有界線形作用素のなす集合B(X,Y)が線形空間となることの証明

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、有界線形作用素のなす集合\(B(X,Y)\)が線形空間となることの証明を紹介します。

 



定義の確認

\(X,Y\)をノルム空間、\(B(X,Y)\)を有界線形作用素のなす集合とします(\(\mathcal{L}(X,Y)\)と書くことも)。

作用素に対して和、スカラー倍を定義することで、線形空間の定義を満たすことを証明しましょう。

\(V\)を集合とする。

\(V\)の任意の要素\(x,y,z\)、任意の数\(a,b\in \mathbb{R}\)に対し、和\(x+y \)、スカラー乗法\(ax \)と呼ばれる\(V\)の要素が定まり、次の条件を満たす。

 

結合法則:\((x+y)+z = x+(y+z)\)

交換法則:\(x+y =y+x\)

ゼロベクトルの存在:\(\exists o(o+x =x)\)

逆ベクトルの存在:\(\exists w (x+w=o)\)。これを逆ベクトルと言い、\(w=-x\)と書く。

分配法則:\((a+b)x= ax+bx\)

分配法則:\(a(x+y)=ax+ ay\)

両立条件:\((ab)x= a(bx)\)

スカラー乗法の単位要素:\(1x =x\)

 

このとき、\(V\)を線形空間という。

 

和、スカラー倍の定義

以降、\(F,G,H \in B(X,Y)\)、\(a,b \in \mathbb{R}\)とします。

作用素の和\(F+G\)を

\[(F+G) (u) =F(u)+G(u)\]

スカラー倍\(aF\)を

\[(aF)(u)=aF(u)\]

によって定義しましょう。

これらが有界線形作用素となることを確認します。\(F,G\)は有界なので、「すべての\(u\)に対し、\(\|F(u)\|_Y \leq  M_1\|u\|_X\)」「すべての\(u\)に対し、\(\|G(u)\|_Y \leq  M_2\|u\|_X\)」を満たす\(M_1,M_2\)が存在します。

ノルムの三角不等式を用いれば、

\[\begin{aligned}  &\|(F+G)(u)\|_Y \\ &=\|F(u)+G(u)\|_Y \\&\leq \|F(u)\|_Y+\|G(u)\|_Y \\ &= M_1\|u\|_X +M_2 \|u\|_X \\ &\leq \max\{M_1,M_2\} \|u\|_X \end{aligned}\]

となり、\(M=\max\{M_1,M_2\}\)は\(u\)に依存せず、\((F+G )\in B(X,Y)\)です。

スカラー倍とノルムの性質を用いれば、

\[\begin{aligned}  &\|(aF)(u)\|_Y \\ &=\|aF(u)\|_Y \\&\leq |a|\|F(u)\|_Y \\ &= |a|M_1\|u\|_X \end{aligned}\]

となり、\(|a|M_1\)は\(u\)に依存せず、\(aF \in B(X,Y)\)となりました。

 

線形空間であることの証明

線形空間の性質を満たすことを、順に確かめていきましょう。

 

結合法則:\((F+G)+H = F+(G+H)\)

は、\(Y\)が線形空間で結合法則が成り立つことから、

\[((F+G)+H)(u) =(F+G)(u)+H(u) \\ = F(u)+G(u)+H(u)\]

\[(F+(G+H))(u) =F(u)+(G+H)(u) \\ = F(u)+G(u)+H(u)\]

と成り立ちます。

 

交換法則:\((F+G) = (G+F)\)

も、\(Y\)が線形空間で交換法則が成り立つことから、

\[((F+G))(u) =F(u)+G(u) \\ = G(u)+F(u)=(G+F)(u)\]

と成り立ちます。

 

ゼロ作用素\(O:X \to Y\)を、\(O(u)=0\)によって定義しましょう(\(0\)は\(Y\)の0ベクトル)。\(\|O(u)\|_Y = 0 \leq 0 \|u\|_X \)なので、\(O \in B(X,Y)\)です。

さらに、\((O+F)(u)=O(u)+F(u)=F(u)\)なので、\((O+F)=F\)、0ベクトルの存在が示せました。

 

\(F \in B(X,Y)\)に対し、\(-F \in B(X,Y)\)を考えます。

\((F+(-F))(u)=F(u)+(-F(u))=0 = O(u)\)なので、\((F+(-F))=O\)、逆ベクトルの存在が示せました。

 

2つの分配法則について。\(Y\)における分配法則から

\[((a+b)F)(u)=(a+b)F(u) \\ =aF(u)+bF(u) =(aF+bF)(u)\]

となるので、\((a+b)F = aF+bF\)であり、

\[(a(F+G))(u)=a(F+G)(u) \\ =a(F(u)+G(u)) =aF(u)+aG(u) \\ =(aF+aG)(u)\]

となるので、\(a(F+G)=aF+aG\)と成り立ちます。

 

両立条件は、\(Y\)における両立条件から

\[((ab) F)(u) =ab F(u) \\ =a(bF(u))  = a((bF)(u))\]

となり、\((ab)F = a(bF)\)と成り立ちます。

 

スカラー乗法の単位要素について、\(Y\)におけるスカラー乗法の単位要素の性質から、

\[(1F)(u)= 1F(u) =F(u)\]

となり、\(1F= F\)です。

以上により、\(B(X,Y)\)は作用素の和、スカラー倍について線形空間となることが示せました。

 

以上、有界線形作用素のなす集合\(B(X,Y)\)が線形空間となることの証明を紹介してきました。

\(Y=\mathbb{R}\)のとき、\(X^{*}:= B(X, \mathbb{R})\)は\(X\)の双対空間と呼ばれます。これは今回の特殊ケースであり、双対空間が線形空間であることも示せました。

\(B(X,Y)\)は、作用素ノルムについてノルム空間にもなります。これについては別記事にて。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

 

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