どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、ヒルベルト空間の直交補空間による直和分解を紹介します。
直交補空間による直和分解とは
\(H\)をヒルベルト空間(完備な内積空間)、\(V\subset H\)をその閉部分空間(閉集合であり、部分空間である)とします。
このとき、すべての\(h \in H\)は\(h= v+ w \)、\(v \in V , w \in V^{\perp}\)と一意に表すことができます。
つまり、\(H= V \dot{+}V^{\perp}\)と直和分解できます。
ここで、\(V^{\perp}\)は\(V\)の直交補空間
\[V^{\perp}:= \{u \in H \mid すべてのv \in V に対し \langle u,v \rangle_H =0\}\]
です。
直和分解があると、\(V\)への直交射影\(P_V:H \to V \)を\(P_V (h)=x\)により定義できます。
証明
では、すべての\(h \in H\)は\(h= v+ w \)、\(v \in V , w \in V^{\perp}\)と一意に表せることを証明しましょう。
分解の一意性
\(h= v_1+w_1 =v_2+w_2\)、\(v_1,v_2 \in V\)、\(w_1 ,w_2 \in V^{\perp}\)と表せたとしましょう。
差を取ると、\(v_1 -v_2 =w_1 -w_2\)です。\(V, V^{\perp}\)は部分空間なので、\(v_1 -v_2 \in V\)、\(w_1-w_2 \in V^{\perp}\)となります。ノルムの大きさを計算すると、直交補空間の定義から、
\[\begin{aligned} & \|v_1-v_2\|_H^2\\ &= \langle v_1-v_2,v_1-v_2\rangle_H \\ &= \langle w_1-w_2,v_1-v_2\rangle_H \\&=0\end{aligned}\]
です。したがって、ノルムの正定値性から\(v_1-v_2=0\)です。よって、\(v_1 =v_2\)、\(w_1 =w_2\)となるので、分解の一意性が示せました。
分解の存在
まず、\(\|h-v\|= \inf_{u \in V} \|h-u\|\)を満たす(v\)が存在することを示しましょう。これは\(v\)が\(V\)の要素のうち\(h\)に最も近い要素であることを意味しています。
\(\delta := \inf_{u \in V} \|h-u\|\)と置きます。下限の点列による特徴付けから、\(n \in \mathbb{N}\)に対し、\(\|h-v_n\|_H^2 \leq \delta^2+\frac{1}{n}\)を満たす\(v_n \in V\)が存在します。
\((v_n)\)がコーシー列であることを示しましょう。ノルムの二乗の展開から一般に、
\[\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=2 \|x\|^2+2\|y\|^2\]
となることに注意して(中線定理)、ノルムを計算すると
\[\begin{aligned} &\|v_n-v_m\|_H^2 \\ &=\|(v_n-h)-(v_m-h)\|_H^2 \\ &= 2\|v_n-h\|_H^2+2\|v_m-h\|_H^2 \\& \quad -\|v_n+v_m-2h\|^2_H \\& \leq 2(\delta ^2+\frac{1}{n})+2(\delta^2 +\frac{1}{m}) \\&-4\| \frac{1}{2}(v_n+v_m)-h\|^2_H \\ &= 4\delta^2+\frac{2}{n}+\frac{2}{m}- 4\delta^2 \\ &=\frac{2}{n}+\frac{2}{m} \end{aligned}\]
です。途中、\(v_n,v_m \in V\)で、\(V\)が部分空間であることから\(\frac{1}{2}(v_n+v_m) \in V\)、下限は下界であることから\(\delta^2 \leq \| \frac{1}{2}(v_n+v_m)-h\|^2_H\)を用いました。
\(\varepsilon >0\)に対し、\(N\)を\(\sqrt{\frac{4}{N}}< \varepsilon\)を満たす自然数としましょう。すると、\(n, m \geq N\)のとき、さきほどの計算から\(\|v_n-v_m\|_H \leq \sqrt{\frac{2}{n}+\frac{2}{m}}\leq \sqrt{\frac{4}{N}} <\varepsilon\)となるので、\((v_n)\)はコーシー列です。
\(H\)の完備性から、\((v_n)\)は収束します。その極限を\(v\)とします。\(V\)は閉集合なので極限について閉じているため、\(v \in V\)です。
\(\|h-v_n\|_H^2 \leq \delta^2+\frac{1}{n}\)を満たすように構成していて、極限を取っても不等式は保たれるので、\(\|h-v\|_H \leq \delta \)です。下限が下界であることと合わせれば、\(\|h-v\|= \inf_{u \in V} \|h-u\|\)を満たす\(v \in V\)が存在することが示せました。\(v \in V\)であることから、これは最小値です \(\|h-v\|= \min_{u \in V} \|h-u\|\)。
これに対し、\(w:= h-v\)と置きます。\(h=v+w\)です。残りは、\(w \in V^{\perp}\)を示せば良いです。
\(u \in V\)とします。少しずらした要素との差の大きさを計算しましょう。\(t \in \mathbb{R}\)に対し、\(V\)が部分空間であるから\(v+tu \in V\)です。下限は下界であること、ノルムの二乗の展開から
\[\begin{aligned} &f(t)\\ &:= \|h-(v+tu)\|_H^2 \\&=\|w-tu\|_H^2 \\ &= \|w\|_H^2 -2t \langle w,u\rangle + t^2 \|u\|_H^2\end{aligned}\]
となります。\(f:\mathbb{R} \to \mathbb{R}\)は微分可能で、かつ\(t=0\)のとき最小となることがわかっています(\(f(0) = \|h-v\|_H^2 =\delta^2 \)と下限の定義)。したがって、\(f^{\prime}(0)=0\)です。つまり、\(-2 \langle w,u \rangle=0\)で、\(w \in V^{\perp}\)が示せました。
分解の存在は、\(V\)が閉部分空間ではなく、凸な閉集合についても知られています(ヒルベルトの射影定理、凸射影定理)。
以上、ヒルベルト空間の直交補空間による直和分解を紹介してきました。
有限次元のケースと同様の分解ができるわけですが、射影の存在を保証するために近似列を収束させる:閉集合性を利用していることに注意したいですね。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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