どうも、木村(@kimu3_slime)です。
中学数学、高校数学における公式、定理とは何か、その違いについて簡単に紹介していきたいと思います。
公式=文字式を使った数学的な事実
数学と言えば、公式を覚えるもの……そんな印象を持っている人もいるかもしれません。そもそも、公式とは何なのでしょうか。
結論から言えば、公式とは文字式を使った数学的な事実です。数学的な事実は、定理とも呼ばれます。公式は定理の一種なのです。
公式の例
簡単な例として、面積の公式を見てみましょう。
例えば、三角形の面積の公式とは、面積を\(S\)、底辺の長さを\(a\)、高さを\(b\)として、\(S=\frac{1}{2}ab\)です。
\(a=2,b=4\)のときの三角形の面積は、\(S=\frac{1}{2}ab\)という式に値を代入することで、求められます。これが公式を使うということです。面積ではなく、体積や表面積でも同じこと。
もうひとつ例として、2次方程式\(ax^2+bx+c=0\)の解の公式を取り上げます。
\[ \begin{aligned}x=\frac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}\end{aligned} \]
この公式を使えば、例えば\(a=1,b=5,c=3\)のときの2次方程式の解(2つ)が得られます。
方程式と恒等式の違い
これらに共通していることは何でしょうか。
まず、「左辺と右辺は等しい」という事実を述べています。「左辺=右辺」という式は、等式と呼ばれます。例えば、小学校で学ぶ計算\(2+3=5\)とは、「2+3は5に等しい」ことが正しいと述べる等式です。
しかしながら、計算式は公式とは(普通は)呼ばれません。公式の特徴は、等式の左辺や右辺が、数学的な文字を使った式(文字式、代数式、数式)で表されていることです。
「公式=文字を使った等式」この説明は、まだ不十分です。方程式と恒等式を区別しましょう。
例えば、\(x+3=5\)は等式であり、文字が登場しています。それは方程式(equation)と呼ばれるものです。\(x+3=5\)という方程式は、等式を満たす特定の\(x\)(が存在するので、それ)を求めよという問題です。その特定の\(x\)を、方程式の解(solution)と呼びます。普通は\(x\)には何でも代入できるわけではなく、\(x=1\)を代入したら破綻してしまいます。
面積の公式や2次方程式の解の公式は、文字に何を代入しても正しいと述べています。三角形の辺の長さであれば、\(1,4.5,\sqrt{8}\)などどれを代入しても成り立つのです(長さであるから、正の数\(a,b>0\)という前提条件はつきますが)。どんな数を代入しても成り立つ式を、恒等式(identity)と言います。例えば、\(2(x+1)=2x+2\)は恒等式です。
方程式と恒等式は、見た目だけでは区別されません。人が、文脈がその数式を方程式として扱うか、恒等式として扱うか次第です。どちらのケースでも、等号\(=\)の「左辺と右辺が等しい」という意味は変わらないことに注意しましょう。
公式とは、特定のものを求めるために使う恒等式
特に、左辺に求めたいもの、右辺に値を代入する文字が現れるような恒等式を、公式と呼びます。
左辺は主題(subject)と呼ばれ、面積の公式なら面積\(S\)、解の公式なら解\(x\)です。右辺は、左辺を説明するための文字式です。そこに登場する文字は、変数(variable)と呼ばれます。例えば、面積の公式ならば底辺\(a\)と高さ\(b\)が変数で、解の公式ならば係数\(a,b,c\)が変数です。
三角形の面積の公式を、\(b=\frac{a}{2S}\)と変形すれば、底辺の長さと面積を変数とする高さの公式となります。公式は、表示式、計算式と言い換えても良いでしょう。
参考:Equations and Formulas – MATHisFUN
中学・高校の数学で公式と呼ばれるものは、因数分解の公式、ヘロンの公式(三角形の面積の公式)、三角関数の2倍角の公式、対数関数の底の変換公式、数列の和の公式、点と直線の距離の公式、接線の公式、微分の公式、などなど。
大学の範囲では、クラメルの公式、オイラーの公式など。大学数学では、定理という呼び方の方が主流になってきますが、それでも便利な恒等式は公式と呼ばれることがあります。
「XXの公式」とは、「XX」を求めるために使える恒等式、という意味合いがほとんどです。
以降に説明する、定義式や定理も、中学や高校の数学ではまとめて「公式」と呼ばれていたりします。厳密ではなく、ラフな呼び方として公式と言っていることもあるので注意しましょう。
定理とは
定理とは、数学的な事実、主張、正しいと証明されていることの総称です。公式は、その事実が恒等式で表される特殊なケースの定理の呼び方でした。
中学数学における定理と言えば、三平方の定理(ピタゴラスの定理)が有名です。直角三角形の底辺、高さを\(a,b\)、斜辺を\(c\)とすると、
\[ \begin{aligned}a^2 +b^2=c^2\end{aligned} \]
が必ず成り立つという主張です。
これも恒等式なので、三平方の公式と言っても良い気がしますが、あんりそうは言いません。\(c\)について解いて、\(c= \sqrt {b^2 -c^2}\)という形にすれば、斜辺の公式と言っても変ではないでしょう。公式と呼ぶときは左辺は1文字ですが、定理と呼ぶときは三平方の定理のように、もっと色々な形の恒等式が登場します。
三角関数の加法定理
\[ \begin{aligned}\sin (\alpha +\beta) =\sin \alpha \cos \beta +\cos \alpha \sin \beta\end{aligned} \]
は、加法公式とも呼ばれます。この例では、公式と定理に明確な区別はありません。余弦定理は公式と呼ばれない(気がする)ので、左辺が一次式でないものは公式ではなく定理と呼ばれやすいのでしょう。
定理は必ず恒等式(公式)の形をしているわけではありません。高校数学では、中間値の定理というものを学びます。
\(f\)を区間\(a\leq x \leq b\)で連続な関数とし、\(f(a)<f(b)\)とする。このとき、\(f(a)<y<f(b)\)を満たす\(y\)に対して、\(f(c)=y\)となる\(c\)が区間内\(a\leq c \leq b\)に(最低1つは)存在する。
簡単に言えば、つながったグラフの異なる2点に注目したとき、その間の値をすべて取りますよ、どんな中間値\(y\)を選んでもそれを実現するグラフ上の点\(c\)が存在しますよ、といった主張です。
これこれの条件を満たす\(c\)が存在すると述べており、このような定理は一般に存在定理と呼ばれます。これはひとつの恒等式によって表される事実(公式)ではありませんが、定理ではあるわけです。例えば、フェルマーの最終定理は、「ある等式を満たす自然数(の組)が存在しない」と述べていて、これも(非)存在定理です。
定理(に限らず数学的な事実)には、それが正しい理由を論理的に説明する文章、すなわち証明があります。公式も定理の一種であり、それが成り立っているのには理屈があるわけです。
例えば、三角形の面積は\(S=\frac{1}{2}ab\)でした。これは長方形の面積が\(s= ab\)で表されることから導けるものです。三角形を反転させてくっつけた図形は、平行四辺形になります。つまり、その平行四辺形の半分が、三角形の面積です。平行四辺形の面積は、同じ底辺と高さの長方形の面積と等しいです。よって、三角形の面積は長方形の面積\(s= ab\)の半分であることがわかりました。
ここで出発点となるのは、長方形の面積\(s= ab\)です。長方形の面積とはそういうものだと約束するもので、定義と呼ばれます。定義から論理的に導かれる事実を積み重ねていって、結果として得られるのが数学的事実、定理ということになります。
公式という呼び方をするときは、(正しさを当然のものとして)計算式として意識する面があります。一方で、定理と呼ぶときは、他の定義や定理から導かれる数学的事実であることに注目しているわけです。
有名ではない定理は、条件や命題と呼ばれます。
例えば、「3つの辺がそれぞれ等しいとき、2つの三角形は合同である」は三角形の合同条件と呼ばれます。一般的には、「AならばB」の形で表される条件(命題)において、Aは十分条件であると呼ばれますね。
条件や命題は、数学的に正しいか間違っているか(真偽)が定まった文章のことです。ある数\(x\)を決めた時、\(x\leq 2\)か\(x>2\)、いずれかひとつを満たします。このような「\(x\leq 2\)」を条件・命題と呼ぶわけです。
詳しくは:大学数学の教科書の読み方、最初に「定義・命題・証明」を知ろう、論理学の考え方、命題、主張、仮定、結論とは何か?
法則、性質とは
公式や定理に似た言葉として、法則や性質といったものがあります。
例えば、\(a(b+c)=ab +ac\)は数の分配法則と呼ばれます。指数関数に関して\(a^x +a^y=a^{x+y}\)は指数法則と。
これらも公式と呼ばれることもあるでしょう。ただし法則(law)と呼ばれるときは、定義そのもの、もしくは定義からすぐに導かれる一般的な事実を指しています。集合、論理に関するド・モルガンの法則は、簡単に証明できる一般的な事実です。
法則は性質(property)と呼ばれることも。数の分配法則は掛け算の性質、指数法則は指数の性質と言っても良いでしょう。ただし性質というのはより広い意味合いを持っています。例えば\(x\leq y \)ならば\(e^x \leq e^y\)は指数関数の単調性と呼ばれる性質ですが、これは法則とは呼ばれにくいです。等式で表されていて根源的なものを法則と呼ぶのでしょう。
三角関数の性質:\((\sin \theta)^2+(\cos \theta)^2=1\)のように、等式で表される性質は、関係式とも呼ばれます。
まとめると、
- 公式:左辺を右辺の文字式で説明する等式。左辺を求めるための計算式。恒等式によって表される定理。
- 定理:数学的な事実、主張のこと。特に有名なものを指す。定義や他の定理から証明される。マイナーなものは条件や命題と呼ばれる。
- 法則、性質:定義から簡単に導かれる一般的な定理
です。呼び分けは人や慣習によるもので、授業や文献によって違う意味合いで使われていることもあるでしょう。
「数学的な事実」を捉えるという視点から、公式や定理を統一的に眺められると、ひたすら公式を覚えるという印象は減っていくかもしれまません。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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