「すべての」「存在する」「一意性」とは? 証明の書き方

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

前回は、「AならばB」という形の命題の証明の方法として、直接法、対偶法、背理法を紹介しました

今回は、「すべての」や「存在する」「一意である」を含む命題の証明の書き方を、簡単な例を通じて紹介します。

 

「すべての」肯定の証明

「一定の条件Aを満たすすべての\(x\)が、条件Bも満たしている」という形の命題は、数学においては基本的なものです。

 

次の例を考えましょう。

すべての整数\(x\)に対して、\(x\)が偶数ならば\(x^3\)は偶数である

ここには変数\(x\)が登場しています。条件\(A(x)\)を「\(x\)は偶数である」、条件\(B(x)\)を「\(x^3\)は偶数である」とすると、全体としては、「すべての\(x\)に対して、\(x\)が\(A(x)\)を満たすならば\(B(x)\)を満たす」と言い換えられます。「すべての~」は、「任意の」「与えられた」と言い換えても同じことです。

さらに論理記号を用いると、\(\forall x (A(x) \Rightarrow B(x))\)と表せます。\(\forall\)はすべての(forall)を表し、全称量化子と呼ばれるものです。このような命題は全称命題(universal propositionと呼ばれます。

今回は\(x\)が変化しうる範囲は整数で、その範囲は一般に変域(スコープ)と呼ばれています。「すべての」という文字があったら、そこには何かしらの議論の範囲が伴うわけです。

 

この命題は、「AならばB」の例として紹介したものでした

\(x\)が偶数ならば、\(x^3\)は偶数である

と「すべての」を一見含まないように書くこともありますが、実はこれは「すべての」を省略した書き方と言えます。

普通「AならばB」の議論をしているときは、実は「すべての\(x\)についてA(x)ならばB(x)」の議論をしているのです。ここでは仮に変数を\(x\)としていますが、文字は\(a\)でも\(y\)でも何でも良いし、複数の変数を持つこともあります。

この命題の証明は、\(x\)が\(A(x)\)を満たすこと、すなわち「\(x\)を偶数であると仮定する」ことから議論を出発すれば良いです。詳しくは、「AならばB」の証明の記事を参照してください

 

「存在する」肯定の証明

数学では、「すべての~である」の形の命題だけではなく、「~を満たす\(x\)が存在する」形の命題もよく扱います。

\(a,b\)を実数として、\(a\neq 0\)とする。このとき、実数\(x\)に関する方程式\(ax=b\)の解が存在する。

条件\(A(x)\)を「\(ax=b\)」とすると、これは「\(A(x)\)を満たす\(x\)が存在する」と言い換えられます。「ある\(x\)が\(A(x)\)を満たす」と言っても同じことです。

論理記号を用いると、\(\exists x (A(x))\)と表せます。\(\exists)は存在する(exists)を表し、存在量化子と呼ばれるものです。このような命題は、存在命題(existential proposition)と呼ばれます。

(正確には、この命題はすべての~を含んでいます。「すべての実数\(a,b\)に対して、\(a\neq 0 \)ならば、\(ax=b\)を満たす実数\(x\)が存在する」という主張ですね。記号で表せば、\(\forall a \forall b (B(a) \Rightarrow( \exists x (A_{a,b}(x))))\)です。)

 

さて、命題を証明しましょう。存在することを示すためには、それをひとつでも具体的に提示すれば良いです。

\(a,b\)を実数で、\(a\neq 0\)と仮定します。そして、\(x= \frac{b}{a}\)としましょう。

このとき、\(ax =a \frac{b}{a}=b\)が成り立ちます。よって、\(ax=b\)を満たす\(x\)が存在することがわかりました。

単に\(x= \frac{b}{a}\)と書くだけでは、(普通は)証明になっていないことに注意しましょう。条件を満たすものが存在することを示すには、構成したものが確かに条件を満たすことをチェックする必要があります。

 

「存在する」形の命題では、「ただひとつ存在する」こと、一意性(uniqueness)が議論されることも多いです。

\(a,b\)を実数として、\(a\neq 0\)とする。このとき、実数\(x\)に関する方程式\(ax=b\)の解がただひとつ存在する。

これを示してみましょう。

この命題は、「1.解が存在し」(存在性)、「2.(存在すれば)ただひとつである」(一意性)に分解できます。存在性はさきほど示しました。

ただひとつ存在することを示すには、どうすれば良いでしょうか。僕は数学を学びはじめの頃、その意味がよくわからず、示し方を知りませんでした。

条件\(A(x)\)を満たす\(x\)がただひとつ存在するとは、「\(x,y\)が\(A(x)\)、\(A(y)\)を満たすならば、\(x=y\)である」という意味です。仮に2つあるとしたら、両者は一致していなければならない。すなわち、異なる2つのものが存在しないということです。

 

では、\(ax=b\)の解の一意性を証明しましょう。

実数\(x,y\)が\(ax=b\)、\(ay=b\)を満たすと仮定します。等式の性質より、\(ax=ay\)が成り立ちます。仮定より\(a\neq 0\)だったので、再び等式の性質より、両辺を\(a\)で割って、\(\frac{a}{a}x=\frac{a}{a}y\)、すなわち\(x=y\)が成り立ちます。以上により、\(ax=b\)の解はただひとつであることがわかりました。

 

存在命題は、いつでもその存在がただひとつであるとは限らないことに注意しましょう。例えば、

実数\(x\)について、\(1<x<2\)を満たす\(x\)が存在する

という命題を考えます。その存在を示すには、\(x=\frac{3}{2}\)でも、\(x= \sqrt{2}\)でも良いです。

「存在する」という主張は、「少なくともひとつはある」という意味で、条件を満たしていれば何でもOK。「存在するかどうか」の答えはただひとつ(真)ですが、その示し方、答え方は無数にあります。

ただし、「\(x\)を\(1<x<2\)を満たすものとする」という書き方は証明になっていなことに気をつけましょう。そのような(実数)\(x\)が存在するかどうかについて、何も言っていないのと同じです。

 

「すべての」否定の証明

「すべての~」の形の命題の否定を考えてみましょう。

すべての実数\(x\)に対して、\(x=|x|\)が成り立つわけではない。

これは言い換えれば、「実数\(x\)で\(x=|x|\)を満たさないものが存在する」ということです。一般に、「すべての」の否定は「存在する」、\(\lnot (\forall x\, A(x)) \Leftrightarrow \exists x \,A(x)\)です。

 

では、具体的に証明しましょう。

ある実数\(x\)が\(x=|x|\)を満たさないことを示します。\(x=-1\)と置きましょう。絶対値の定義より、\(|x|=|-1|=1\)です。\(-1 \neq 1\)なので、\(x\neq |x|\)が成り立つことが示せました。

存在命題のところで議論したように、例としては\(x=-1\)でなくても良いです。負の数ならばなんでも等号が成り立たないことが確かめられるでしょう。ただしひとつは具体的に挙げる必要があります。

「すべての」を含む主張を反証する例は、反例(counterexample)と呼ばれています。

何か一般的な主張を見つけたら、それがすべてのケースで正しいのか、それとも反例を持つのか、自分なりに考えてみましょう。反例が作れれば反証ができ、作れなそうならば一般論として証明できる理由がわかってくるかと思います。

 

「存在する」否定の証明

「存在する」命題の否定について考えましょう。

\(x\)を整数として、\(1<x<2\)を満たす\(x\)は存在しない。

これは言い換えると、「すべての整数\(x\)について、\(1<x<2\)は成り立たない」ということです。一般に、「存在する」の否定は「すべての」であり、\(\lnot (\exists x\, A(x)) \Leftrightarrow \forall x \,A(x)\)です。

 

では、証明しましょう。

すべての整数\(x\)について、\(1<x<2\)は成り立たないことを示します。\(x\)を整数と仮定します。このとき、「\(x\)は2以上である\(x\geq 2\)」、「2以上でない=\(x\)は1以下\(x\leq 1\)」のいずれかが成り立ちます。場合分けして考えましょう。

\(x \geq 2\)のとき、\(x<2\)は成り立ちません。したがって、\(1<x<2\)も成り立ちません。また、\(x\leq 1\)のとき、\(1<x\)は成り立ちません。したがって、\(1<x<2\)も成り立ちません。(\(1<x<2\)とは、「\(1<x\)または\(x<2\)が成り立つ」という意味です)

以上によって、\(x\)がいずれの場合でも、\(1<x<2\)が成り立たないことが示せました。

(証明の状況によっては、整数が不等号による順序を持つことや、そこから\(x\geq 2\)と\(x\leq 1\)のいずれかが成り立つことを示す必要があるでしょう。今回は整数の基本的な性質は正しいものとして認めて議論しています。)

 

条件を満たすものの一意性の否定は、どう考えれば良いでしょうか。

\(x\)を実数とすると、\(x^2 =1\)を満たす\(x\)がただひとつ存在するわけではない。

\(A(x)\)を満たす\(x\)がただひとつではないことを示すには、\(A(x)\)\(A(y)\)を満たし、\(x\neq y\)であるような\(x,y\)の存在を示せば良いです。

上の命題の証明としては、\(x=1\)、\(y=-1\)と置きます。\(x^2 =1\)で、\(y^2 =1\)と条件を満たします。しかし\(x\neq y\)です。よって、\(x^2=1\)を満たす\(x\)はただひとつではないことが示せました。

 

以上、「すべての」や「存在する」「一意である」を含む命題、全称命題と存在命題の証明の書き方を紹介してきました。

これらの記述はしばしば省略されますが、数学の証明をきちんと理解するには欠かせないことです。ぜひ暗黙に書かれていることを明確に読み取って、きちんとした証明が読み書きできるようになってみてください。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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