数学の教え方を学び方のヒントに「大学授業の心得」

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、「大学授業の心得―数学の教え方をとおして」をレビューします。

大学授業の心得―数学の教え方をとおして

S.G. クランツ(著), Krantz,Steven G.(原著), 敏, 蓮井(翻訳)
玉川大学出版部 (1998-05-01T00:00:01Z)

¥542 (中古品)

 

どんな本か

大学授業の心得」は、大学における数学教育の重要性、いかにして数学を学部生に教えるかについて、アメリカの数学者クランツが述べる本です。

原題は”HOW TO  TEACH MATHEMATICS  A Personal Perspective”で、「いかに数学を教えるか」。こちらのストレートの表現の方が、内容をよく表していると思います。もちろん「大学において」という前提はありますが。

僕がこの本を買ったのは、大学の数学科で学んでいた時期です。大学の数学の講義は、良い講義もあれば微妙なものもあり、教育的な講義はどうあるべきかを知りたくて買いました。

本文で示されるように、「数学をどのように教えるか」は、「数学をいかにして学ぶか」と表裏一体です。そのため、この本には数学を学ぶヒントが詰まっています。

このサイトを通して、僕は数学に関する文章を書いていますが、それは「教える」側面もあるので、そのヒントが得られました。

 

目次

  • 1章 基本編
    • 学生への敬意
    • 教師の心構え
    • 個人的な営み
    • 授業の準備
    • 明快な授業
    • はっきり話す
    • 講義という形式
    • 質問に答える
    • 一般論を急がない
    • 上級科目について
    • 時間の使い方
    • 教師は、なぜ必要か?
    • 数学への不安
    • 学生は、いかに学ぶか?
    • コンピュータ
    • 応用の使い方
  • 2章 実践編
    • 声の使い方
    • 目と目を合わせる
    • 板書のしかた
    • 教師の態度
    • 課題のあたえ方
    • オフィス・アワー
    • 授業の計画
    • プリントの配付
    • 試験問題を作る
    • 評価への注意
    • シラバスー講義要綱
    • 教科書を選ぶ
    • 多人数授業の問題
    • 問題演習について
    • OHPについて
    • アドバイスを受ける
    • 個人教師について
    • 教育助手について
    • 尋ね方、答え方
    • 学生への情状酌量
  • 3章 難関編
    • 英語が母国語でない教師
    • 課題提出の遅れ
    • 学生の不正行為
    • 教師の欲求不満
    • 答えにくい質問
    • 教室での規律
    • 授業で間違えたとき
    • 教師と学生の関係
    • 差別とセクハラ
    • 学生のお願い
    • おわりに

 

良い点

実際の大学の講義ではよくあるけれども、あまり良くない教え方がわかります(笑)。僕が共感した点を、箇条書きにして紹介しましょう。

  • たくさん講義を受けてきたからといって、教えるのがうまくなるわけではない。
  • 学生は教える側(数学者)と同じようなやる気を持つとは限らない。
  • 「当たり前」「明らか」などと、初学者向けの講義で言うのは望ましくない。
  • 数学の学習は、他の学問と同じように具体から一般へ:帰納的に進む。一般論を急ぎすぎない。
  • 専門科目は学生にとって実感しづらいので、多くのことをやるより、深くやるべき。
  • 数学者と違い、学生は証明や論理になれていない。定義定理証明、すべての・存在するなどについて、サポートしたほうが良い。
  • 学生はテキスト(教科書)をほとんど理解できない。だからこそ教師や講義が必要。
  • 数学を学ぶのは、楽器の演奏を学ぶのと同じように難しい。にもかかわらず、数学では学習のサポートが少ないので、「数学不安症」が生まれやすい。
  • 優秀な学生は、自分自身で自分を教育する。無力な学生は、教師や教科書、講義に頼り切り。多くの人は、その中間にある。
  • 学生の「何の役に立つか」という疑問から逃げない。そうした質問が出る前に、教える内容の応用を示すと良い。

これらの内容の一部は、僕が個人的に考えていたことと重なっていましたが、それがきちんと指摘されていて良かったです。

参考:大学の数学の勉強についていけなかった経験談、その解決法「自明、明らかである」に気をつけて、疑いながら数学書を読もうモチベーションを見出す大学数学の勉強法大学数学基礎:論理、証明、集合の記事まとめ手の付け方がわからない数学の問題の解き方:定義を確認し、単純化しよう

 

いわゆる「できる学生」だけでなく、多様な学生がいることをきちんと認識しているのが、数学者の本にしては珍しく、本書の特徴となっています。

大学数学の具体的な用語が出てくるのも、話が具体的になって良いですね。

ところで、知ってのとおり、導関数の交換可能性の条件として、\(C^2\)(二回連続微分可能)は強すぎます。しかし、一年生にはこれで十分ではないでしょうか? 頭の良い学生がこの問題を持ち出したら、授業が済んでから説明してやりましょう。ただ、どんな結果でも、いつでももっとも厳密な形で述べるような罠にひっかかってはいけないと思います。すばらしい単純化は、やや強めの条件の下で得られ、聞いている学生とより広い共通認識が得られるわけです。

参考:大学授業の心得 p.51

 

気になる点

学生の不正行為への対応など、実際に大学で先生をしていないと興味がないかもしれない話題もあります。

また、1993年に執筆された本であり、内容に古さを感じる部分があります。例えば、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)に関する記述がありますが、今でいえばパソコンで作ったスライドをプロジェクターで映すものと読み替える必要があるでしょう。

 

そして、講義について保守的に評価している印象を受けました。コンピュータを使った教育の話もあり、「有用な教育方法」と評価していますが、より学習に効果的であるというデータはないと否定している部分もあります。

もちろん、基礎がないのに、コンピュータの使い方だけ学んで問題が解けるようになっても、内容の理解につながらないことには同意します。手計算や手書きでグラフを描く能力も大事です。確かに理論は重要です。

一方で、少なくとも僕が受けた日本の大学数学の講義では、コンピュータを使った教育はほぼ一切ありませんでした。それは教育する側が使っていない(あるいは使えないか、教育コストがかかる)からです。1992年から現在にかけて時代は大きく変化したので、コンピュータを交えた教育の重要性と簡単さは上がったと思います。

参考:なぜ線形代数を学ぶ? Googleのページランクに使われている固有値・固有ベクトルの考え方

「数学は何の役に立つか」という質問に答える時、今の時代ならば、コンピュータを使った応用は身近かつ体感しやすいのではないでしょうか。

「理解する」ことは理論科目において大事ですし、基礎を教えずに応用だけ学ぶのは実学的すぎます。一方で、学生は数学者になるためだけに数学を学びに来ているわけではないので、コンピュータを用いた応用や教育はもう少し開拓されてほしいな、と思いました。

 

以上、「大学授業の心得―数学の教え方をとおして」をレビューしてきました。

本書を通して指摘されるように、授業をたくさん受けてきたからといって、効果的な教育ができるとは限りません。大学数学の教え方や学び方のヒントとして、何かしら人や本から学ぶことは大事だと思いました。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

大学授業の心得―数学の教え方をとおして

S.G. クランツ(著), Krantz,Steven G.(原著), 敏, 蓮井(翻訳)
玉川大学出版部 (1998-05-01T00:00:01Z)

¥542 (中古品)

 

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