有理数と分数、無理数の違い:よくある誤解を越えて

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

よく「有理数は分数で表せる数である」とか「有理数は√やπを含む数である」といった不正確な理解を目にします。

有理数・無理数とは何かというのは、おそらく誤解されやすいポイントなのでしょう。今回は、なぜこれらが誤解であるのか紹介したいと思います。

 



有理数=分数? 数の表示

よく、「有理数は分数で表せる数である」という説明を目にします。例えば次の動画はそうです。

画像引用:【ん?】無理数の円周率が円周÷直径という分数であるパラドックス【ゆっくり数学解説】

簡単のためにあえて言い切っているのかもしれませんが、「分数で表せる」というだけでは、有理数とは言い切れないのです。

 

では、定義を確認しましょう。\(x\)を何らかの数(実数)とします。

\(x\)が有理数(rational number)であるとは、それが\(x = \frac{整数}{整数}\)と表せることです。つまり、ある整数\(n,m\)で\(x= \frac{m}{n}\)を満たすものが存在することです。

\(x\)が無理数(irrational number)であるとは、有理数でない数です。すなわち、どんな整数\(n,m\)を使っても、\(x = \frac{m}{n}\)と表せない数です。

すべての数(実数)は、有理数か無理数のいずれかに分類されます。有理数と無理数の総称が実数であると言っても良いでしょう。

 

ポイントは、有理数は整数分の整数と表せる数であることです。分数で表せている、だから有理数だ、とは結論できないのです。

例えば、\(\frac{3\pi}{2} \)は有理数でしょうか、無理数でしょうか。分数の形をしていますが、それは有理数ではありません。分子に\(\pi\)がかかっているので、整数の比として表せているとは言えず、ここからは有理数と結論できません。実際、\(\pi\)は無理数であると知られていることから、無理数であることが示せます。

もし、有理数の定義から「整数同士の」分数という条件を落としてしまったら、どんな数も「有理数」になってしまいます。なぜなら、\(\pi =\frac{\pi}{1}\)であるように、\(x = \frac{x}{1}\)と表せるからです。

「有理数は分数である」と覚えるのではなく、有理数は整数の比として表せる数のことであると覚えると良いでしょう。

 

そもそも、「見た目の形だけで有理数かどうか判定する」という考え方は、大雑把には有効ですが、間違えやすいです。例えば、\(0.1\)といった小数は、パッと見で分数ではありません。だからといって有理数でないわけではないのです。\(0.1 =\frac{1}{10}\)なので、有理数ですね。一般に、有限小数や、無限小数の中でも循環小数は有理数であると知られています。

もちろん、自然数や整数も有理数です。\(k = \frac{k}{1}\)と表せば、整数/整数の形になっているので。

 

そもそも、数はいくつかの表示式を持っているのが普通です。例えば次の指導は、よくある間違いを招きやすいものです。

画像引用:5分でわかる!有理数・無理数とは? – Try it

「√とπを含むかどうか」を有理数か無理数の判定基準にすると、ごく簡単な問題ですら間違えてしまうのではないかと思います。

例えば、\(\sqrt{9}\)は無理数でしょうか? \(\frac{2 \pi}{9 \pi}\)は無理数でしょうか? どちらも有理数です。なぜなら、\(\sqrt{9}= 3 = \frac{3}{1}\)、\(\frac{2 \pi}{9 \pi} = \frac{2}{9}\)と表せるので。

分数や√、πを含む数というのは、数を表す形のひとつに過ぎません。表示の仕方によって、数の性質(有理数か無理数かどうか)は変わりません。したがって、最初に見えた表示式だけをもって結論づけるのは間違いのもとです。それができるのは、有理数の定義:整数/整数の形だけですね。

 

有理数・小数による近似

さて、もう少し有理数と無理数の話をすることで、有理数とは何か理解を深めてもらえたらと思います。

さきほどの動画では、\(円周率 = \frac{円周}{直径}\)という式が見られ、右辺は計測できて小数/小数=有理数になるのだから、円周率も有理数なのではないか、といった話が見られました。

確かに、図を書いて定規による計測する方法では、小数のような数しか測定できないと思うかもしれません。そうした測定値・実測値は、円周率を近似するための値にはなるけれども、円周率そのものに等しくはなりません。

一方、「実測値の精度をいくらでもあげられるから、無限に桁が続く数、無理数なんだ」と考えるのは間違いです。そもそも、無限小数であっても循環小数は有理数ですし。数に関する判定は、数学の世界で論証することによってしかできません。

近似の考え方について:近似値を正確に:指数記法と有効数字、丸めとは何か

 

似た話として、\(\sqrt{2}\)の話は有名です。底辺の長さと高さが等しく1である直角三角形の、斜辺の長さ\(x\)を求めてみましょう。ピタゴラスの定理より、\(1^2+1^2 =x^2\)で、\(x>0\)であるものを求めると\(x= \sqrt{2}\)となります。

確かに、そうした直角三角形を書いて、斜辺の長さを測れば\(1.41\)くらいであると測ることはできるでしょう。しかしそれは近似値に過ぎず、\(\sqrt{2}\)そのものではありません。(\(\sqrt{2}\)が無理数であることは、背理法により簡単に証明できます。)

よく「\(\sqrt {2}=1.41\)とする」といった表現を試験で見ることがありますが、これは誤解のもとではないかと思っています。それらは決して等しくなりません \(\sqrt{2} \neq 1.41\)。近似して良いという意味なら、等号を使わずに\(\sqrt {2} \sim 1.41\)と表すのが良いでしょう。

 

それでも、結局すべての数は有理数で表せるような気がしてしまうのは、有理数が数直線上にまんべんなくあるからでしょう。\(x\)が無理数だったとしても、それをいくらでも精度良く近似する有理数\(y\)を選ぶことがえきるのです。

これを有理数の(実数における)稠密性(ちょうみつせい)と言います。ぎっしり詰まっている、という意味です。電卓で√を使うと、小数として計算をしてくれますが、それは有理数による近似値を使った計算なのです。理論的には、どんな無理数も桁を増やした小数でいくらでも近似できます。

参考:稠密性とは:有理数、ワイエルシュトラスの近似定理を例にニュートン法によってルート、円周率の近似値を求めてみよう

有理数も無理数も、数直線上にはたくさんあります。しかし実は、対応関係によって数の「多さ」=濃度を比較すると、有理数はスカスカなのに対し、無理数が大部分を占めていることがわかります。前者は可算濃度、後者は非可算濃度と呼ばれるものです。

参考:無限集合の濃度とは? 写像の全単射、可算無限、カントールの対角線論法

 

そもそも、無限に桁のある小数というものは、直感的ではなく、扱いにくい概念です。\(0.9999\cdots =1\)という式は正しいのですが、それを理解するには極限という考え方を理解する必要があるでしょう。

参考:「0.999…=1」はなぜ? 無限小数と数列の極限を解説

円周率\(\pi\)は、円周の長さや円の面積といった考えにひもづいています。長さや面積というのは、当たり前に存在するもののように思えますが、数学的には積分によって捉えられるものです。積分は極限を使った計算であり、そこから無理数が登場してくるのは不思議なことではありません。

参考:円の面積・円周、球の体積・表面積の公式の覚え方(微積分)

 

有理数の世界と無理数

ここまで見てきたように、有理数の世界はシンプルでよくわかっていることが多いです。

例えば、有理数同士の足し算、引き算、掛け算、(0でない)割り算は、有理数になります。(これを有理数は体であるという)

つまり、有理数の計算からは有理数しか生まれないのです。無理数なんて存在しないんじゃないか、と考えた昔の人の気持ちもわかるような気がします。

 

実数は、有理数・無理数とは別の観点から、おおざっぱに2つに分類できることが知られています。それが、代数的数超越数です。

代数的数は、有理数を係数とする何らかの多項式\(a_n x^n + \cdots+a_1 x+a_0=0\)を満たす数です。例えば、\(\sqrt{2}\)は\(x^2 -1=0\)の解なので、代数的数です。√根号を含むような無理数は、これに分類されます。

一方、どんな多項式も満たさないような数は超越数と呼ばれています。超越数の例としては、円周率\(\pi\)のほか、微積分に登場するオイラー定数(ネイピア数)\(e\)があります。

\(\pi, e\)の超越性は、1800-1900年代と比較的最近に知られたものです。超越数には謎が多く、が超越数かどうかという、一見すると単純に見える数の判定問題も現在解決していないようです。それだけ、判定の難しい世界が広がっているということですね。

参考:超越数、代数的数とは何か?

 

以上、有理数と分数、無理数の違いを、よくある誤解を交えて紹介してきました。

何度も言いますが、有理数とは整数の比として表せる数です。学校の試験問題として出題される分には、有理数か無理数かは簡単に判別できることが多いでしょう。

有理数と無理数・実数は、どちらも実用的ではあるのですが、後者の扱いは結構難しいです。その分、奥深く面白い世界が広がっています。今回の話をきっかけに、数の世界に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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