どうも、木村(@kimu3_slime)です。
数学に関するネット上の質問で、「数学の◯◯の定義は、全文丸暗記するものですか?」といったものをよく見かけます。
「結果として暗記する必要はあるが、実践の中で身につけるのが望ましい」。僕が大学で数学を学んだ経験から、そう答えたいと思います。
実践して覚えよう
「数学」という言葉は広い範囲を指すものですが、中学高校での数学、大学受験に向けた数学にまずは限定して話ましょう。
原則として、数学の問題では、そこで使われている言葉の定義(意味の取り決め)をおおざっぱにでも知らなければ、解けません。
例えば、「\(2-5\)の値を求めよ」という問題はどうでしょうか。小学生ならば、どうすればいいかわからなくなってしまうかもしれません。「答えはない」と答えるのもありでしょう。マイナスの数を知らなければ、答えようがないのです。中学生なら、\(-3\)と答えられる人は多いでしょう。
数学の(簡単な)試験問題のレベルならば、問題を解けるレベルで定義を理解していれば、支障はないでしょう。
「これは覚えるものですか?」と質問する人は、それを覚えるのが大変で、本当は覚えたくないのでしょう。それでも仕方なく覚えないといけないものかどうか、尋ねているわけです。
そうであるならば、「その定義や公式の文字列だけを覚えないように」と注意するでしょう。
例えば、三角関数の性質として、
\[ \begin{aligned}\sin (90^{\circ} – \theta ) = \cos \theta\end{aligned} \]
といったものがあり、「丸暗記しなければならないか」という質問があります。三角関数の理解は、多くの高校生がつまづくところのようです。
個別指導ならば、僕は次のように質問・アドバイスするでしょう。
- 三角関数の具体的な値、\(\sin 0^{\circ},\sin 45 ^{\circ}, \cos 60^{\circ}\)を答えられるか?
- 答えられないなら、そこから覚え直す。単位円を書いて、\(\sin \theta ,\cos \theta\)がどこを指しているか、答えられるようにする。有名な角度での三角形の辺の長さの比を覚える。
- 答えられるならば、角度\(\theta \)について、\(\sin \theta , \cos \theta\)の数値表を作ってみる。\(\sin (90^{\circ} – \theta ) = \cos \theta\)は成り立っているか、他に気づく性質がないか考えてみる。
「\(\sin (90^{\circ} – \theta ) = \cos \theta\)」は、文字\(\theta\)を使って抽象的に書かれています。中学や高校の数学では、こうした定義や公式・性質は少なくありません。それを覚えるときには、具体的なケースを書き下しながら覚えるのがコツです。
定義や公式を、呪文だと思ってはいけません。例えば、\(\theta =0^{\circ}\)のとき、\(\sin 90^{\circ} = \cos 0 ^{\circ}\)は正しいと思えるか? \(\theta = 45^{\circ}\)ならどうだろうか。\(\theta = 60 ^{\circ}\)ならどうか。ノートにいくつも式を書いて、簡単にわかるケースから実践していれば、だんだんと規則性が見えてくるはずです。具体的な\(\theta\)で十分に実験しつくせば、\(\sin (90^{\circ} – \theta ) = \cos \theta\)という式にも納得できるでしょう。(単位円を描いて三角関数を理解できているなら、この関係式が何を表しているかも図的に理解できるでしょう。)
微分係数の定義\(\lim_{h\to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}\)や、行列の積の定義を覚える必要がありますか、といった質問もあります。
覚える方法としては、やはり具体的で簡単にできるケースの計算をしてみることです。\(f(x)=2x\)ならば、\(\frac{2(x+h)-2x}{h}=2 \to 2 (h\to 0)\)です。つまり、一次関数の傾きを取り出したものになっています。そもそも極限\(\lim \)の意味がわからなければ、そこからやり直す必要があるでしょう。1次関数ができれば、\(f(x)=x^2\)といった2次関数でやってみる。図を描いて、例えば\(h=1\)のとき、どんな比を表しているのか。\(h=0.1\)ならどうか。そうやって実践的に考えていれば、微分の考え方は理解できるかと思います。ただ何もせずに、微分係数の定義の形だけを覚えようとしても、長続きしないし、問題を解けるようにもならないでしょう。
行列の積の定義は、覚えられたとしても、なぜそんな定義をするのか理解できないかもしれません。その先の数学を学んでいると、なぜそういう定義をするのかわかる場合もあります。
大学数学では厳密に覚える必要あり
高校までの(比較的簡単な)問題ならば、定義をきちんと理解していなくても、問題が解けるレベルで運用できれば良いでしょう。
大学数学になると、その傾向は大きく変わってきます。定義をきちんと把握していなければ、文字通り話になりません。
例えば、「マイナスの定義はなんですか?」と聞かれて、きちんと答えられる普通の人は少ないでしょう。数学を専攻する人ならば、例えばマイナスかけるマイナスがなぜプラスになるのか、定義に戻って説明できるようになる必要があると思います。
参考:マイナスかけるマイナスはなぜプラスになるのか:分配法則から
数学者の竹山美宏さんによる「大学での数学の勉強法」でも、「概念の定義を覚える」「数学用語の定義は正確に覚えなければならない」とされています。
数学に関する性質や主張、命題や定理がなぜ成り立つのか、それを定義や既知の事実から導くことが、大学数学の基本です。それにあたっては、議論の出発点となる定義が何なのか、具体的にはどんなものがその定義を満たすのかを知っておかなければなりません。
とはいえ、覚え方は上で紹介したものと同じです。抽象的に書かれた数学語を、自分にでもわかるケースから書きながら考えていって、自分の言葉として獲得していけば良いでしょう。特に大学数学では、「すべての」「存在する」といった論理に注意することが、定義の理解に必須となります。
参考:「すべての」「存在する」「一意性」とは? 証明の書き方
以上、「数学の定義や公式を覚える必要があるか?」という問いに対し、「覚える必要はある。が、意味なく覚えるのでなく、手書きで検証していけばいつか自然と覚えられる。」と答えました。
「覚えなきゃいけないの?めんどくさくない?」というのは、数学を学ぶにあたってとても良い疑問です。自分にとって当たり前になってしまえば「暗記」とわざわざ呼ぶほどではなくなるので、わかるケースから書いて考えてみましょう。それが一番楽な方法だと思います。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。