線形写像の単射・全射・全単射の判定:ランクによる求め方

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、線形写像が単射、全射、全単射かどうか判定する方法として、表現行列のランクによる方法を紹介します。

前提知識:写像の単射・全射・全単射の判定、証明の書き方

 



ランクによる判定法

原理

\(V,W\)を線形空間、\(f: V \to W\)を線形写像とします。\(f\)が単射か、全射か、全単射かどうか判定したいとしましょう。

次のことが成り立つ。

\(f\)が単射 \(\Leftrightarrow\)  \(\mathrm{rank}{f} =\dim V\)

\(f\)が全射 \(\Leftrightarrow\)  \(\mathrm{rank}{f} =\dim W\)

\(f\)が全単射(同型写像) \(\Leftrightarrow\)  \(\mathrm{rank}{f} =\dim V =\dim W\) \(\Leftrightarrow\) 表現行列\(A_f\)が可逆行列

証明としては、線形写像の単射・全射と次元の関係次元定理\(\mathrm{dim}V= \mathrm{dim} (\ker f) + \mathrm{rank}f\)によるものです。覚え方としても、単射と核の次元(退化次数)が0が同値、全射とフルランクが同値とわかっていれば、イメージしやすいでしょう。

 

鍵となるのは、\(f\)のランク(階数)です。\(f\)のランクは、\(f\)の任意の表現行列を\(A_f\)として、

\[ \begin{aligned}\mathrm{rank}f := \mathrm {rank}A_f\end{aligned} \]

と定義されます。(基底の選び方によらず、\(\mathrm{rank}f\)は定まることが知られています。齋藤「線型代数入門」4章を参照。)

\(f\)が行列\(A\)により定まる線形写像\(f(x)=Ax\)のときは、単に\(\mathrm{rank}A\)を考えれば良いです。

線形写像が単射・全射・全単射かどうかは、その表現行列ランクを計算すれば良い、ということがわかりました。

 

例1

線形写像の表現行列、基底の変換の求め方を解説」で紹介した線形写像の単射・全射・全単射を判定していきましょう。表現行列の求め方はそちらの記事を見ていただき、今回はランクを求めていきます。

 

\(V=W = \mathbb{R}^2\)、両者に標準基底\(e_1,e_2\)を考えたとき、線形写像\(f(x) =(5x_1+2x_2,x_1)\)について考えましょう。

表現行列は

\[ \begin{aligned}A_f =\begin{pmatrix} 5 &2\\0&2 \end{pmatrix}\end{aligned} \]

です。これは基本変形をするまでなく、ランクが2であるとわかります。よって、\(\mathrm{rank}f=2\)です。

\(\dim V =\dim W =\mathrm{rank}f=2\)が成り立つので、\(f\)は全単射(同型写像)であることがわかりました。

 

例2

\(V= \mathbb{R}^2\)、\(W= \mathbb{R}^3\)、\(f:V \to W\)を\(f(e_1)=(1,5,2)\)、\(f(e_2)= (6,2,9)\)により定まる線形写像とします。

その表現行列のひとつは

\[ \begin{aligned}A= \begin{pmatrix} 1&6 \\5&2\\ 2&9 \end{pmatrix}\end{aligned} \]

です。基本変形すると

\[ \begin{aligned}\begin{pmatrix} 1&6 \\5&2\\ 2&9 \end{pmatrix} \sim \begin{pmatrix} 1&6 \\0&-28\\ 0&-3 \end{pmatrix}\end{aligned} \]

なので、\(\mathrm{rank}f=2\)です。

\(\dim V = \mathrm{rank}f\)、\(\dim W \neq \mathrm{rank}f\)なので、\(f\)は単射ではあるが、全射ではありません。

そもそも、\(\dim V =2 <3 =\dim W\)の時点で、どうやっても全単射にはならないことがすぐさま読み取れると良いでしょう。行列のサイズも\(3 \times 2\)で、最大でもランクは\(2\)なので、どうやっても全射にならないです。

 

例3

\(V=W= \mathbb{R}^2\)、\(f(x) =x\)について考えましょう求めましょう。

表現行列のひとつは、

\[ \begin{aligned}A_f =\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} \cos (-\frac{\pi}{4})& -\sin(-\frac{\pi}{4})\\ \sin( -\frac{\pi}{4})& \cos( -\frac{\pi}{4})\end{pmatrix}\end{aligned} \]

です。ランクではなく、\(A_f\)の行列式を調べてみましょう。その行列式は

\[ \begin{aligned} \det A_f &=\frac{1}{\sqrt{2}}((\cos (-\frac{\pi}{4}))^2+(\sin (-\frac{\pi}{4}))^2) \\  &= \frac{1}{\sqrt{2}} \neq 0\end{aligned} \]

なので、\(A_f\)は可逆行列です。よって、判定法により\(f\)は全単射であるとわかりました。

今回は、表現行列の例題のために基底を変えて\(f\)の表現行列を考えています。ただし、全単射性を考えるだけなら、表現行列がわかりやすくなるような基底の選び方をした方が良いでしょう。

例えば、\(V,W\)の基底を\(e_1,e_2\)としたときの表現行列は、単位行列\(I\)になるので、全単射性は判定しやすいです。そもそも、恒等変換\(f(x)=x\)が全単射となるのは、定義よりごく簡単に示せることですが。

 

例4

\(f: \mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^2\)、\(f(x_1,x_2,x_3)=(6x_1+2x_2+4x_3,2x_1+2x_3)\)により決まる線形写像を考えます。その表現行列のひとつは、

\[ \begin{aligned}A_f = \begin{pmatrix} 1&0&0\\0&1 &0 \end{pmatrix}\end{aligned} \]

です(標準形になるように、基底をうまく選んだ)。

よって、\(\mathrm{rank}f =2\)です。\(\dim \mathbb{R}^3 \neq \mathrm{rank}f\)で、\(\dim \mathbb{R}^2 =\mathrm{rank}f\)なので、\(f\)は単射ではないが全射ではあります。

基底をうまく選ぶと、線形写像\(f\)の表現行列は単純な形(標準形)になります。これは、適当な基底で表現行列を考えて、それを基本変形してランクを求めるのとやっていることは同じです。やりやすい方法を選ぶと良いでしょう。

 

例5

\(V=W= P_3(\mathbb{R})\)を3次以下の実係数の多項式のなす線形空間とします。\(D: V\to V\)を\(Df (x)= f^{\prime}(x)\)により定まる線形写像としましょう。

表現行列の一つは

\[ \begin{aligned}A_D=  \begin{pmatrix} 0&1&0&0\\ 0&0&2&0\\ 0&0&0&3\\ 0&0&0&0 \end{pmatrix}\end{aligned} \]

です。よって、\(\mathrm{rank}D =3\)。

\(\dim V=\dim W =4\)なので、\(D\)は単射でも全射でもありません。

微分の簡単な例を考えれば、ランクによらずとも、単射でも全射でもないことはすぐにわかるでしょう。

\(D\)は定数のずれを無視してしまう、例えば\(D(1)=D(2)=0\)なので、単射ではありません。また、考えている多項式は限定されているので、微分して\(x^3\)になるような3次以下の多項式は存在せず、全射ではないですね。

 

以上、線形写像の単射・全射・全単射性の判定方法として、ランクによる求め方を紹介してきました。

もちろん、単射、全射、全単射の定義に戻って示すことができるなら、それによって判定すれば良いでしょう。それが難しいと感じたときには、表現行列を考え、そのランクによって判定することができるわけです。

線形写像でない写像では、表現行列を考えることはできず、ランクによって全単射性を判定することはできません。線形写像という性質の強力さ、表現行列の便利さを感じられたでしょうか。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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