行列の相似とは:対角化との関係、不変量(ランク、行列式、固有値)

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、行列の相似とは何か、対角化との関係、相似に関する不変量(ランクや固有値)について紹介します。

 

行列の相似

正方行列\(A,B\)が相似である(similar) \(A \sim B\)とは、ある可逆行列\(P\)によって\(B= P^{-1}AP\)と表せることです。

この考え方は、行列の対角化と関連したものです。行列\(A\)が対角化可能であるとは、ある可逆行列\(P\)、対角行列\(D\)により\(P^{-1}A P=D\)と表せることでした。つまり、対角化可能とは、対角行列に相似と言い換えられます。

参考:行列の対角化可能性の定義とメリット、例、同値条件について解説

 

例えば、

\[A= \begin{pmatrix} 1&1\\0&2 \end{pmatrix}\]

\[D=\begin{pmatrix} 1&0\\0&2 \end{pmatrix}\]

は相似です。可逆行列としては

\[P=\begin{pmatrix} 1&1\\0&1 \end{pmatrix}\]

という固有ベクトルからなる行列を選べました。

別の例として、

\[B= \begin{pmatrix} 1&1\\0&1 \end{pmatrix}\]

は対角行列と相似でないことが示せます。

行列が対角行列に相似でないケースでも、ジョルダン標準形と呼ばれる上三角なブロック行列に相似であることが示せます。

参考:上三角、下三角行列の性質:積、逆行列、固有値について

 

行列\(A,B\)が相似であることは、表現行列に関する言葉でも言い換えられます。

行列\(A\)を\(\mathbb{R}^N\)上の線形変換として見ましょう。そして、そこに可逆行列\(P\)の列ベクトル\(p_1,\dot,p_n\)からなる基底があるとします。その基底に関する\(A\)の表現行列を\(B\)とすると、上の図を参考にして\(B = P^{-1}AP\)です。

つまり、\(A,B\)が相似であるとは、基底\(p_1,\dots, p_n\)に関する\(A\)の表現行列が\(B\)であるような基底が存在することです。

\(P\)は基底の取り換えに対応していて、うまい基底を考えることで、行列をより簡単な行列と似ていると考えられないか、というのが相似の考え方ですね。

 

相似な行列の不変量

さて、相似な行列同士では、ランクや固有値のような線形代数的な量が等しくなります。こういうものを相似な行列に関する不変量と言いますが、それについて見ていきましょう。

 

ランク

\(A,B\)が相似ならば、\(\mathrm{rank}A = \mathrm{rank}B\)です。

ランクは、その行列の線形独立な列ベクトルの最大数に等しいのでした。\(P,P^{-1}\)は可逆であり、全単射なので、\(A\)の線形独立な列ベクトルの本数を変化させません。したがって、\(B=P^{-1}AP\)の線形独立なベクトルの本数は、\(A\)のそれに等しく、結論が言えました。

 

行列式

\(A,B\)が相似ならば、\(\det A = \det B\)です。

一般に、行列式の性質として\(\det (AB)= \det A \det B\)、\(A\)が可逆なら\(\det A^{-1} = \frac{1}{\det A}\)があります。これを使えば、

\[\begin{eqnarray} \det B &=& \det (P^{-1} A P)\\&=& \det P^{-1} \det A \det P \\&=& \frac{1}{\det P}\det A  \det P \\ &=& \det A\end{eqnarray}\]

が示せました。

 

固有値、固有方程式

\(A,B\)が相似ならば、それらの固有値は等しく、固有多項式も一致します。

 

まずは固有値について。

\(\lambda\)を\(A\)の固有値 \(Ax = \lambda x\) としましょう。このとき、

\[\begin{eqnarray} B (P^{-1}x) &=& P^{-1}A P P^{-1} x \\&=& P^{-1}Ax \\&=& \lambda P^{-1}x \end{eqnarray}\]

なので、\(\lambda\)は\(B\)の固有値です。\(A\)の固有ベクトル\(x\)は、\(B\)では\(P^{-1}x\)に対応しており、固有ベクトルそのものは等しくないことに注意しましょう。

 

続いて固有多項式について。

\(A\)の固有多項式は\(p_A(\lambda)= \det (\lambda I -A)\)です。\(B\)の固有多項式を行列式の性質を使って計算すれば、

\[\begin{eqnarray} p_B(\lambda) &=& \det (\lambda I – B)\\ &=& \det (\lambda P^{-1}P -P^{-1}AP) \\&=& \det (P^{-1}(\lambda I -A) P)&=& \det P^{-1} \det (\lambda I -P) \det P \\ &=& \frac{1}{\det P}p_A(\lambda) \det P \\ &=& p_A(\lambda)\end{eqnarray}\]

と等しいことがわかりました。

 

トレース

\(A,B\)が相似ならば、対角成分の和(トレース)\(\mathrm{tr} A = \mathrm{tr} B\)も等しいです。

 

トレースは固有値の和に等しいという性質を認めれば、相似な行列で固有値が等しいことを示したので、トレースも等しいと言えます。

 

別の方法でも示せます。

まず、トレースは行列の積を交換しても等しい\(\mathrm{tr}(AB) = \mathrm{tr}(BA)\)を示しましょう。\(AB=BA\)である必要はありません。行列の積の\(i,i\)成分を計算すると、

\[(AB)_{ii}= \sum _{k=1}^n a_{ik}b_{ki}\]

\[(BA)_{ii}= \sum _{k=1}^n b_{ik}a_{ki}\]

なので、トレースは、添字の入れ替えによって

\[\begin{eqnarray} \mathrm{tr}AB &=&\sum_{i=1}^n \sum _{k=1}^n a_{ik}b_{ki} \\&=& \sum_{i=1}^n \sum _{k=1}^n b_{ik}a_{ki} \\ &=& \mathrm{tr} BA\end{eqnarray}\]

と言えました。

\(A,B\)が相似なとき、そのトレースは

\[\begin{eqnarray} \mathrm{tr}B& =& \mathrm {tr}((P^{-1}A)P) \\&=& \mathrm{tr}(P(P^{-1}A)) \\&=& \mathrm {tr} (IA) \\&=& \mathrm{tr} A \end{eqnarray}\]

と等しくなることがわかりました。

 

相似による同値関係

今まで述べてきたことから、すべての正方行列は、同じランク・行列式・固有値・トレースを持つグループに分けられる、と考えられます。

一般に、\(M \)を\(n\)次の正方行列のなす集合として、行列の相似\(A \sim B\)という2項関係は、同値関係になることが示せます。

 

反射律:\(A= I^{-1}A I\)なので、\(A \sim A\)が成り立ちます。

対称律:\(A \sim B\)と仮定します。ある可逆行列により、\(B=P^{-1}A P\)です。左から\(P\)、右から\(P^{-1}\)をかけると、\(PBP^{-1} = A\)です。よって、\(B \sim A\)が成り立ちます。

推移律:\(A \sim B\)、\(B \sim C\)と仮定します。\(B= P^{-1}AP\)、\(C=Q^{-1}BQ\)を満たす可逆行列\(P,Q\)が存在します。これらを合わせれば、\(C=Q^{-1}P^{-1}APQ\)です。\(PQ\)は可逆行列で、\((PQ)^{-1}=Q^{-1}P^{-1}\)なので、\(A \sim C\)と言えました。

 

以上、行列の相似という考え方、対角化との関係、不変量、同値関係について紹介してきました。

与えられた行列をそのまま分析するのではなく、それがどんな簡単な行列と相似になるのか。複雑な行列から本質の一部を取り出すのが、対角化やジョルダン標準形の議論と言えます。その視点を得るために、行列の相似という考え方に慣れてみてはいかがでしょうか。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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