どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、大学で生物学を学ぶために学ぶために必要な大学数学の一覧を紹介します。
東京大学理学部の生物学科、生物化学科、生物情報科学科のカリキュラム、筑波大学「生物資源の基礎数学教材」を参考に書いています。僕の大学時代の専門は数学であり、生物学に関しては専門でないことをご了承ください。
生物学と数学の関係
生命現象を理解するには、化学や物理学の知識が必要になってきます。
たとえばオワンクラゲというクラゲが緑色に光ることに注目した研究により、緑色蛍光タンパクというものが発見され、それはノーベル化学賞を受賞しました。タンパク質は生体活動において基本的な役割を果たしていますが、特定のタンパク質を緑色蛍光タンパクによって光らせることで、生物が生きたままターゲットのタンパク質がどこで機能しているのかわかるようになりました。つまり、トレーサーとして応用できたわけです。
参考:2008年ノーベル化学賞『緑色蛍光タンパクの発見と応用』 – ChemStation
タンパク質がどんな機能を果たしているのか、遺伝子との関係はどうなっているのか知るには、分子や原子レベルの現象、すなわち化学が必要になりますね。化学結合や物質の発光について知るには、より根源的な法則、物理を知る必要があるでしょう。
そんな化学や物理を学ぶには、その基本的な言語となる数学を知る必要があります。よりマクロで実験的にしかわかっていない生物のことを知るにも、統計学の知識が求められます。
教養数学
教養数学は、大学1年で教養として学ぶことが多い数学科目です。
統計学
生物学のアプローチにはさまざまなものがありますが、そのどれもに共通しているのが統計学です。
統一的な法則が知られている傾向にある物理や化学に比べ、生物学では種や個体による違いが大きいです。そこで観察や実験を行う必要があるわけですが、得られた結果が偶然や恣意によるものでないことを示すには、統計学の知識は欠かせません。
統計学の歴史を見ても、生物学に関連する人物は多いです。たとえば平均への回帰を発見したゴルトン、相関係数の考え方を整理したピアソン、実験計画法をまとめあげたフィッシャーは有名ですね。
微分積分学
たとえば、微生物が爆発的に増えるといった現象は、指数関数などの関数で表すことができます。
生物の個体数の時間変化は、数学的には微分方程式で表されます。微分方程式を学ぶには、まず微分と積分とは何か知っておく必要があるでしょう。
微積分学は、物理学の理解に特に欠かせません。特に熱力学では偏微分といった概念を使いますが、それは化学の基礎ともなっています。
例えば、特定のDNAやタンパク質を分離させる手法として電気泳動がありますが、その理解には電磁気学が必要です。電磁気学の学習には、多変数の微積分、ベクトル解析を駆使します。
線形代数学
統計学において、2つのグループの間の関係を調べる分野は多変量解析と呼ばれますが、そうしたいくつかの変数を分析するにはベクトルや行列、線形代数の考え方が役立ちます。線形代数は、大量のデータや線形モデルを表すための言語です。
また、線形代数の理解は、量子力学の理解にもつながってきます。タンパク質の構造や動きを調べるために、NMR(核磁気共鳴)という手法があります。そうしたミクロな磁場について考えるには、量子力学の考え方が必要です。
専門数学
微分方程式
微分方程式は、生物の個体数変化や物理法則など、多くの現象を説明するモデルとして使われています。
例えば、ロジスティック方程式や捕食者-被食者モデルと呼ばれる常微分方程式は、数理生物学、システム生物学の簡単な例です。
参考:生物の増え方を予測:ロジスティック方程式とは?、食う-食われるの数学:捕食者-被食者モデル(ロトカ・ヴォルテラ方程式)とは?
神経を伝わる電気信号や、チーターの縞模様などは、ある種の偏微分方程式によって現れていることが知られています。
参考:生き物の模様は数式で決まる? チューリング・パターンとは、神経を伝わる電気信号を数式に:ホジキン-ハクスリー方程式
情報数学
近年、ゲノム(遺伝情報)をコンピュータを使って分析する、生物情報科学、バイオインフォ系の発展は目覚ましいです。
そうした分野を学びたい場合、情報科学、コンピュータサイエンスに関連する数学が必要となるでしょう。
例えば次の図は、大腸がんにまつわるタンパク質や遺伝子の相互関係(パスウェイ)を表しています。
画像引用:Colorectal cancer – Homo sapiens (human) KEGG
ゲノムは大量の情報であり、そのまま理解するのは難しいです。遺伝子とがんの発生にどんな関係があるか、人の役に立つような情報を得るには、コンピュータを使う必要があります。データ構造やアルゴリズムの工夫を行うには、数学としてはグラフ理論や、計算量の理論が役に立つでしょう。
詳しくは:情報科学を学ぶために必要な大学数学の一覧
以上、生物学を学ぶために必要な大学数学を紹介してきました。
「数学を使わなくていいから」という理由で生物学を選ぶ人もいるようですが、少なくとも統計学を扱えるくらいの数学は、実験・理論を学ぶにも欠かせません。
さらに数学やコンピュータが扱えると、生物に関連する物理や化学も理解しやすくなり、専門や進路の幅が広がるでしょう。広い視点から生物を理解するために、数学も学んでみてはいかがでしょうか。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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