかという区別があります。

\(f:A\to B\)が単射(injectiveであるとは、異なる要素\(x,y \in A\)を必ず異なる要素\(f(x)\neq f(y)\)に対応させている、ということです。つまり、任意の\(x,y \in A\)に対し、\(x\neq y\)ならば\(f(x)\neq f(y)\)が成り立つことです。

 

\(f_1(x)=2x, f_1:\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)が単射であるかどうか調べてみましょう。

いろいろな値を代入してみて、結果が異なる値になるか考えてみます。\(1\mapsto 2,2\mapsto 4,\dots\)、どうやら単射である気がします。

単射であることを示しましょう。まず、\(x,y \in\mathbb{R}\)を異なる2つの実数\(x\neq y\)と仮定します。異なるインプット2つを、不定のものとして用意するわけです。そして、それを送った結果\(f(x),f(y)\)が必ず異なることを示せば良いです。実際、\(f_1(x)=2x ,f_1(y)=2y\)で、\(x\neq y\)の仮定より、\(2x \neq 2y\)が成り立っています。よって、\(f_1\)は単射であると言えました。

 

単射でない関数の例を考えてみましょう。異なる入力に対して、結果が一致してしまうような例を考えれば良いです。

\(f_2(x)=x^2 ,f_2 :\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)は単射でしょうか?

「すべての」の否定は「ある」になります。\(f\)が単射でないとは、\(x\neq y\)であるが、\(f(x)=f(y)\)となる要素\(x,y \in A\)が存在することです。ひとつでもそういう例があれば、単射ではありません。

\(f_2\)が単射でないことを示します。\(1,-1\)に注目します。\(f_2(1)=1,f_2(-1)=1\)で、両者は一致しています。一方で、\(1\neq -1\)です。よって、\(f_2\)が単射でないと言えました。

単射でないことを示すには、ひとつでも存在を示せば良いので、別の例でも単射でないことを示せます。\(2,-2\)でも、\(\sqrt{2},-\sqrt{2}\)でもOKです。

 

全射とは

変数を変化させたとき、\(f(x)\)がすべての行き先にわたって変化するとき、全射であると呼ばれます。

\(f\)が全射(surjective)であるとは、すべての\(b\in B\)に対し、\(f(a) =b\)と表せる\(a \in A\)が存在することです。

\(f\)が単射でありかつ全射であるとは、\(f\)は全単射(bijective)であると呼ばれます。

 

\(f_1(x)=2x, f_1:\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)が全射であるかどうか調べてみましょう。

\(x\)を変化させると、\(2x\)はすべての実数に変化しそうです。

全射であることを示します。まず、行き先となる実数\(y \in \mathbb{R}\)を任意に選びます。これを\(f_1(x)=y\)と表せるかどうか、という問題です。\(y\)に応じて、\(x\)をどう決めればよいのか、指定してあげましょう。今回は\(2x=y\)となれば良いわけですから、\(x=\frac{y}{2}\)とすれば良いです。\(x\)は確かに実数で、\(f_1(x)=y\)を満たすので、\(f_1\)が全射であることが示せました。

\(f_1\)は単射であり全射であることがわかったので、\(f_1\)は全単射です。

 

\(f_2(x)=x^2 ,f_2 :\mathbb{R}\to \mathbb{R}\)は全射でしょうか?

\(4\)は\(f_2 (2)=4\)と表せます。正の数を表すことはできそうです。しかし、常に\(x^2 \geq 0\)なので、負の数を表すことはできません。

「すべての」の否定は「ある」になり、「存在する」の否定は「すべての」になります。\(f\)が全射でないとは、ある要素\(b\in B\)で、次の条件を満たすものが存在することです、すべての\(a \in A\)に対して\(f(a) \neq b\)である。

\(f_2\)が全射でないことを示しましょう。\(-1\)に注目します。任意の\(x\)に対して、\(f_2(x)=x^2  \geq 0\)です。したがって、\(f_2(x) \neq -1\)です。よって、\(f_2\)が全射でないことが示せました。したがって、\(f_2\)は全単射でもありません。

 

同じような対応関係でも、終域が変われば全射性は変化します。

\(f_3(x)=x^2 ,f_2 :\mathbb{R}\to [0,\infty)\)は全射でしょうか。\([0,\infty)=\{ x\in \mathbb{R} \mid x\geq 0\}\)は\(0\)以上の実数の集合です。

\(f_3\)は全射であることを示します。\(y \in [0,\infty)\)を任意のものとします。このとき、\(y\)は非負なので、\(\sqrt{y}\)が実数として定まります(\(y\)が負のとき、\(\sqrt{y}\)は実数とならない)。\(x= \sqrt{y}\)としましょう。\(f_3(x)=(\sqrt{y})^2 =y\)となり、全射であることが示せました。

全射かどうか考えるときには、\(f\)が「どこへの」写像なのか注意しましょう。それによって、全射かどうか変わることがあります。

一般に、\(f\)を任意の写像とし、終域を\(f\)の像\(f(A)\)に制限すると、\(f\)は必ず全射になります。また、\(f:A\to B\)が全射であることは、\(B=f(A)\)と同値です。(確かめてみてください)

 

全射であるが単射でない例

\(f_1(x)=2x\)は全単射、\(f_2(x)=x^2\)は単射であるが全射ではありませんでした。では、単射でないが全射である例はないのでしょうか?

どこかで一定の同じ値を取りつつ(単射でなく)も、実数全体を変化するような(全射な)関数を考えれば良いです。

\[ \begin{aligned}f_4(x)= \begin{cases}x & (x <0 )\\0 & (0\leq x < 1) \\ x-1&(1\leq x)\end{cases}\end{aligned} \]

により定まる関数\(f_4: \mathbb{R}\to \mathbb{R}\)を考えましょう。

\(f_4\)は単射ではありません。一定の値になっている部分がありますよね。\(f(0)=f(\frac{1}{2})=0\)ですが、\(0 \neq \frac{1}{2}\)です。よって単射ではありません。

\(f_4\)は全射です。\(y \in \mathbb{R}\)を任意のものとしましょう。\(y\)がどんな値であったかによって、場合分けして考えます。\(y >0\)のときは、\(x=y+1\)とすれば、\(f_4(x)=y+1-1=y\)です。\(y=0\)のときは、\(x=0\)とすれば、\(f_4(x)=0=y\)です。\(y<0\)のときは、\(x=y\)とすれば、\(f_4(x)=y\)です。以上により、\(f_4\)が全射であるとわかりました。

(全射であるが単射でない、連続な関数の例としては\(x^2 (x+1)\)があります。そのことを確かめてみてください。\(x^3\)はどうでしょうか。)

 

単射でも全射でもない例

以上の例を踏まえると、単射でも全射でもない例は思いつきますか?

\(f_5(x)=0,f_5:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\) が単射でも全射でもないことを示しましょう。

\(1,0\)に注目すると、\(1\neq 0\)であり、\(f_5(1)=f_5(0)=0\)です。よって、\(f_5\)は単射ではありません。

\(1\)という値は取りえません。任意の\(x\)に対し、\(f_5(x) =0 \neq 1\)です。よって、\(f_5\)は全射ではないことが示せました。

 

線形写像の全単射性

写像が行列で表される、線形写像である場合については、行列のランクや行列式、核や像を調べることで、全単射性が判別できます。詳しくは次の記事を参照してください。

参考:線形写像の核とは・性質、線形方程式の不定性を調べる線形方程式と線形写像の像、次元とランクの関係

参考:可逆な行列(正則行列)とは?例と同値な条件

 

以上、写像の単射・全射・全単射の判定、証明の書き方を、ごく簡単な例で紹介しました。

まずは簡単な例を通じて、単射や全射がどういう条件なのか、きちんと厳密に示せるようになってみてください。いくつも例を自分で考えてみると、感覚的に判定しつつ、その感覚を言語化できるようになってくると思います。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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