どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、作用素ノルムの複数の定義が同値であることの証明を紹介します。
定義の確認
有界線形作用素\(F: X \to Y\)に対し、
\[\|F\|_{B(X,Y)}:= \inf \{M \mid \\すべてのu\in Xに対し \|F(u)\|_{Y} \leq M\|u\|_{X}\}\]
を\(F\)の作用素ノルムと呼びます。
\(X \neq \{0\}\)のとき、作用素ノルムの同値な定義として、
\[\|F\|_{B(X,Y)}= \sup_{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} = \sup _{\|u\|_{X} =1} \|F(u)\|_Y\]
があります。これらの定義が論理的に等しいことを示しましょう。
証明
下限による定義と商の上限による定義が等しいこと
まず基本的な事実として、すべての\(u \in X\)に対し、\(\|F(u)\|_Y \leq \|F\|_{B(X,Y)} \|u\|_X\)となります。
なぜか。上限・下限と数列の関係
\(A\)を実数の部分集合とする。次の条件は同値。
- \(K = \sup A\)
- \(K\)は\(A\)の上界で、\(K\)に収束する\(A\)内の数列\((a_n)_{\in \mathbb{N}}\)が存在する。
\(A\)内の数列\((a_n)_{\in \mathbb{N}}\)とは、すべての\(n \in \mathbb{N}\)に対し、\(a_n \in A\)が成り立つことです。
下限についても同様の主張が成り立つ。
を用いましょう。\(\|F\|_{B(X,Y)}\)は下限であることから、\((a_n)\subset \mathbb{R}\)で、\(\lim_{n\to \infty} a_n = \|F\|_{B(X,Y)}\)かつ\(\|F(u)\|_Y \leq a_n \|u\|_{X}\)を満たすものが存在します。極限は不等式を保つので、\(\|F(u)\|_Y \leq \lim_{n \to \infty}a_n \|u\|_X = \|F\|_{B(X,Y)} \|u\|_X\)となりました。
\(u \neq 0\)とします。ノルムの正定値性から\(\|u\|_X \neq 0\)です。不等式を\(\|u\|_X\)で割れば、
\[\begin{aligned} & \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \\ &\leq \|F\|_{B(X,Y)} \end{aligned}\]
となるので、\(\|F\|_{B(X,Y)}\)は\(\{ \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \mid u \neq 0\}\)の上界です。上限は最小の上界なので、
\[\begin{aligned} & \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \\ &\leq \|F\|_{B(X,Y)} \end{aligned}\]
となりました。(もし\( \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} >\|F\|_{B(X,Y)} \)と仮定すると、\(\frac{\|F(v)\|_{Y}}{\|v\|_{X}}> \|F\|_{B(X,Y)}\)を満たす\(v \neq 0\)が存在します。これはさきほど示した不等式に矛盾しました。)
一方で、上限は上界なので、\(u \neq 0\)のとき、
\[\begin{aligned} & \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \\ &\leq \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \end{aligned}\]
です。\(\|u\|_X\)をかければ、
\[\begin{aligned} & \|F(u)\|_{Y}\\ &\leq \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \|u\|_X \end{aligned}\]
となります。また、\(u=0\)のとき、\(F\)の線形性から\(F(0)=0\)、ノルムの正定値性から\(\|0\|_Y=0\)です。ゆえに、\(\|F(0)\| =0\leq \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \|u\|_X\)となります。
したがって、すべての\(u \in X\)に対し、\( \|F(u)\|_{Y}\leq \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \|u\|_X\)です。つまり、\(\sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \in\{M \mid すべてのu\in Xに対し \|F(u)\|_{Y} \leq M\|u\|_{X}\} \)です。下限は下界であることから、
\[\begin{aligned} & \|F\|_{B(X,Y)} \\ &= \inf \{M \mid すべてのu\in Xに対し\\&\quad \|F(u)\|_{Y} \leq M\|u\|_{X}\} \\ &\leq \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \end{aligned}\]
が示せました。
以上により、
- \( \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}}\leq \|F\|_{B(X,Y)}\)
- かつ \( \|F\|_{B(X,Y)} \leq\sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}}\)
なので、\(\|F\|_{B(X,Y)}= \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}}\)です。
商の形の定義が等しいこと
続いて、\(u \neq 0\)としましょう。\(v:= \frac{1}{\|u\|_X}u\)と置くと、\(\|v\|_X = \frac{1}{\|u\|_X}\|u\|_X=1 \)です。
\(F\)の線形性とノルムの定数倍の性質、上限は上界であることから、
\[\begin{aligned} &\frac{\|F(u)\|_Y}{\|u\|_X} \\ &= \frac{\|F(\|u\|_X v)\|_Y}{\|\|u\|_X v\|_X } \\&=\frac{\|u\|_X \|F(v)\|_Y}{\|u\|_X \|v\|_X} \\&= \|F(v)\|_Y\\&\leq \sup _{\|u\|_{X} =1} \|F(u)\|_Y \end{aligned}\]
です。\(u \neq 0\)であり、上限は最小の上界であることから、
\[\begin{aligned} & \sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \\ &\leq \sup _{\|u\|_{X} =1} \|F(u)\|_Y \end{aligned}\]
となります。
また、\(\|u\|=1\)を満たす\(u\)について考えます。ノルムの正定値性から、\(u \neq 0\)です。上限は上界なので、
\[\begin{aligned} & \|F(u)\|_{Y}\\& = \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \\ &\leq\sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \end{aligned}\]
です。上限は最小の上界なので、
\[\begin{aligned} & \sup_{\|u\|_X=1}\|F(u)\|_{Y}\\& = \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \\ &\leq\sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \end{aligned}\]
が示せました。
以上により、
- \(\sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \leq \sup_{\|u\|_X=1}\|F(u)\|_{Y}\)
- かつ \( \sup_{\|u\|_X=1}\|F(u)\|_{Y} \leq\sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}} \)
なので、\(\sup _{u \neq 0} \frac{\|F(u)\|_{Y}}{\|u\|_{X}}= \sup_{\|u\|_X=1}\|F(u)\|_{Y}\)です。
これですべての定義が等しいことが示せました。
以上、作用素ノルムの複数の定義が同値であることの証明を紹介してきました。
有界線形作用素のなす線形空間\(B(X,Y)\)は、作用素ノルムについてノルム空間となります。それについては別記事で。
作用素ノルムの複数の定義は、基本的事実として当たり前に用いて良いものだと思いますが、上限や下限の定義を用いて自分で確認できるとより良いですね。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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