どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、数列と上限・下限の関係、有界単調列は収束するという事実について紹介します。
上限・下限の数列による特徴づけ
以前、関数や実数の部分集合の上限・下限について紹介しました。
実数\(K\)が集合\(A\)の上限である\(\sup A =K\)とは、
- 上界である:すべての\(x \in A\)に対し、\(x \leq K\)
- 上界の中で最小である:すべての\(L <K\)に対し、\(x > L\)となる\(x\in A\)が存在する
と定義されるのでした(下限も同様)。
実数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)により定まる集合を\(A=\{a_n \mid n \in \mathbb{N}\}\)として、数列の上限は
\[ \begin{aligned}\sup _{n \in \mathbb{N}} a_n :=\sup A\end{aligned} \]
と定義されます(下限も同様)。つまり、取りうる値(数列の像)の上限です。
例えば、\(\inf _{n \in \mathbb{N}} \frac{1}{n}=0\)です。すべての\(n \in \mathbb{N}\)に対して\(\frac{1}{n }\geq 0\)なので、\(0\)は下界です。さらに、任意の\(L>0\)に対しては、アルキメデスの性質より\(n_0 L >1\)を満たす\(n_0 \in \mathbb{N}\)が存在します。つまり、\(\frac{1}{n_0} < L\)、\(\frac{1}{n_0} \in A\)なので、\(0\)は最大の下界です。よって、\(0\)が下限であると言えました。
この例を見ると、どうやら上限や下限は数列の極限として表せそうです。
例えば\(A=(0,1]\)のとき、その下限は\(\inf A =0\)ですが、それに対応するように\(a_n = \frac{1}{n}\)、\(a_n \in A\)という数列が存在しています。この関係は次のように一般化できます。
\(A\)を実数の部分集合とする。次の条件は同値。
- \(K = \sup A\)
- \(K\)は\(A\)の上界で、\(K\)に収束する\(A\)内の数列\((a_n)_{\in \mathbb{N}}\)が存在する。
\(A\)内の数列\((a_n)_{\in \mathbb{N}}\)とは、すべての\(n \in \mathbb{N}\)に対し、\(a_n \in A\)が成り立つことです。
下限についても同様の主張が成り立つ。
つまり、最小の上界(最大の下界)という条件を、収束する数列の存在によって言い換えられるわけです。確かめましょう。
1を仮定します。\(n \in \mathbb{N}\)とし、\(K -\frac{1}{n}\)という数を考えましょう。\(K- \frac{1}{n}\)は\(A\)の上界ではないので(上限は最小の上界)、\(K-\frac{1}{n}<a_n\)を満たす\(a_n \in A\)が存在します。\(K\)は\(A\)の上界なので、\(a_n \leq K\)です。\(K-\frac{1}{n}<a_n \leq K\)において、\(n \to \infty\)とすると、はさみうちの原理から\(\lim _{n \to \infty}a_n =K\)、2が言えました。
2を仮定します。\(L<K\)を満たす任意の実数\(L\)を考えましょう。\(\varepsilon := K-L>0\)に対し、\(\lim_{n\to \infty}a_n =K\)収束の定義から、\( n \geq N\)ならば\(|a_n -K| < \varepsilon\)を満たす\(N \in \mathbb{N}\)が存在します。絶対値を外すと\(-(K-L)<a_n-K < K-L\)で、左側の不等式から\(L <a_n\)です。\(a_n \in A\)なので、これは\(L\)が上界でなく、\(K\)が最小の上界であることを意味します。よって、1が言えました。
一般に、「\(K\)に収束する\(A\)内の数列\((a_n)_{\in \mathbb{N}}\)が存在する」という条件を満たすとき、実数\(K\)は\(A\)の触点(adherent point)であると呼びます。閉包の点(closure point)とも。
今回の結果は、\(K\)が集合\(A\)の上限であるとは、\(K\)が\(A\)の上界かつ触点であると言い換えられる、という話でした。
触点という考え方は一般に使えて、位相空間における閉包、閉集合の考え方と関わってきます。
参考:ユークリッド空間の開集合、閉集合、開球、近傍とは何か?
有界単調列の収束
上限・下限と数列の関係は、次の実数に関する基本的な性質(実数の公理)にも表れます。
有界な単調列の収束
- 上に有界な広義単調増加な数列\((a_n)\)は収束する。その極限は\(\lim_{n \to \infty}a_n= \sup_{n \in \mathbb{N}} a_n\)である。
- 下に有界な広義単調減少な数列は収束する。その極限は\(\lim_{n \to \infty}a_n = \inf_{n \in \mathbb{N}} a_n\)である。
広義単調増加とは、すべての\(n \in \mathbb{N}\)に対し、\(a_n \leq a_{n+1}\)が成り立つこと。減少についても同様。
例えば、\(a_n =\frac{1}{n}\)は下に有界な数列です。例えば\(K=0\)が下界として存在するので。そして、広義単調減少でもありますね、\(\frac{1}{n} \geq \frac{1}{n+1}\)なので。この数列の下限は\(0\)ですし、極限も\(0\)です。確かに、\(\lim_{n \to \infty}a_n = \inf_{n \in \mathbb{N}} a_n\)が成り立っています。このような関係が一般化されるわけです。
「上に有界な広義単調増加な数列\((a_n)\)は収束する。」という主張だけから、後半の「\(\lim_{n \to \infty}a_n= \sup_{n \in \mathbb{N}} a_n\)」は必然的に導かれます。それを確かめてみましょう。
\((a_n)\)が収束し、\(K =\sup_{n \in \mathbb{N}} a_n\)が存在したと仮定します(上に有界な実数の部分集合は上限を持つ:実数の公理)。\((a_n)\)が\(K\)に収束することを示しましょう。任意に\(\varepsilon >0\)を選びます。\(K- \varepsilon\)は数列の上界ではないので、\(K- \varepsilon < a_N\)を満たす\(N \in \mathbb{N}\)が存在します。\((a_n)\)は広義単調増加なので、\(K- \varepsilon <a_N \leq a_n\)です。また\(K\)は上界なので、\(a_n \leq K\)でもあります。これらを合わせれば、\(|a_n -K|< \varepsilon\)が言えました。
ちなみに、「単調増加(単調減少)」という条件は収束するために必要です。
例えば、\(a_n =(-1)^n\)という数列は、上下に有界な数列ですが、収束しません(振動する)。ただし、有界な収束は収束する部分列を持ちます。
参考:部分列、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理とは:点列コンパクトとの関係
以上、数列と上限・下限の関係、有界な単調数列が収束することを紹介してきました。
上限・下限の考え方は、上極限や一様収束、積分の定義に応用されますが、学び始めのうちはなかなかイメージがつかみにくいものではないでしょうか。
集合\(A\)の上限・下限は\(A\)の数列によって近似できる点であること、有界単調列は上限に収束することから、上限・下限と数列に関する直観を養ってみてはいかがでしょうか。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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