線形写像かどうか調べる方法をわかりやすく解説

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、線形代数学における、与えられた写像が線形写像であるかどうか調べる方法をわかりやすく解説します。

 



線形写像の定義

まず、線形写像かどうか判定するためには、「どんな条件を満たせば線形写像と呼ばれるのか(定義)」を知る必要があります。

\(V,W\)を線形空間とする。写像\(f:V\to W\)が線形写像(linear mapping)であるとは、次の条件を満たすこと。

(1) 加法性:任意の\(x,y \in V\)に対し、\(f(x+y)= f(x)+f(y)\)

(2) 斉次性:任意の数\(c\)に対し、\(f(cx) =cf(x)\)

((1),(2)の条件は、合わせて線形性と呼ばれる)

「写像」という言葉に聞き馴染みがなければ、関数と言っても同じです。与えられた\(x\in V\)に対して、\(W\)の要素\(f(x)\)がただひとつ定まるとき、\(f\)は写像と呼ばれます。\(V=W\)のときは、線形変換とも呼ばれます。

\(V,W\)の例としてはユークリッド空間(数ベクトル空間)\(\mathbb{R}^N\)が典型的です。

 

1次元の例

具体的な例でやってみましょう。

\(f:\mathbb{R}\to \mathbb{R}, f(x)=2x\)が線形写像かどうか調べよ

簡単でしょうか? 任意に\(x,y,c\in \mathbb{R}\)を決めたとしましょう。このとき、\(f\)が線形写像の条件(1),(2)を満たすかチェックします。

\(f(x+y) =2(x+y)=2x+2y\)で、\(f(x)=2x,f(y)=2y\)なので、(1)は満たします。

\(f(cx) = 2\cdot c  x = c\cdot 2x =c f(x)\)なので、(2)も満たします。よって、\(f\)は線形写像です。

\(f(x+y),f(cx)\)といった式を、\(f\)の定義式\(f(x)\)に代入してみるのが大事です。\(2x \)の\(x\)を\((x+y),(cx)\)に置き換えることに注意です。\(f(x+y)=2x+y\)とやらないように。代入した結果が、うまいこと\(f(x)+f(y),cf(x)\)に一致しているかどうか調べましょう。

 

\(f:\mathbb{R}\to \mathbb{R}, f(x)=2x+1\)は線形写像か?

同じ方針でやってみます。

\(f(cx)=2c x +1 \)ですが、\(cf(x) = 2cx + c\)です。これはあらゆる\(c\)について成り立たなければ、線形写像ではありません。例えば\(c=0,x=1\)とすれば、\(f(cx)=1 \neq 0= c f(x)\)です。よって、この\(f\)は線形写像ではありません。

一般化してみましょう。1次関数\(f(x)=ax+b\)が線形写像であるのは、\(b=0\)のときに限ります。

線形写像の条件(2)は、特に\(c=0\)のときを考えれば、\(f(0)=0\)を意味します。つまり、原点を通らなければならないのです。これは1次元の問題に限らず、あらゆる線形写像の判定に使えます。

まず、\(f(0)\)を調べてみて、\(f(0)=0\)にならなかったら、それは線形写像ではありません。なぜなら条件(2)を満たさないからです。

 

\(f(x)= x^2, g(x)=\sin x \) は線形写像か?

グラフを思い浮かべると、いかにも直線的=線形的ではありません。線形写像ではないと予想されます。線形写像でないことを示すには、定義(1),(2)のどちらかが破綻していることを示せば良いわけです。

こういうときは、値を適当に入れてみて、実験するのが良いでしょう。

例えば、\(f(1)=1,f(2)=4\)です。おやおや、これは線形写像ではありませんね。入力が2倍になるならば、出力も2倍になるのが線形写像です。これは出力が4倍になってしまっています。

この発見を回答にしましょう。\(f(1+1)=f(2)=4\)ですが、\(f(1)+f(1)=2\)で両辺は等しくありません。よって\(f\)は線形写像ではありません。

線形写像でないことを示す時は、条件を満たさなくなる特定の\(x,y,c\)を示す必要があります。1つ示せば十分ですが、条件を満たさなくない\(x,y,c\)の可能性は色々あります。例えば、\(f(0)=0\)、\(f(-1+1) \neq f(-1)+f(1)=2\)が等しくないので、線形写像ではない、と言っても良いです。

例えば、次のように書くのは証明になっていません。「\(f(cx)=c^2x^2 \neq cx^2 =cf(x) \)なので、\(f\)は線形写像ではない。」これは間違いです、例えば、\(x=0\)のときは\(c^2x^2 = cx^2\)です。「任意の\(c,x\)について条件\(P(c,x)\)を満たすこと」の否定は、「ある\(c,x\)が条件\(P(c,x)\)を満たさないこと」です。そのような\(c,x\)の実例を挙げなければ、示したことになりません。

参考:集合論のはじまり、全称命題と存在命題、論理記号を知ろう

\(g\)も線形写像ではありません。\(g(\frac{\pi}{2})=1\)ですが、\(g(\pi)=0\)です。すなわち、\(g(2 \cdot \frac{\pi}{2})= 0 \neq 2 = 2g(\frac{\pi}{2})\)なので、線形写像ではありません。

 

\(f\)の定義域、値域が1次元\(\mathbb{R}\)のとき、\(f\)が線形写像ならば、\(f\)は必然的に原点を通る1次関数\(f(x)=ax\)になります。(\(f\)を線形写像とする。\(a:=f(1)\)とおく。線形写像の定義(2)において\(x=1, c=x\)と代入すれば\(x f(1) =f(x)\)、すなわち\(f(x)=ax\))

他の関数は絶対に線形になりません。この事実を知っておくだけで、線形性の判定は簡単になります。線形写像とは、一次関数(や行列)を一般化したものなのです。

 

2次元以上の例

1次元のケースがよくわかっていれば、2次元以上のケースでも困ることは少ないかと思います。

代入する変数\(x,y\)がベクトルに変わっただけです。

\(f(x_1,x_2)= (3x_2, 2x_1 -x_2)\)、\(g(x_1,x_2)= (3x_2+2,2x_1 -x_2)\)は線形写像か?

\(f\)は各成分が一次関数の和になっているので、線形写像であると予想されます。\(x=(x_1,x_2),y=(y_1,y_2)\),\(c\)を数として、確かめてみましょう。

ベクトルの性質より、\(x+y=(x_1+y_1,x_2+y_2),cx =(cx_1,cx_2)\)となります。そして、\(f(x+y)= (3(x_2+y_2), 2(x_1+y_2) -(x_2+y_2)) \\=(3x_2,2x_1-x_2)+(3y_2,2y_2-x_1)=f(x)+f(y)\)であり、\(f(cx) =(3cx_2,2cx_1-cx_2) = c(3x_2,2x_1-x_2)=cf(x)\)なので、\(f\)は線形写像です。

\(g\)は線形写像ではありません。原点を通るかどうか、という問題をさきほどやりましたよね。\(g(0(1,0) )=(2,0)\neq (0,0)=0 \cdot g(1,0)\)なので(2)を満たさず、線形写像ではありません。

ちなみに、\(A_f :=  \begin{pmatrix} 0&3 \\ 2&-1 \end{pmatrix}\)と置けば、\(f(x) =A_f x\)と行列で表すことができます。

逆に、行列\(A\)により定義される写像\(f(x):=Ax\)は線形写像です。\(A(x+y)=Ax+Ay, A(cx)= cAx\)となるように、行列の積は定義されています。

 

\(f(x_1,x_2)= x_1 x_2\)、\(g(x)=\|x\|= \sqrt{x_1^2 +x_2 ^2}\)が線形写像かどうか調べよ。

一次式の形をしておらず、およそ線形写像ではないと予想されます。適当に値を入れて実験してみましょう。

\(f(1,0)=0,f(0,1)=0\)ですが、\(f(1,1)=1\)です。したがって、\(f(1,0)+f(0,1) \neq f((1,0)+(0,1))=f(1,1)\)なので、\(f\)は線形写像ではありません。

\(g(1,0)=1,g(0,1)=1\)で、\(g(1,1)=\sqrt {2}\)です。\(g(1,0)+g(0,1)=2 \\ \neq \sqrt{2} =g(1,1)=g((1,0)+(0,1))\)なので、\(g\)は線形写像ではありません。

より変数が増えても同様にチェックできるでしょう。試しに、\(f(x_1,x_2)=(x_1+x_2,x_2,x_1+2x_2)\)、\(g(x_1,x_2,x_3)= (3x_2, 2x_1 -x_3, x_2 x_3)\)が線形写像かどうか調べてみてください。

 

線形写像の判定法

まとめましょう。

  • \(f(0)=0\)かどうか調べる
  • 適当に値を代入して調べる
  • 一次関数の和の形になっているか調べる

これらをチェックすれば、何次元の問題でも簡単に判定できるかと思います。

 

線形写像は、直線を直線に、平面を平面に写すという性質があります。直線、平面を、歪んだ線や歪んだ面に変えません。これが「線形」と呼ばれるゆえんです。すなわち、線形結合を線形結合に写す\(f(c_1a_1+\cdots c_k a_k)= c_1 f(a_1)+\cdots c_k f(a_k)\)ので、線形空間の線形写像による像は必ず線形空間となります。

参考:線形方程式と線形写像の像、次元とランクの関係

線形写像は1次関数・行列を一般化したものであり、例えば漸化式や線形微分方程式を解くのに応用されます。

線形でない写像は、非線形写像とも呼ばれます。有限次元ベクトル空間における線形写像は行列として表せるので、線形代数・行列の理論を適用できます。非線形なものはそうではありません。

参考:数学・科学における「線形・非線形」の違いを詳しく解説

簡単な例に関して線形写像かどうか判定できるようになることで、線形性・線形代数の考え方に慣れていってください。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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