どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、連続関数はゼロでない点の近傍でゼロでないことについて紹介し、証明します。
簡単な説明
何を言っているかと言うと、連続関数\(f\)が\(f(a) \neq 0\)を満たすなら、\(a\)に十分近い\(x\)についても\(f(x) \neq 0\)が成り立つ、という主張です。この「十分近く」の範囲を近傍と呼んでいます。
ごく簡単な例で考えてみましょう。\(f(x)=x\)という連続関数\(f: \mathbb{R}\to \mathbb{R}\)を考えると、\(f(\frac{1}{100})= \frac{1}{100} \neq 0\)です。このとき、\(a = \frac{1}{100}\)に近い\(x\)についてもゼロでなくなっています。実際、\(a\)を中心とした半径\(a\)の区間\(B(a, a)= |x-a |< a\)という近傍を考えましょう。\(x \in B(a,a)\)ならば、\(0 < x < 2a\)で、このとき\( f(x) = x \neq 0\)となるので。
連続関数が0でない値を取る点の近くでは、同じく0でない値を取り続けます。その範囲はごく小さいかもしれませんが、正の半径を持っているわけです。連続関数は、急激に変化せず、\(x\)の少しの変化では値が少ししか変化しないとも言えるでしょう。
証明
高校数学では、連続関数とはグラフが切れ目なくつながっていること、といったように説明されます(それはグラフの連結性の話ですが)。極限の言葉を使えば、\(f\)が\(a\)で連続であるとは、\(\lim_{x \to a}f(x) =f(a)\)が成り立つことです。
主張の感覚的な説明をしてみます。\(f(a)\neq 0\)を満たす\(a\)を考えましょう。\(x\)が\(a\)に近づくとき、\(f(x)\)は\(f(a)\)という0でない値に近づきます。仮に\(a\)に近いすべての\(x\)で\(f(x)=0\)であったとすると、\(f(x)\)は\(f(a)\)に近づくことはできません。よって、\(a\)に十分近い\(x\)では、\(f(x)\)に十分近く0でないと考えられます。
もう少し厳密に考えるには、連続性の定義を\(\lim_{x \to a}f(x) =f(a)\)をイプシロンデルタと呼ばれる方法で定量的に扱うと良いでしょう。
定義域\(U \subset \mathbb{R}^N\)を開集合、\(f: U \to \mathbb{R}\)とします。\(f\)が\(a\)において連続であるとは、任意の\(\varepsilon >0\)に対し、\(\delta >0\)で次の条件を満たすものが存在すること:\(x \in U\)が\(\|x-a\| < \delta\)を満たすならば\(|f(x)-f(a)| < \varepsilon\)を満たす。
この定義から主張を示します。\(f\)を連続で、\(f(a) \neq 0\)を満たすと仮定しましょう。\(\varepsilon = |f(a)|>0\)に対して、連続性の定義から「\(x \in U\)が\(\|x-a\| < \delta\)を満たすならば\(|f(x)-f(a)| < |f(a)|\)を満たす」ような\(\delta\)を選ぶことができます。\(x\)を\(\|x-a\| < \delta\)を満たすとしましょう。
場合分けします。\(f(a)>0\)のときは、\(|f(a)|= f(a)\)で、\(|f(x)-f(a)|< f(a)\)です。不等式を展開すると、\(-f(a) < f(x)-f(a)< f(a)\)なので、左側の式から\(0=-f(a)+f(a)<f(x)\)が言えました。\(f(a)<0\)のときは、\(|f(a)|=-f(a)\)で、\(|f(x)-f(a)|< -f(a)\)です。同様にして、\(f(a) <f(x)-f(a)<-f(a)\)なので、右側の式から\(f(x)<-f(a)+f(a)=0\)です。
以上によって、ある近傍\(B(a,\delta) =\{x \in U \mid \|x-a\| < \delta\}\)の点\(x\)については、\(f(x ) \neq 0\)を満たすことが示せました。
反例
このような議論ができるのは、\(f\)に連続性があるからです。
\[ \begin{aligned}f(x)= \begin{cases}1 & (x=0 )\\0 & (x \neq 0)\end{cases}\end{aligned} \]
という不連続な関数を考えます。\(f(0)=1 \neq 0\)ですが、\(0\)にどんなに近い\(x \neq 0\)を考えても、\(f(x)=0\)となってしまいます。
応用例
応用例として、連続関数のなす線形空間\(C(U)\)に
\[ \begin{aligned}\langle f,g \rangle: = \int _U f(x) g(x) dx\end{aligned} \]
によって内積を定めたい、という問題を考えます。(\(f,g\)はこの積分が有限値となる:2乗可積分とも仮定する)
内積の定義のひとつに、正定値性:\(f \neq 0\)ならば\(\langle f,f\rangle> 0\)があります。これを示しましょう。
\(f \neq 0\)とは、恒等的に0という関数ではないことなので、\(f(a) \neq 0\)なる点\(a\)が存在します。\(f\)は連続関数なので、今までの議論から、\(f(x) \neq 0\)を満たす近傍\(B(a, \delta)\)が選べます。よって、積分の加法性と単調性から
\[ \begin{aligned} \langle f,f\rangle &= \int_U f(x)^2 dx \\ & \geq \int_{B(a, \delta)} f(x)^2 dx \\ &>& \int_{B(a, \delta)} 0 dx \\ &=0\end{aligned} \]
と、内積の正定値性が言えました。
以上、連続関数のゼロでない点があると、その近傍でもゼロでない値を取ることを紹介してきました。
今回はゼロに注目しましたが、\(f(a) \neq b\)ならば\(a\)に十分近い\(x\)に対して\(f(x ) \neq b\)も言えます。全く同じ議論です。
連続関数の性質としてごく当たり前に使われる議論なので、目にしても驚かずに利用してみてください。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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