どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、逆像の定義、例と求め方(一点集合、区間)を紹介します。
逆像の定義
\(X,Y\)を集合とし、写像(関数)\(f:X \to Y\)について考えます。
\(B \subset Y\)とし、部分集合\(B\)の\(f\)による逆像(inverse image, preimage)は、
\[f^{-1}(B):= \{x \in X \mid f(x) \in B\}\]
となる\(X\)の部分集合です。
言い換えれば、\(f\)による行き先が\(B\)に属するすべての要素\(x \in X\)の集合ですね。
逆像の例、求め方、応用
逆像とは、具体的にはどんなものなのでしょうか。
一点集合の逆像、逆関数との関係
簡単なケースとして、実数値関数\(f:\mathbb{R} \to \mathbb{R}\)、\(f(x)= x^2\)の一点集合\(\{1\}\)の逆像を求めてみましょう。
逆像の定義をこの場合に当てはめてみると、
\[f^{-1}(\{1\})= \{x \in \mathbb{R} \mid x^2 \in \{1\}\}\]
となるわけですが、\(x^2 \in \{1\}\)とは、\(x^2 =1\)であることです。これを満たす\(x\in \mathbb{R}\)は、\(x= \pm 1\)ですね。よって、
\[f^{-1}(\{1\})= \{\pm 1\}\]
であるとわかりました。
逆像の考え方は、定義域に依存しています(\(f^{-1}(B)\)という表記には表れていませんが、暗黙に)。定義域を非負の実数\(f:[0,\infty) \to \mathbb{R}\)に変えて、同様の問題を考えてみましょう。
\[f^{-1}(\{1\})= \{x \in [0,\infty) \mid x^2 \in \{1\}\}\]
となります。\(x^2 =1\)を満たす\(x\in [0,\infty)\)は、\(1\)のみです(さきほどと違って、\(-1\)は定義域に属さない)。よって、
\[f^{-1}(\{1\})= \{1\}\]
となることがわかりました。
これを少し一般化して、一点集合\(\{y\}\)、\(y \geq 0\)の逆像はどうなるでしょうか。
定義域を\(\mathbb{R}\)とするときは
\[f^{-1}(\{y\})=\{\pm \sqrt{y}\}\]
で、定義域を\([0,\infty)\)とするときは
\[f^{-1}(\{y\})= \{\sqrt{y}\}\]
です。
逆像の記法は、逆写像\(f^{-1}\)の記法と非常によく似ています。「\(f^{-1}()\)」のかっこに挟まれる対象が、集合か要素かの違いです。
\(f:[0,\infty) \to [0,\infty)\)、\(f(x)= x^2\)の逆写像は、\(f^{-1} :[0,\infty) \to [0,\infty)\)、\(f^{-1}(y)= \sqrt{y}\)です。
一点集合の逆像が常に一点集合になるとき、その写像には逆写像\(f^{-1}\)が存在します。特定の値\(y\)を取るような\(x\)がただひとつとなっているので。このような事情から、逆像と逆写像は(一般には別の概念ですが)似た記法を使うのでしょう。
逆に言えば、逆像とは逆写像を持たない写像に対してその概念を一般化させたもの、と言えるでしょう。
\(f:\mathbb{R} \to \mathbb{R}\)、\(f(x)= x^2\)には、逆関数が存在しません。例えば、\(x^2 =1\)を満たす実数は\(\pm 1\)の2つが存在するので。値が\(1\)になるような変数\(x\)がただひとつであるときは逆関数が定まりますが、今回は2つになっています。その2つの要素を表すのが
\[f^{-1}(\{1\})= \{\pm 1\}\]
という逆像の考え方です。
解集合、核、等高線
1点集合\(\{0\}\)の逆像を使うと、方程式の解集合(solution set)が逆像として定義できます。
例えば、\(f(x) = x^2 +1\)としましょう。\(x^2 +1 =0\)を満たす複素数\(x\)の集合は、
\[f^{-1}(\{0\}) = \{ x \in \mathbb{C} \mid x^2 +1 =0\}\]
と表せます。\(x^2 +1 =0\)は\(f(x) \in \{0\}\)と言い換えられるわけです。
より具体的には、\(f^{-1}(\{0\})= \{\pm i\}\)とすべての解を含んだ集合となっています。
\(f\)の定義域を実数\(\mathbb{R}\)に変えると、\(x^2 +1 =0\)を満たす実数は存在しないので、
\[f^{-1}(\{0\}) = \varnothing\]
と空集合になります。方程式に(定義域における)解が存在しないことは、解集合が空集合であると言い換えられるわけです。
\(f\)が線形写像、\(X,Y\)が線形空間のときは、1点集合\(\{0\}\)の逆像
\[\begin{aligned} \ker f &:=f^{-1}(\{0\})\\ &= \{x \in X\mid f(x)=0\} \end{aligned}\]
は、核(kernel)、またはゼロ空間(null space)と呼ばれます。
例えば、線形方程式\(Ax=0\)の解は\(x= 0\)のみであるということは、\(\ker A = \{0\}\)と表せるわけです。(ちなみに、\(\ker A = \{0\}\)は\(A\)が単射であることと同値です)
逆像を使って図形を表現することもできます。
例えば、\(f:\mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}\)、\(f(x,y)=x^2+y^2\)による\(\{1\}\)の逆像を考えましょう。
\[f^{-1}(\{1\})=\{(x,y)\in \mathbb{R}^2 \mid (x^2+y^2)\in \{1\}\}\]
となるわけですが、条件は\(x^2 +y^2 =1\)と言いかえられます。これは半径\(1\)の円周の集合\(S^1\)です。
\[f^{-1}(\{1\})=\{(x,y)\in \mathbb{R}^2 \mid x^2+y^2 =1\}\]
一般に、多変数の実数値関数\(f\)と特定の値\(c\)によって定められる集合
\[\begin{aligned} L(f,c)&:= f^{-1}(\{c\}) \\ &=\{ x \mid f(x)=c\} \end{aligned}\]
は、等位集合(level set)と呼ばれます。それが曲線であるときは等位曲線(等高線)、曲面であるときは等位曲面とも。
参考:勾配ベクトルが等位曲面に垂直である(法線ベクトル):例と証明
微分可能な関数の(非臨界点における)等位集合は、図形(多様体)として考えられることが知られています(陰関数定理)。
(実数値関数に限らないより一般の写像については、一点集合の逆像はファイバー( fiber )とも呼ばれます。)
区間の逆像、連続性の定義
最後に、区間の逆像を考えましょう。
\(f:\mathbb{R} \to \mathbb{R}\)、\(f(x)=x^2\)による、開区間\((1,2)\)の逆像を求めたいとします。
グラフが描ける関数の逆像は、図を書いてイメージするとわかりやすいでしょう。\(f(x)\)が\(1\)より大きく\(2\)より小さい値を取る\(x\)はどこでしょうか。
逆像の定義を書き下すと、
\[f^{-1}((1,2))= \{x \in \mathbb{R}\mid x^2 \in (1,2)\}\]
となります。条件\(x^2 \in (1,2)\)を言い換えると、\(1<x^2<2\)です。
これをシンプルにするならば、\(-\sqrt{2} <x < -1\)または\(1 < x < \sqrt{2}\)です。再び区間によって言い換れば、\(x\in (-\sqrt{2},-1)\)または\(x\in (1,\sqrt{2})\)となります。和集合によってこれを表現すれば、
\[f^{-1}((1,2))= (-\sqrt{2},-1) \cup (1,\sqrt{2})\]
と求められました。
単位ステップ関数(ヘビサイド関数)
\[ \begin{aligned}H(t)= \begin{cases}0 & (t \leq 0 )\\1 & (t>0)\end{cases}\end{aligned} \]
による開区間\((-\frac{1}{2}, \frac{1}{2})\)の逆像を求めてみましょう。
条件\(H(t) \in (-\frac{1}{2}, \frac{1}{2})\)は、\(-\frac{1}{2} < H(t) < \frac{1}{2}\)と言い換えられます。これを満たす\(t\)は、非正の実数\(t \leq 0\)です。よって、
\[H^{-1} ((-\frac{1}{2}, \frac{1}{2})) =(-\infty, 0]\]
と求められました。
逆像の考え方は、開集合や閉集合といった(位相の)考え方と合わせて、連続性の同値条件(一般的な定義)に応用されています。
\(X,Y\)を距離空間とする。関数\(f:X \to Y\)について、次の条件は同値である。
- 連続性:すべての\(a \in X\)に対し、\(\lim_{x \to a} f(x) =f(a)\)。
- \(Y\)の任意の開集合\(U\)に対し、\(f^{-1}(U)\)は\(X\)の開集合。
- \(Y\)の任意の閉集合\(W\)に対し、\(f^{-1}(W)\)は\(X\)の閉集合。
参考:連続関数とは:イプシロンデルタと開集合、閉集合による特徴づけ
最初の例\(f\)では、開集合の逆像が
\[f^{-1}((1,2))= (-\sqrt{2},-1) \cup (1,\sqrt{2})\]
確かに開集合となっています。これは連続性(の一部)を表したものです。
また、単位ステップ関数の例では、
\[H^{-1} ((-\frac{1}{2}, \frac{1}{2})) =(-\infty, 0]\]
と、開集合の逆像が開集合でなくなっており、\(H\)が連続でないことを示しています。(\((-\infty, 0]\)は開集合でない、なぜなら\(0\)が内点ではないため。)
以上、逆像の定義、例と求め方(一点集合、区間)を紹介してきました。
数学の様々な場所に現れる基本的な考え方ですが、集合の言葉を用いているので、慣れるまで正確に納得しながら求めるのが難しいかもしれません。今回紹介したような簡単な例から、集合の扱いに慣れてみてはいかがでしょうか。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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