総和の記法(Σ記号)とは、平均と分散の計算例、性質

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

Σ(シグマ)記号を使った計算は、統計学をはじめとして、数学や科学でよく使われるものです。

今回は、数学における総和の記法(Σ記法)とは何か、その計算方法、性質について紹介します。

 



総和の記法とは

総和の記法(シグマ記法)とは、大量の足し算(和)を簡潔に記述するための方法です。

例えば、\(1,3,5,7,9\)という5つの数の和を表したいとしましょう。これらを\(x_1 =1\)、\(x_2 =3\)、\(x_3 =5\)、\(x_4 =7\)、\(x_5=9\)と、番号をつけた文字を使って表したとします。これらの和を、

\[ \begin{aligned} \sum_{k=1} ^5 x_k &=x_1 +x_2+x_3+x_4+x_5 \\ &=1+3+5+7+9 \\ &= 25\end{aligned} \]

と表しましょう。

\(\sum\)という記号は、足し合わせること(summation)の頭文字Sに対応したシグマというギリシャ文字です。\(\sum\)の右側にある数\(x_k\)を足し合わせることを意味します。

下側についた文字(添字)\(k\)は、足し合わせるときに動かす変数です。今回の場合は\(k=1\)から始めて、\(k=2,3,\dots\)と1ずつ増やしていって、\(k=5\)まで足し合わせることを意味しています。

 

有限個の数の列\(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\)は、数列またはベクトルと呼ばれます。

\(n\)個の数の列\(x_1,x_2,\dots,x_n\)の和は、

\[ \begin{aligned}\sum _{k=1} ^n x_k =x_1 +x_2+\cdots +x_n\end{aligned} \]

と表すことができます。\(\cdots\)を使って省略するような足し算は、\(\sum\)記号を使えば曖昧さなしに表現することができますね。

足し合わせるときに使う変数や文字の種類が違っても、同様に和を考えることができます。例えば、\(a_1,a_2,a_3\)の和は

\[ \begin{aligned}\sum _{i=1} a_i = a_1 +a_2+a_3\end{aligned} \]

と表せます。

 

\(x_1 =1\)、\(x_2 =3\)、\(x_3 =5\)、\(x_4 =7\)、\(x_5=9\)のような規則性のある列は、\(x_k =2k-1\)と表すことができます。その和を\(x_k\)の文字を表に出さずに

\[ \begin{aligned}\sum _{k=1}^ 5 (2k-1)\end{aligned} \]

と表すこともあります。

\(f(k)=2k-1\)という関数と考えて(\(k\)は自然数)、

\[ \begin{aligned}\sum _{k=1}^ 5 f(k)\end{aligned} \]

と表しても同じことです。

 

エクセルのような表計算ソフトでは、総和はSUM関数として実装されています。

数式バー(fxバー)に「=SUM(A1:A5)」と入力した結果です。SUMが和を取るという計算で、(A1:A5)が和を取る範囲を表しています。

つまり、\(k=1,2,\dots,5\)として\(\mathrm{SUM}(A1:A5)= \sum_{k=1}^{5} Ak\)です。

 

平均

和の記法を使った概念としては、平均が有名でしょう。

\(x=(x_1,x_2,\dots,x_n)\)の平均は、

\[ \begin{aligned}\mathrm{avg}(x):= \frac{\sum _{k=1} ^n x_k}{n}\end{aligned} \]

と定義されます。データの和を取って、その総個数で割った量です。

\(x_1 =1\)、\(x_2 =3\)、\(x_3 =5\)、\(x_4 =7\)、\(x_5=9\)のときは、

\[ \begin{aligned}\mathrm{avg}(x) = \frac{25}{5}=5\end{aligned} \]

ですね。

分散も総和の記法を使って定義できて、

\[ \begin{aligned}\mathrm{var}(x) = \frac{\sum_{k=1} ^n (x_k – \mathrm{avg}(x))^2} {n}\end{aligned} \]

です。

上の具体値を使うならば、

\[ \begin{aligned}   \mathrm{var}(x) &=\frac{(1-5)^2+(3-5)^2+(5-5)^2+(7-5)^2+(9-5)^2}{5}\\ &= \frac{16+4+0+4+16}{5} \\ &=8\end{aligned} \]

となります。

詳しくは:Pythonで統計量関数(平均、中央値、分散、相関係数)を作り、可視化しよう

 

和と定数倍の性質

総和の記号を使った計算では、和と定数倍について良い性質を持っています。

\(a=(a_1,a_2,\dots,a_n)\)、\(b= (b_1,b_2,\dots,b_n)\)という列は、\(n\)次元のベクトル、または\(n\)項の数列と呼びます。

ベクトルまたは数列に対して、

\[ \begin{aligned}\sum a := \sum_{k=1} ^n a_k\end{aligned} \]

と総和を考えることができます。

また、ベクトル・数列同士の和と定数倍を、

\[ \begin{aligned}a+b:=(a_1+b_1,a_2+b_2,\dots, a_n+b_n)\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\lambda a:=(\lambda a_1, \lambda a_2,\dots,\lambda a_n)\end{aligned} \]

と定義しましょう。\(\lambda\)は1次元的な数で、スカラーと呼ばれます。

 

すると、

\[ \begin{aligned}\sum (a+b) =\sum a + \sum b\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\sum (\lambda a)= \lambda \sum a\end{aligned} \]

という等式が成り立ちます。この性質を、総和の線形性と呼びます。

ベクトル・数列の和を取ってから総和を取るのと、それぞれの総和を取ってから和を取る結果は等しい。スカラー倍と和も交換できる、という性質です。

証明は簡単で、総和・和・スカラー倍の定義に従って計算するとわかります(確かめてみてください)。

 

総和の線形性を使って、\(x_k =2k-1\)、\(k=1,\dots,n\)の計算をしてみましょう。

\[ \begin{aligned} \sum_{k=1}^n (2k-1)&=\sum_{k=1}^n(2k) +\sum_{k=1}^n(-1) \\ &=2 \sum_{k=1}^n k – \sum_{k=1}^n 1 \end{aligned} \]

といったように、複雑な総和を単純ないくつかの和に分解することができます。

高校数学の数列の分野では、こうした単純な和を公式として表すことを学ぶでしょう。

\[ \begin{aligned}\sum_{k=1}^n 1  =n \end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\sum_{k=1}^n k =\frac{1}{2} n(n+1)\end{aligned} \]

参考:和の公式(1乗、2乗、3乗)の微積分による導出

これを使えば、

\[ \begin{aligned} \sum_{k=1}^n (2k-1)&=2\cdot \frac{1}{2} n(n+1) – n \\ &=n^2 \end{aligned} \]

となります。最初に扱った具体例では、\(n=5\)で結果は\(25\)であり、きちんと計算できています。

この形になれば、\(n=100\)でもいくらでも大きな数でも、簡単に総和を求めることができて便利ですね。

 

ちなみに、積と和は普通は交換できないです。

\[ \begin{aligned}\sum_{k=1}^n (a_k b_k) = (\sum_{k=1}^n a_k)(\sum_{k=1}^n b_k)\end{aligned} \]

のような式は一般には成り立ちません。例えば、\(n=3\)、\(a_1=1,a_2=0,a_3=1\)、\(b_1=0,b_2=1,b_3=0\)とすればわかります。

\[ \begin{aligned}\sum_{k=1}^n (a_k b_k) = 0\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}(\sum_{k=1}^n a_k)(\sum_{k=1}^n b_k) =2 \cdot 2 =4\end{aligned} \]

となるので。積とΣを入れ替えないように注意しましょう。入れ替えて良いのは、和と定数倍だけです。

ちなみに、

\[ \begin{aligned}\langle a,b\rangle:=\sum_{k=1}^n (a_k b_k) \end{aligned} \]

をベクトル\(a,b\)の内積、

\[ \begin{aligned} \|a\| :=\sqrt{\sum_{k=1}^n a_k^2}\end{aligned} \]

をベクトル\(a\)のノルム(大きさ)と呼びます。

参考:ユークリッド空間R^Nの内積、ノルム、距離について解説

 

総乗

Σ記号に似た性質を持った記号として、Π記号を使った総乗があります。

\[ \begin{aligned}\prod_{k=1}^n x_k = x_1 x_2 \cdots x_k\end{aligned} \]

というすべての番号に渡る積のことです。\(\prod\)は積(product)を表すギリシャ文字パイに対応しています。

\(x_k=2k-1\)、\(n=5\)のときならば、

\[ \begin{aligned}\prod_{k=1}^5 x_k = 1\cdot3\cdot5 \cdot7 \cdot9 =945\end{aligned} \]

です。総乗の記号を使えば、階乗\(n!\)を

\[ \begin{aligned}n! = \prod _{k=1}^ n k\end{aligned} \]

と表せますね。

 

以上、総和の記法(Σ記号)とはどういうものか、その計算例、性質を紹介してきました。

今回は有限個の数の和を考えましたが、無限個の和(有限和の極限)は無限級数と呼ばれるものです。無限和を扱う前段階としても、Σ記法を有限和の場合で扱っておくと良いでしょう。

Σ記号は、単にいくつかの数の足し算を省略するための記号です。見慣れないと困惑するかもしれませんが、非常に便利でいろいろな分野で使われるので、ぜひ扱えるようになっておきましょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

「確率・統計」を5時間で攻略する本 中学から高校、社会人まで役に立つ! 「勉強のコツ」シリーズ
松岡 宏之(著), 向山 洋一(編集)
PHP研究所 (1998-03-05T00:00:00.000Z)
5つ星のうち4.0
¥1,100

 

統計学入門 (基礎統計学Ⅰ)
東京大学教養学部統計学教室(編集)
東京大学出版会 (1991-07-09T00:00:01Z)
5つ星のうち4.2
¥3,080

 

こちらもおすすめ

Pythonで統計量関数(平均、中央値、分散、相関係数)を作り、可視化しよう

和の公式(1乗、2乗、3乗)の微積分による導出

数学における演算とは:二項演算、単項演算の簡単な例

中学高校の確率・統計を「5時間で攻略する本」レビュー

初等確率・統計のスキルツリー:必要な中学・高校数学