数学研究につながる深い学び方「志学数学」レビュー

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、数学研究につながる深い学び方を身に着けられる本、「志学数学」をレビューします。

 

志学数学 -研究の諸段階 発表の工夫 (シュプリンガ-数学クラブ)
伊原 康隆(著)
丸善出版 (2012-07-17T00:00:01Z)
5つ星のうち4.8
¥3,696 (コレクター商品)

 



どういう本か

志学数学」は、数学の研究や発表について、数学者による知恵や工夫をまとめた本です。

数学科の研究室に所属しこれから数学の研究をしようとする人数学の研究の雰囲気を味わってみたい人に主におすすめします。

実際、僕がこの本を手に取ったのは理学部数学科3、4年の頃でした。数学の研究について書かれた本はあまりないですが、その中で最も役立った本になりました。

第1章のタイトルは「学習と研究の諸段階」で、学ぶことと研究は分けられないものだという考え方を提示しています。

学部で数学を学んでから、すぐさまに未解決の問題を解けるような人はなかなかいないでしょう。そこからどんなことに気をつけて学習していけば研究に結びつくか、その手引きとなる本です。

数学の勉強本として大学入学レベルで僕が最もおすすめしている本が「数学書の読みかた」ですが、それは文章をきちんと読む技術に関する本です。「志学数学」はより高度な数学の学び方、深め方に関する心構えを教えてくれます。

 

目次

  • まえがき
  • 第I章 学習と研究の諸段階、脱皮
    • 1 はじめに
    • A 高等数学に興味を持つ
    • B 本格的な書物を考えながら読む
    • C 問題をつくって解いてみる
    • D 最初のまとまった研究体験
    • E さらに見聞を広める
    • F 本格的な研究生活へ
  • 第II章 話す、聞く
    • 1 はじめに
    • 2 セミナーでの話
    • 3 研究集会での話
    • 4 研究集会での話(続き)…その他の視点から
    • 5 コロキウム
    • 6 歩きながらの話
    • 7 聴衆として
    • 8 ときには「雲の上」に
    • 9 国際研究集会の雰囲気
    • 10 大家のコメント(広中平祐氏のお話より)
  • 第III章 書く
    • 1 はじめに
    • 2 なぜ論文を書くか
    • 3 内容の再検討
    • 4 準備、構成
    • 5 タイトル、定理、予想 等
    • 6 記号系の選択
    • 7 文章-1
    • 8 文章-2(最低限のチェックポイント)
    • 9 文章-3(次のレベル)
    • 10 序文、引用、謝辞、アブストラクト
    • 11 推敲
    • 12 ドラフト
    • 13 マニュスクリプト
    • 14 投稿
    • 15 そして…
    • 16 拒否されたら
    • 17 受理されたら
    • 18 出版
  • 第IV章 学習と研究、内と外(随想4篇)
    • 1 心の境界線を超えて
    • 2 理感
    • 3 内圧と外圧
    • 4 環境の変化による影響

 

良い点

この本で最も印象に残っているのが、「本を伏せての勉強が大切」という考え方です。

(1) 本を伏せての勉強が大切

(2) わからなかったら何度でも前に戻る

(3) 大切な定理は、実例をつくったり条件をはずすなど十分に味わってから証明を読む

引用:志学数学

(1) 本を伏せての勉強が大切

区切りのよいところまで来たら、次に進もうとする前にちょっと本を伏せてください。そして白い紙と鉛筆をとって、さて何が書かれていたか、主な事がどのくらい頭に入っているか、自ら書いてみて下さい。主な定義、定理(ある条件のもとで…が成り立つ、くらいでもよいから)が書けなかったら、もう一度ページを戻して下さい。これは、何も、書かれていたことを暗記しながら進め、と言っているのではありません。数学は、理解の深さによって努力的暗記をしないですませられる学問です。暗記ではなく理解が問われるわkです(これについても後述)。

引用:志学数学

 

数学科の研究室では、本や論文、自分の研究を題材としたセミナーが行われることが多いでしょう。その準備について「セミナーの準備のしかたについて」という文章は有名です。

「本を伏せての勉強」という考え方は、この何も見ないで説明するセミナーへの準備にもなりますし、それだけでなく僕にとっての数学の学習・研究観を大きく変えるものでした。

本に向き合って数学的文章の行間を埋める、という工程をするだけでなく、煮詰まったときにより深い認識を得ようと考えるようになりました。何も見ないで考えていたことを紙に再構築したり、散歩や移動中に考えて自分の理解を深めるようになりました。机の上でなくても自分の数学を構築しようとする時間は、とても楽しいです。(ただし、考え過ぎると電車の乗り過ごしをしたり、車が危ないので、考えるときは安全な場所にしましょう。)

「書かれていること(だけ)を読む」から「自分なりに数学を再構築する」を知ったことで、研究に手を付けやすくなっただけでなく、数学の勉強そのものへの意識が変わりました。何も見ないで考える過程で、だんだんと自分の数学の理解を見直し、より原理的に理解できることが増えたのです。この点で、数学を研究する人だけでなく、数学を深く学ぼうとしている人にもこの本はおすすめしたいです。

参考:受験勉強と大学の勉強の違い:数学や物理の体系的な学びとはモチベーションを見出す大学数学の勉強法

 

気になる点

目標が数学の研究者になることであり、基準が結構厳しいです。また、大学以前から恵まれた環境で数学を学んできたのだな、と思う部分があります。

例えば、「現在の学習段階の範囲での難しめの問題を、自力で解けることが多いか」で数学との相性を判断する、など。数学の教科書の章末問題などを自力で解くのは、(本によりますが)かなり難しいです。

あくまでこの本で書かれていることは手がかりであり、必ずできなければならない、というものではないので注意しましょう。自分なりに向かい合って考えられるという姿勢が大事なのですから。

 

ここまで紹介してきた内容は主に1章で、2章3章は数学の研究発表、論文執筆に関するものです。ここは数学の研究者以外だと役立てやすいか微妙なので、興味に応じて読みましょう。

 

以上、「志学数学」をレビューしてきました。

数学の研究や発見に関する本では「科学と仮説」や「数学における発明の心理」も有名です。

志学数学」は学びと研究を結びつけるという点が特徴的で、数学研究やその前の学習の手引きとして、最初に読んでみると良いでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

志学数学 -研究の諸段階 発表の工夫 (シュプリンガ-数学クラブ)
伊原 康隆(著)
丸善出版 (2012-07-17T00:00:01Z)
5つ星のうち4.8
¥3,696 (コレクター商品)

 

科学と仮説 (岩波文庫 青 902-1)
ポアンカレ(著), 伊藤 邦武(翻訳)
岩波書店 (2021-12-17T00:00:01Z)
5つ星のうち4.5
¥1,315

 

数学における発明の心理
ジャック アダマール(著), Hadamard,Jacques(原著), 康治, 伏見(翻訳), 益比古, 大塚(翻訳), 辰之助, 尾崎(翻訳)
みすず書房 (2002-08-21T00:00:01Z)
5つ星のうち4.5
¥8,226 (中古品)

 

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