受験勉強と大学の勉強の違い:数学や物理の体系的な学びとは

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

東京大学で物理学を教えている清水さんが、次のような文章を書いていて印象に残りました。

Q. どこが大事な点か、教えてくれませんか?予備校や塾の先生はそうしてくれました。

A. これは、私がもっとも驚いた質問ですが、多くの学生さんがこういうことを言ってきます。大学で習う物理学のもっとも大事な点は、論理構造全体です。(これも、入試突破だけが目的の場合との大きな違いですね。)つまり、様々な式や事項が矛盾なく・美しく繋がってできる論理的な構造体こそが物理学であり、それを教えることが講義の目的です。各々の式や事項は、構造体の部品にすぎません。教科書や講義では、ページ数や時間数の制限から、この論理構造を教えるための必要最小限のことだけ述べていますから、全てが大事な点です。

引用:講義についての疑問・要望への返事

「論理構造全体が大事」という主張は、僕も強く同意します。一方で、大学に入学したての頃の自分にそう言われても、何を言っているのかいまいちピンと来なかったのではないかと思います。

今回は、数学や物理などの理論科目の、論理構造、体系を理解するとはどうういうことか書いてみます。

 

受験勉強と大学の勉強の違い

僕が大学の1年時・入学したての頃にもっと指摘してほしかったなと思うことのひとつに、受験に最適化した勉強法と大学の勉強法は大きく違う部分がある、ということです。

もちろん、全くの別物とは言いません。少ない努力で良い点数を取る能力は、大学の講義・試験でも役立つものです。(それが通用するテストかどうかはともかく)

参考:高校数学と大学数学のつながり、違い・ギャップを解説

 

で、受験勉強と大学の勉強が何が違うかというと、勉強の目的が違うのです。目的なんて人それぞれでしょうが、高校と大学では教員側としても主に目的とするところが違うでしょう。

受験勉強では、主に問題を解いて試験で良い点数を取ることを目標に勉強します。少なくとも僕の高校では、深く理解するというよりは、ちゃんと「正解」できるようになる方法を学ぼうね、という感じでした。「テストで出る場所を教えて下さい!」系の質問をする考え方は、まさにそれですね。

大学の勉強では、試験問題というのは、その科目の理解度を測るひとつの指標でしかありません。大学の先生は、その科目の内容を深く理解した学生を育てたくて、そのための手段として講義やテストをしている、のではないでしょうか。(仕事だから講義やテストをとりあえずこなしている、教育熱心でない先生もいるかもしれませんが……。)

 

高校では「君たちはこれを学び問題を解けるようになりなさい」と指示があるのが普通です。しかし大学に入るとこの状況は様変わりし、「あなたがこの科目を深く理解したいなら、教科書を読んで勉強しましょう。その助けとして講義も行っています。質問があればして理解を深めてください」といったものになります。「自分から勉強するつもり=主体性がある」と大学では期待されているのです。

別に勉強するつもりがないなら、しなくても良いけど、その代わりに単位も理解も得られない、という場所になっています。高校以前だとテストの点が悪ければ赤点といった習慣があったり、先生が口出し・指導してくれますが、大学では自分が勉強できるかどうかは自分の責任になっているのです。

参考:大学の数学の勉強についていけなかった経験談、その解決法

 

冒頭の「どこが大事な点か、教えてくれませんか?予備校や塾の先生はそうしてくれました」という質問は、「どこが大事な点か講義の中で見つけ出す」のは大学生の勉強・本分の一部であることに気づいていないのでしょう。

心のどこかで、自分に理解できないことは、先生や大人が誰か懇切丁寧に教えてくれると期待しているのでしょう。今までずっとそうしてきてもらったから。しかし、大学とは基本的にはそういう場ではないのです。教えてほしいならば、教えを請いに:質問しにいかなければなりません。いつまでも餌を与えてもらうひな鳥ではいられない。

一方で、「要点をまとめてしゃべってくれ、大学では学ぶ量が多すぎる、高校以前の方が講義がうまい人が多かった」という気持ちはわかります。受験産業があった高校に比べ、大学の数学・物理は学ぶのが難しいです。なので、そのサポートにならないかと「趣味の大学数学」というサイトを運営しているわけですが……。

参考:大学の数学の講義がわかりにくいときの対処法

 

論理体系を理解するとは

「数学・物理では論理構造の全体が大事なんだ」と言われても、「それって全部理解するってこと?そんなの非現実的だよ」と昔の僕は思ったことでしょう。この部分・公式だけ覚えて、解き方を練習するだけじゃダメなのか、と。

このギャップが大きいのは、数学や物理などの理論科目の特徴だと思います。

高校にいる間は、理論科目とは何か、そもそも先生から聞いたような覚えがありません。(大学に入ってからもそうですが……笑)

理論科目の基本的な考え方は、最初に大原則・仮定・定義を決めて、それをもとによく知られた法則・定理・命題を導出していくということです。

参考:大学数学の教科書の読み方、最初に「定義・命題・証明」を知ろう大学数学の教科書(数学書)が難しいのはなぜ? 読み方を考える

 

理論について考えることを、りんごの木に例えてみます。

高校までの勉強では、「りんごは赤く甘い実であること」や「収穫方法」を学ぶでしょう。一方で大学で考えることは、「りんごはどんな土地や気温:生育条件で育つのか」や「りんごはなぜ赤くなるのか」といった疑問を持つことです。役に立つ果実だけに注目するのではなく、それを支える枝葉、さらに幹や根っこの部分から考えていくということです。

 

冒頭で挙げた清水さんは熱力学を担当しているようです。僕も詳しくはないのですが、熱力学を例に、理論科目の考え方を述べましょう。

熱力学には、基本的な法則があります。

  1. 熱力学第0法則:物体間の熱平衡は温度により表される。
  2. 熱力学第1法則:内部エネルギー変化=加熱+仕事,としてエネルギー保存則が満たされる。
  3. 熱力学第2法則:ある種の巨視的な変化は不可逆である

参考:熱力学の基本法則の概略抜粋 – 戸田昭彦(広島大学)

このように、理論科目のはじまりには、何かしらの大原則があります。熱力学を考えるなら、この法則をまず出発点にしようと。数学ではそうした大原則・定義のことを、公理と呼びます。

清水さんは、熱力学の基本原理や要請と呼んでいますね。物理としては、所々の現象を説明するために、「最低限こういうもの(例:エントロピー)がある」として話を進めよう、と先を見据えた上で要求しています。

そうした準備があった上で、エントロピー増大の法則ボツルマンの原理が原理・要請から導かれていくことでしょう。

ここで、「熱力学の基本法則(原理)」と「エントロピー増大の法則やボツルマンの原理(結果)」には強い結びつきがあります。原理があるから、この結果が導かれるのであって、もし違う原理を仮定したら同様の結果は導けないかもしれません。「もっと少ない原理で物理現象を説明できないか? できないとしたらなぜなのか?」といった疑問は、おそらく物理学者はよく考えていることでしょう。

 

高校までの勉強なら、「とりあえず法則を覚えて使いこなせるようになろう」と考えるかもしれません。高校まででは、数学や物理の時間に、あまり公理や定義を強く意識するよう指導された記憶がありません。高校の授業・教科書では、わかりやすさのために理論的な正しさのごまかしをしている部分があります。細かいことは大学で学んでねということで、一旦は「教科書に書いてあるから正しいのだろう」と専門家にゆだねているわけです。

しかし大学で学ぶということは、専門家への歩みを進める第一歩です。どういう定義・仮定から法則・定理が導かれるのか、それを理解することが科目の深い理解につながっていきます。「個別の法則を使えるようになろう!」とするのはまあ役に立ちはするのですが、それだけでは全体像がつかめません。もし専門家になるならば、全体を俯瞰して説明できるようになっておきたいものです。

 

以上、受験勉強と大学の勉強の違い、数学や物理などの理論科目の体系的な理解について書いてきました。

定義と定理、大原則と法則の関連性について考えることは、僕は高校のときまでしてこなかったので、大学でその大事さに気づくまでには時間がかかりました。

アドバイスするとすれば、単位や点数を取ることを大目的にして勉強しないほうがいい、ということです。そういう勉強は、大学受験で終わりにしておきましょう。時間をかけて教科書を読み、科目を深く理解すれば、テストの点数は自然とある程度は取れます。

理解するのはとても難しく、時間がかかるので、とりあえず単位だけでも取らなくては、と焦ることもあるでしょう。しかし、特に数学や物理などの理論科目では、急がば回れです。「問題を解ける」というミクロな視点だけでなく、「何が基礎となって個別の物事が結びついているか」というマクロな視点を持つことが、大学の勉強を実りあるものにしてくれるでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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