なぜジョルダン標準形を考えるか、求め方、一般固有ベクトル

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、なぜジョルダン標準形を考えるかについて、またその求め方を紹介します。

 

ジョルダン標準形をなぜ考えるか

ジョルダン標準形は、行列の対角化とセットの概念です。

行列の対角化やジョルダン標準形をなぜ考えるかというと、行列のべき乗\(A^k\)が計算しやすくなるからでしょう。

応用としては、指数行列\(e^A\)を求めるには行列のべき乗を計算する必要があり、それは線形微分方程式を解くのに役立ちます。

\[\begin{eqnarray}e^A &=& I+ A + \frac{1}{2}A^2 +\cdots \\&= &\sum_{k=0}^{\infty} \frac{1}{k!} A^k  \end{eqnarray}\]

 

計算したことがあるならわかると思いますが、行列の積は面倒くさいです。サイズが大きくなるとなおさらです。

そこで、もし行列が\(P^{-1}AP =D\)と対角行列に変形できるなら、行列のべき乗\(A^k\)の計算は簡単になります。なぜなら、対角行列のべき乗は、その対角成分をべき乗するだけだからです。対角行列のべき乗は計算しやすいので、行列をその形に変形しよう、という発想が行列の対角化となります。

多くの場合では、行列の対角化をすることができます。しかし、対角化できないような行列も少なからずあるのです。では、対角化できない行列は、べき乗計算\(A^k\)を諦めて地道にするしかないのでしょうか。

 

そこでジョルダン標準形の理論の出番です。すべての正方行列\(A\)は、ある可逆行列\(P\)によって

\[P^{-1}AP =J\]

と上三角行列\(J\)に変形できます。すべての行列を対角行列に変形できはしませんが、上三角行列にすることはできるわけです。

この上三角行列\(J\)が、ジョルダン標準形と呼ばれる形をしたものです。

例えば、

\[ \begin{pmatrix} 1&1\\0& 1\end{pmatrix}\]

という行列は対角化不可能です。しかし、それは上三角行列ではあります。上三角行列は、対角行列とべきゼロ行列の和として

\[ D=\begin{pmatrix} 1&0\\0& 1\end{pmatrix}\]

\[ N=\begin{pmatrix} 0&1\\0& 0\end{pmatrix}\]

\(A=D+N\)といったように表せます(ジョルダン分解)。すると、指数行列は\(e^A =e^D e^N\)と簡単に計算できます。

参考:べきゼロ行列とは:例、指数行列、性質

 

ジョルダン標準形は、上で見た例のように対角化できない単純な行列をパーツとして組み合わせたものです。

\[J_2 (\lambda) = \begin{pmatrix} \lambda &1\\ 0&\lambda  \end{pmatrix}\]

\[J_k (\lambda) = \begin{pmatrix} \lambda &1&0 &\cdots &&0\\ 0&\lambda &\ddots &0 &\cdots &0 \\ \vdots&&\ddots&\ddots&&\vdots \\ 0&\cdots&0&\ddots&\ddots&0\\ 0&\cdots&&0&\ddots&1 \\ 0&\cdots&&&0& \lambda\end{pmatrix}\]

これを固有値\(\lambda\)に対応する\(k\)次のジョルダン細胞(Jordan cellと呼びます。ジョルダン行列(Jordan matrix)は、ジョルダン細胞を対角ブロックに並べた行列のことです。

\[J= \begin{pmatrix} J_{k_1}(\lambda_1)&O&O\\O& \ddots  &O\\O&O& J_{k_r}(\lambda_r) \end{pmatrix}\]

どんな行列も、このようなジョルダン行列に変形することができ、それをジョルダン標準形(Jordan normal form)と呼びます。

 

ジョルダン標準形の求め方

ごく簡単な例で、ジョルダン標準形の求め方を紹介します。

\[A= \frac{1}{2} \begin{pmatrix} 13&-1 \\ 9&7\end{pmatrix}\]

について考えましょう。

 

固有値を求め、その重複度を求めるというプロセスまでは、対角化と同様です。

特性方程式\(\det (\lambda I-A)=0\)は、

\[ \begin{eqnarray} &&(\lambda-\frac{13}{2})(\lambda -\frac{7}{2})+\frac{9}{4} \\ &=&(\lambda-5)^2  \end{eqnarray}\]

なので、固有値は\(5\)で、その代数的重複度は2です。対応する固有ベクトルを求めましょう。基本変形すると

\[ \begin{eqnarray} &&A-5I\\&=& \frac{1}{2} \begin{pmatrix} 3&-1 \\ 9&-3\end{pmatrix} \\ &\sim&\frac{1}{2} \begin{pmatrix} 3&-1 \\ 0&0\end{pmatrix} \end{eqnarray}\]

なので、固有ベクトルのひとつは\(p_1=(1,3)\)です。固有空間は\(p_1\)のみにより生成され、その次元は1となっています。固有空間は\(E(5) =\{ kp_1 \mid k \}\)と表されます。

固有値5の代数的重複度が2に対し、幾何学的重複度(固有空間の次元)が1なので、対角化できません。行列\(A\)の固有ベクトルで、2つの線形独立なものが見つからないのです。

 

そこで、一般固有ベクトル(generalized eigenvector)、一般固有空間(generalized eigenspace)というものを考えます。広義固有ベクトル、広義固有空間とも。

\(m\)を自然数として、

\[(A-\lambda I)^m x=0\]

\[(A-\lambda I)^{m-1} x\neq 0\]

を満たす\(x\)を階数\(m\)の一般固有ベクトルと呼びます。普通の固有ベクトルとは、階数1の固有ベクトルというわけです。一般固有ベクトルを集めた空間を一般固有空間と呼びます。

今回の例では、

\[(A-5I)x =p_1\]

を解くことで、階数\(2\)の一般固有ベクトルが求められます。なぜなら、\(p_1 \neq 0\)であり、両辺に\(A-5I\)をかければ

\[(A-5I)^2 x =(A-5I)p_1 =0\]

となるからです。

\((A-5I)x=p_1\)を基本変形によって解きましょう

\[\begin{eqnarray}  &&\frac{1}{2} \begin{pmatrix} 3&-1&2 \\ 9&-3&6 \end{pmatrix} \\ &\sim& \begin{pmatrix} 3&-1&2 \\ 0&0&0\end{pmatrix} \end{eqnarray}\]

なので、\(p_2 =(2,4)\)が階数2の一般固有ベクトルのひとつです。\(Ap_2 =p_1 +5p_2\)という形で、ちょっと\(p_1\)によるずらしがあるものの、固有ベクトルっぽいものではありますね。

一般に、固有値\(\lambda\)に対応するジョルダン細胞のサイズは、その代数的重複度に対応します。今回ならば2、\(J_2(5)\)です。すなわち、\(P=(p_1,p_2)\)と置くと、

\[\begin{eqnarray} P^{-1}AP &=&J_2(5)\\ &=&  \begin{pmatrix}5 &1\\0&5 \end{pmatrix} \end{eqnarray}\]

とジョルダン標準形が求められました。

なぜこうなるかといえば、

\[ \begin{eqnarray} AP &=& (Ap_1,Ap_2)\\&=& (\lambda p_1,p_1+\lambda p_2)\\&=& P\begin{pmatrix} \lambda&1 \\ 0& \lambda \end{pmatrix} \\ &=& PJ_2(\lambda) \end{eqnarray}\]

となるからです。

 

以上、なぜジョルダン標準形を考えるか、簡単な例の求め方、一般固有ベクトルについて紹介してきました。

対角化できなくても、ジョルダン標準形は考えることができて、それによって行列のべき乗計算が簡単になります。ジョルダン標準形は難解なものと思われやすいようですが、今回の話でその意義を感じてもらえたら嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

明解演習 線形代数 (明解演習シリーズ)
平治, 小寺(著)
共立出版 (1982-07-09T00:00:01Z)
5つ星のうち4.0
¥788 (中古品)

 

世界標準MIT教科書 ストラング:線形代数イントロダクション
ギルバート ストラング(著), 松崎 公紀(翻訳), 新妻 弘(翻訳)
近代科学社 (2015-12-22T00:00:01Z)
5つ星のうち4.6
¥14,721 (コレクター商品)

 

基礎数学1線型代数入門

基礎数学1線型代数入門

posted with AmaQuick at 2021.05.20
齋藤正彦(著)
東京大学出版会 (2019-03-08T00:00:00.000Z)
5つ星のうち4.3
¥1,870

 

こちらもおすすめ

行列の対角化可能性と同値な条件とは:証明、判定法

行列の相似とは:対角化との関係、不変量(ランク、行列式、固有値)

線形常微分方程式を行列で解く:行列の指数関数を解説

べきゼロ行列とは:例、指数行列、性質

固有空間の求め方、代数的・幾何学的重複度とは:部分空間となることの証明

線形方程式の解き方:ガウスの消去法と基本変形・ランク、LU分解