どうも、木村(@kimu3_slime)です。
「すべての東京都民は、日本国民である」「2つ以上の国籍を持つ人間は存在する」……など、「すべての~」や「~が存在する」は、文章・命題において頻繁に登場する言葉です。
特に大学数学の世界では、「すべての~」を全称命題、「~が存在する」を存在命題と言います。
全称命題と存在命題さえわかってしまえば、集合論や大学数学は怖いものなし。その具体例を簡単に紹介します。
全称命題、存在命題とは
全称命題とは
全称命題(universal proposition)とは、(ある集合の)すべての要素がある条件を満たすという形式の命題のことです。
「すべての自然数\(N\)に対し、\(4N\)は偶数である。」例えばこれは全称命題です。
「すべての~」は、「任意の」「それぞれの」「あらゆる」とも言いかえられます。英語では、for all、for eachと言いますね。
「任意の」は、英語ではarbitraryと言います。「勝手に選んだ~」、「恣意的に選んだものであっても~」という意味合い。「どのように選んできたものであっても~」というわけです。
存在命題とは
存在命題(existential proposition)とは、ある条件を満たす要素が存在するという形式の命題のことです。
「ある自然数\(N\)で、\(4N\)が偶数とならないものが存在する」例えばこれが存在命題です。
「~が存在する」は、「ある~で条件を満たす」「~がある」「条件を満たす~が取れる」とも言えます。英語では、there exists ~~ such that…とも言いますね。
論理学の記号で表現する
全称命題、存在命題は、簡単のために記号で表されることがあります。
全称命題の記号はallのAをひっくり返した「\(\forall\)」で、存在命題はexistのEをひっくり返した「\(\exists\)」となります。
さきほどの命題を論理記号で書いてみましょう。
「\(\forall N\in \mathbb{N}, 4N \)は偶数」「\(\exists\ N\in \mathbb{N} ,4N\)が偶数とならない」となります。
\(N\in \mathbb{N}\)とは、\(N\)が自然数の集合\(\mathbb{N}\)に属しているという意味です。
しばしば\(\in \mathbb{N}\)の部分は省略して書かれます。全称命題や存在命題では、必ずどの範囲(集合)にわたって考えているのか自ら考えることが大事です。
全称命題と存在命題は、否定すると入れ替わるという性質があります。
「すべての自然数\(N\)に対し、\(4N\)は偶数である。」の否定は「ある自然数\(N\)で\(4N\)が偶数でないものが存在する」。そう、さきほど紹介した2つの命題は、否定の関係にあるものでした。
少し一般に書いてみましょう。変数を\(x\in X\)とし、命題を\(P(x)\)とします。\(\lnot P(x)\)で\(P(x)\)の否定です。
このとき、「\(\forall x\in X,P(x)\)」の否定は「\(\exists x\in X,\lnot P(x)\)」となります。
存在命題を否定するときも同様です。「\(\exists x\in X, P(x)\)」の否定は「\(\forall x\in X,\lnot P(x)\)」となります。
こうした論理記号は、すべての数学の議論において使うわけではありません。
(「否定はひっくり返る」を応用すれば、「論理記号を使わないような数学の議論は、存在します」笑)
しかし、込み入った論理展開をするときは、一度日常の言葉から論理記号に落とし込んで、「\(\forall\)」は否定すれば「\(\exists\)」になるから……と考えることはありますね。
具体例:中間値の定理
数学の定理では、全称命題や存在命題は普通に使われている言葉です。
例えば、中間値の定理を見てみましょう。
中間値の定理
\(f\)を閉区間\([a,b]\)上で定義された実数値関数で、\(f(a)<f(b)\)を満たすとする。
このとき、\(f(a)<y<f(b)\)を満たす\(y\)に対し、\(y=f(c)\)となる\(c\)が\([a,b]\)内に存在する。
全称命題、存在命題は見つけられましたか? 存在命題はわかりやすいですね。
それに対し全称命題は隠れています。「\(f(a)<y<f(b)\)を満たす(すべての)\(y\)に対し」といったように。さらには、閉区間\([a,b]\)の位置\(a,b\in\mathbb{R}\)にも任意性があります。
後半部分を論理記号で書いてみましょう。
\(\forall y \in (f(a),f(b)), \exists c\in[a,b], y=f(c)\)
隠れている全称命題、存在との順番関係が明らかになりました。慣れてくると、普通の文章よりも、論理記号で書いたほうがシンプルで間違いが少なくなるでしょう。
応用例:連続性の定義
全称命題と存在命題の考え方をフル活用するのが、微積分学における連続性や極限の定義です。
例えば関数\(f\)が\(a\in\mathbb{R}\)で連続であるとは、
任意の\(\varepsilon >0\)に対してある\(\delta>0\)が存在して、\(|x-a|<\delta\) ならば\(|f(x)-f(a)|<\varepsilon\)となる。
\(\forall \varepsilon >0 , \exists \delta>0 , |x-a|<\delta \implies |f(x)-f(a)|<\varepsilon\)
と書かれます。(さきほど紹介したルールを使って、この命題の否定を書けますか?)
なんだか複雑ですね。しかし、集合論の本を読んでいけば、全称命題や存在命題の扱い方はわかっていきます。
そのあとなら、こうした厳密な微積分学の話も理解しやすいでしょう。
今回の話をより詳しく:述語論理、量子化とは:全称記号(∀)と存在記号(∃)、数学における例と否定
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
発展:ちなみに、今回紹介したような全称命題、存在命題といった話は、数理論理学という分野で一階述語論理 first-order logic と呼ばれています。数理論理学は、数学の基礎となる論理を対象とするものです。その分野で有名な結果に、ゲーデルの不完全性定理があります。
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