lim 1/n=0はなぜ? ε-n_0論法とアルキメデスの性質

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

0.999…=1の証明や、アキレスと亀の話では、\(\lim _{k\to \infty}\frac{1}{10^k}=0\)となることを利用しました。

今回は、\(\lim_{n\to \infty}\frac{1}{n}=0\)となるのはなぜか、 \(\varepsilon \)-\(n_0\)論法による極限の定義アルキメデスの性質について紹介します。

 

 \(\varepsilon \)-\(n_0\)論法による極限の定義

高校数学の極限の話では、\(\lim _{n\to \infty} \frac{1}{n}=0\)は、ほぼ当たり前とされています。

  • 極限値とは「限りなく近づく値」と定義される
  • \(1/n\)は\(n\)が大きくなるほど\(0\)に限りなく近づく

この議論では、何が当たり前とされているのでしょうか。それを明らかにしていきましょう。

 

まず、極限の定義を数量的に言い換えてみましょう。

\(\frac{1}{n}\)が\(0\)に限りなく近づくとはどういうことか? 例えば、\(n\geq 100\)とすれば、\(\frac{1}{n}\)は\(\frac{1}{100}\)以下になります。値を\(\frac{1}{1000}\)以下にしたければどうすればいいか。それは\(n\geq 1000\)とすれば良いです。どんなに小さい数\(\varepsilon:=\frac{1}{10^k}\)が与えられたとしても、\(n\geq 10^{k}\)ならば、\(\frac{1}{n}<\varepsilon\)とできます。これを定式化しましょう。

\(\lim _{n\to \infty}\frac{1}{n}=0\) とは、「任意に与えられた正の数\(\varepsilon >0\)に対して、次のような番号\(n_0 \in \mathbb{N}\)が存在すること。番号\(n\in\mathbb{N}\)が\(n \geq n_0\)を満たすならば、\(\frac{1}{n}<\varepsilon\)を満たす」と定義されます。

\(\varepsilon\)(イプシロン)は、\(\frac{1}{n}\)と極限値\(0\)の差を表す小さな数です。どんなに小さな\(\varepsilon\)を考えたとしても、番号さえ大きくすれば\(n \geq n_0\)ならば、差\(\frac{1}{n}- 0\)は\(\varepsilon\)より小さくできる。そういう\(n_0\)がいつでも選べることが、極限が存在することの定義です。

 

より一般の数列\(\{a_n\}_{n\in \mathbb{N}}\)が\(\alpha\)に収束することは、次のように表現されます。

\[(\forall \varepsilon >0)(\exists n_0 \in \mathbb{N})(\forall n\in \mathbb{N})(n \geq n_0 \Rightarrow |a_n -\alpha |<\varepsilon)\]

このような数列の極限の定義は、\(\varepsilon \)-\(n_0\)論法と呼ばれています。

(\(\varepsilon \)-\(N\)論法とも。記号は何でも良いのですが、極限値との差を文字で置いて評価する議論です。)

論理について:集合論のはじまり、全称命題と存在命題、論理記号を知ろう述語論理、量化子とは:全称記号(∀)と存在記号(∃)、数学における例と否定

 

アルキメデスの性質

\(\varepsilon \)-\(n_0\)論法による極限の定義を使い、\(\lim _{n\to \infty}\frac{1}{n}=0\)を示してみましょう。

\(\varepsilon >0\)を与えられたものとしましょう。\(\frac{1}{n}< \varepsilon\)を満たすような\(n_0\)はどうやって選べば良いでしょうか。

\(\varepsilon\)は正の数なので、\(1< \varepsilon n_0\)となる自然数\(n_0\)が存在します。

このように\(n_0\)を選びましょう。すると、\(n\geq n_0\)のとき、\(\frac{1}{n}\leq \frac{1}{n_0}\)です(逆数を取れば不等号は逆になる)。さらに、\(n_0\)の選び方から、\(\frac{1}{n_0}<\varepsilon\)。これらを合わせれば、\(n\geq n_0\)ならば、\(\frac{1}{n}\leq\frac{1}{n_0} <\varepsilon\)が成り立ちます。よって、\(\lim _{n\to \infty}\frac{1}{n}=0\)が示せました。

 

途中で用いた、

\(\varepsilon\)は正の数なので、\(1< \varepsilon n_0\)となる自然数\(n_0\)が存在する

これが\(\lim _{n\to \infty}\frac{1}{n}=0\)となる理由です。これはアルキメデスの性質(Archimedean propertyと呼ばれる実数の性質です。(アルキメデスの原理とも。) 「塵も積もれば山となる」ですね。どんなに小さな量でも、たくさん積み重ねればどんな高さの山も超えられます。

一般には、

任意の正の実数\(a>0,b>0\)に対して、\(b<na\)となる自然数\(n\)が存在する

と表されます。一見当たり前に見えますが、実数\(\mathbb{R}\)や極限を厳密に扱うためには、こうした基本的な定義(公理)から議論を始めます。

アルキメデスの性質は、\(\lim _{n\to \infty} n =\infty\)と同値です。(無限大への発散の定義も、\(\varepsilon \)-\(n_0\)論法のように数量的に考えてみてください。どんなに大きい数に対しても、番号を増やせば、数列をそれより大きな値にできるということです。)

 

微積分学、解析学において、実数の公理的な扱いは実数論と呼ばれています。実数とは、順序体であり、次の連続性の公理(のいずれか1つ)を満たすものと定義されます。

  • アルキメデスの性質、はさみうちの原理(区間縮小法)
  • 有界な数列は収束する部分列を持つ(ボルツァノ-ワイエルストラスの定理。有界閉集合は点列コンパクト)
  • アルキメデスの性質、コーシー列(基本列)は収束する(実数の完備性)
  • 実数の切断は、どちらか一方だけが最大元または最小元を持つ(デデキントの公理)
  • 上に有界な集合は上限を持つ(有界性公理)
  • 上に有界な単調増加数列は収束する
  • 有界な閉集合はコンパクト(ハイネ-ボレルの定理)

これら1つ1つは同値な命題です。詳しくは、杉浦「解析入門 Ⅰ」の1.3「実数の連続性」などを参照。

アルキメデスの性質や、それを含む実数の連続性を当たり前のように使うことで、

  • \(x\)以下の最小の整数を表すガウス記号\([x]\)の定義
  • 実数が十進小数(無限小数)で展開できること(有理数の稠密性)
  • (\(e\)の定義式である)\(\lim _{n\to \infty} ({1+\frac{1}{n}})^n\)が収束すること
  • 最大値・最小値の定理、中間値の定理、平均値の定理

といった高校数学でも用いられる事実が示されます。平均値の定理は、幅広い応用を持つテイラー展開の基礎です。

実数の濃度が自然数の濃度より大きいことを示すときにも、実数が小数展開できること(実数の連続性)を使っています

 

今回は、「\(\lim_{n\to \infty}\frac{1}{n}=0\)となるのはなぜ?」という疑問に対して、 \(\varepsilon \)-\(n_0\)論法による極限の定義を踏まえ、それを示すのにアルキメデスの性質を用いることを紹介しました。

「実数とはそういうもの(定義)だから」と返された気分になったでしょうか。確かに、微積分を活用するためには、\(\lim_{n\to \infty}\frac{1}{n}=0\)は当たり前として、そこから先の議論を学ぶのが有用です。

しかし、もしその出発点に疑問を持ったら、ぜひ極限の定義や、アルキメデスの性質を含む実数の公理について学んでみてください。同値な言い換えを知って活用していくと、実数独特の当たり前さ(連続性)のありがたみを感じるようになるでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

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