上限・下限(sup,inf)、有界とは:具体例、最大・最小値との違い

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

微積分学の基礎で扱う、上限や下限、有界という考え方の具体例、最大・最小値との違いを紹介します。

 



上限・下限をなぜ考えるか

僕は初めて上限や下限の考え方に教科書や講義で出会ったときに、正直なところ何を言っているかわけがわかりませんでした。

そこで今回は、高校の数学からでも学べるような簡単な話をしたいと思います。

 

高校数学では、関数の最大値や最小値を求める問題をよく考えました。

そのとき、\(x\)の動きうる範囲(定義域)に制限があることが多かったはずです。例えば、\(0 \leq x \leq 5\)のときに、\(f(x)=x^3-x\)の最大値と最小値を求めよ、といったように。関数の最大値や最小値を

\[ \begin{aligned}\max _{x \in [0,5]} f(x)=120\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\min _{x \in [0,5]} f(x)=-\frac{2}{3\sqrt{3}}\end{aligned} \]

といったように表します。\(\max\)は最大値(maximum)、\(\min\)は最小値(minimum)を略した記号です。

 

定義域によって関数の最大値・最小値の状況は変わってきます。連続な関数は、有界な閉区間\([a,b]=\{x \in \mathbb{R} \mid a \leq x \leq b\}\)上ならば必ず最大値・最小値を持つことが知られています。

参考:コンパクト性とは:有界閉集合、最大値の定理を例に

大学数学では、定義域が実数全体\(\mathbb{R}\)であったり、非有界な区間\([a,\infty) := \{ x \in \mathbb{R} \mid a \leq x\}\)、有界であっても閉区間でない区間\((a,b) =\{ x \mid a<x<b\}\)を考えます。

集合の記法に慣れていないならば:集合論入門:集合の定義、数の集合、ラッセルのパラドックス

 

\(f(x)= \frac{1}{x}\)という関数を、正の実数全体\((0,\infty)=\{x \mid x>0\}\)で定義されたものとして考えましょう。

この関数の最大値・最小値はなんでしょうか? 考えても、存在しそうにありませんね。\(0\)に近い値を考えればいくらでも大きくなりますし、\(x\)を大きくすれば限りなく\(0\)に近い値を取るものの、決して\(0\)にはなりません。

極限では\(\lim _{x \to \infty}\frac{1}{x}=0\)ですが、それは有限の値\(x\)で実際に\(f(x)=0\)となることを意味していません。

 

それでも、関数に対していつでも最大値や最小値のようなものを考えたい。そこで登場するのが上限や下限の考え方です。理屈は後で説明しますが、この状況を

\[ \begin{aligned}\sup_{x\in (0,\infty)} \frac{1}{x}= \infty\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\inf_{x\in (0,\infty)} \frac{1}{x}= 0\end{aligned} \]

と表現します。読み方としては、関数\(\frac{1}{x}\)の区間\((0,\infty)\)における上限は存在しない(無限大である)、\(\frac{1}{x}\)の区間\((0,\infty)\)における下限は0である、といったものです。

\(\sup\)は上限(supremum)、\(\inf\)は下限(infimum)を略した記号です。日本では、スープ、インフと発音されることが多いでしょう。

冒頭で考えた関数では、最大値と最小値が存在しました。そのときは、最大値と上限、最小値と下限は一致します。

\[ \begin{aligned}\max _{x \in [0,5]} f(x)=\sup _{x \in [0,5]} f(x)\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\min _{x \in [0,5]} f(x)=\inf _{x \in [0,5]} f(x)\end{aligned} \]

という関係が成り立ちます。このように、上限・下限の考え方は、最大値や最小値が存在しないケースでも、それに近い数を捉えるために使えます。

 

有界な連続関数のなす集合\(B(U)\)では、

\[ \begin{aligned}\|f(x)\| := \sup _{x \in U} f(x)\end{aligned} \]

というノルムを考えることができます。これは上限ノルムと呼ばれ、広く応用に登場するものです。ノルムは関数列の極限について考えるときに重要で、これを後々に考えるために上限や下限の考え方を学ぶ、と言っても良いのではないでしょうか。

参考:距離空間とは:関数空間、ノルム、内積を例に

 

上限・下限の定義と求め方

では、上限や下限が

\[ \begin{aligned}\sup_{x\in (0,\infty)} \frac{1}{x}= \infty\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\inf_{x\in (0,\infty)} \frac{1}{x}= 0\end{aligned} \]

となることは、どうやって考えたら良いのでしょうか。

 

まず関数の上限・下限とは、関数の取りうる値の集合(像)の上限・下限として定義されます。

\[ \begin{aligned}\sup _{x\in U}f(x) := \sup f(U)\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\inf _{x\in U}f(x):= \inf f(U)\end{aligned} \]

今回の例ならば、0より大きなすべての値を取り、\(f((0,\infty)):=\{\frac{1}{x} \mid x \in (0,\infty)\} = (0,\infty)\)となります。

参考:線形写像の核、像の定義:部分空間となることの証明

そのため、教科書では実数の部分集合\(A\)に対して、上限や下限を定義するでしょう。

\[ \begin{aligned}\sup (0,\infty)= \infty\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\inf (0,\infty) = 0\end{aligned} \]

となります。

 

上限や下限を判定する第一段階として、上に有界、下に有界という考え方があります。

\(A \subset \mathbb{R}\)が上に有界(bounded from above)であるとは、実数\(K\)ですべての\(x\in A\)に対し\(x \leq K\)を満たすものが存在することです。下に有界(bounded from below)とは、実数\(K\)ですべての\(x\in A\)に対し\(K \leq x\)を満たすものが存在することです。

有界であるとは(bounded)、ある一定の数によって集合\(A\)の取りうる値が制限されているイメージです。

\((0,\infty)\)は、上に有界ではありません。すべての\(x\in (0,\infty)\)に対し\(x \leq K\)を成り立たせるような数は存在しないからです。上に有界の否定:任意の\(K \in \mathbb{R}\)に対し、\(K+1 \in (0,\infty)\)であり、\(K +1 > K\)が成り立つので。

参考:「すべての」「存在する」「一意性」とは? 証明の書き方

\((0,\infty)\)は、下に有界です。例えば\(K=-1\)としましょう。すると、すべての\(x\in (0,\infty)\)に対し、\(0<x\)より\(-1 \leq x\)が成り立つので。

上に有界、かつ下に有界な部分集合を、有界な集合(bounded set)と呼び、そうでないものを非有界な集合(unbounded set)と呼びます。\((0,\infty)\)は上に有界でないので、非有界な集合です。

 

\((0,\infty)\)は下に有界なので、まずはそちらの方面を考えていきましょう。そこから\(0\)という値を取り出すにはどう定義したら良いでしょうか。

下に有界であることを示す定義で、\(K\)としてはさまざまなものが選べます。\(K=-1,-1000,0\)としても、すべての\(x\in (0,\infty)\)に対して\(K \leq x\)は成り立ちますね。この性質を満たす\(K\)を、集合\(A\)の下界(lower bound)と呼びます。下側で抑えられる数はたくさんあって、それらすべてを下界と呼ぶわけです。

下界の中で最も\(A\)に近い要素は何かと考えてみます。それは\(K=0\)です。これは下界の中で最大のもの(greatest lower bound)になっており、最大の下界を下限と呼び、\(\inf (0,\infty)=0\)と定義しましょう。条件をまとめると、次のようになります。

実数\(K\)が集合\(A\)の下限である\(\inf A =K\)とは、

  1. 下界である:すべての\(x \in A\)に対し、\(K \leq x\)
  2. 下界の中で最大である:すべての\(L >K\)に対し、\(x < L\)となる\(x\in A\)が存在する

と定義します。

\(\inf (0,\infty)=0\)であることを示しましょう。\(0\)が\((0,\infty)\)の下界であることは既に確かめました。残りは、\(0\)より真に大きな数\(L>0\)が\(A\)の下界でないことを確かめれば良いです。\(L>0\)とすると、例えば\(\frac{L}{2} \in (0,\infty)\)であり、\(\frac{L}{2} <L\)を満たします。よって、\(0\)が下限であると言えました。

 

\(K\)が\(A\)の下限であり、かつ\(K \in A\)でもあるとき、\(K\)を\(A\)の最小値と呼びます \(\min A = K\)。

\((0,\infty)\)の下限は0ですが、\(0 \not \in (0,\infty)\)なので、\(0\)は最小値ではありません(最小値を持たない)。\([0,\infty]=\{x \mid x \geq 0\}\)と\(0\)を含むような集合を考えれば、\(\inf [0,\infty]=\min [0,\infty]=0\)であることが示せます(定義によって確かめてみてください)。

 

上限も、下限と同様に考えます。つまり、最小の上界(upper bound)を上限と呼ぶわけです。

実数\(K\)が集合\(A\)の上限である\(\sup A =K\)とは、

  1. 上界である:すべての\(x \in A\)に対し、\(x \leq K\)
  2. 上界の中で最小である:すべての\(L <K\)に対し、\(x > L\)となる\(x\in A\)が存在する

と定義します。

どんな実数\(K\)も、\((0,\infty)\)の上限ではありません。既に確かめたように、\((0,\infty)\)は上に有界ではないのです。上限の定義を満たす実数が存在しないとき、\(A\)の上限は存在しないと言い、形式的な記号ですが\(\sup A= \infty\)と書きます。つまり、\(\sup (0,\infty )= \infty\)が成り立ちます。

同様に、下に有界でない集合には下限が存在しません。このとき、\(\inf A = -\infty\)と書きます。例えば、\(\inf (-\infty ,1]= -\infty\)です。

 

実数の基本的な性質(実数の公理)として

  • 空でなく上に有界な実数の部分集合\(A\)には、上限\(\sup A\)が存在する
  • 空でなく下に有界な実数の部分集合\(A\)には、下限\(\inf A\)が存在する

というものがあります。

当たり前のようですが、それは実数を考えているからです。例えば、\(A=\{x \in \mathbb{Q} \mid x ^2 <2\}\)という有理数の部分集合を考えましょう。空でなく上に有界ですが、上限は有理数の中に存在しません。実数で考えれば\(\sqrt{2}\)に対応するものです。

実数の部分集合では、有界であることさえ確かめれば、そこに上限や下限といった数があると言って議論できるわけですね。

この主張は、有界な数列は収束する部分列を持つ(ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理)と同値であり、微積分の基礎を議論するときに重要です。

 

以上、上限・下限(sup,inf)、有界とは何か、具体例、最大・最小値との関係を紹介してきました。

関数や実数の部分集合は、一般に最大値・最小値を持つとは限りません。そうしたケースでもそれらに似た数を取り出す考え方が、上限や下限です。

学びはじめのうちは、上限や下限を定義に従って求めるのは難しいかもしれません。なので、いろいろな例を作って、上限や下限の値を予想してみると良いでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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