どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、正規直交系の完全性とパーセバルの等式が同値であることの証明を紹介します。
示したいこと
\(H\)をヒルベルト空間(完備な内積空間)、\(E=(e_k)_k\)を正規直交系(ノルムが1で、互いに直交する)とします。このとき、次の条件は同値です。
- 完全性:すべての\(u \in H\)に対し、\(u = \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k\)
- パーセバルの等式(Parseval’s identity):すべての\(u \in H\)に対し、\(\|u\|_H^2 = \sum_{k=1}^\infty |\langle u,e_k\rangle_H|^2\)
- 生成する閉部分空間の稠密性:\(\overline{\mathrm{span}(E)}=H\)
したがって、このいずれかの条件を満たす\((e_k)_k\)を完全正規直交系(complete orthonormal system、CONS)と呼びます。
パーセバルの等式は、有限次元の場合は、ピタゴラスの定理の一般化となっています。
\(H=L^2\)で、三角関数系(フーリエ級数)について考える場合、パーセバルの等式は
\[ \begin{aligned} 2a_0^2 +\sum_{n=1}^\infty(a_n^2+b_n^2)\\ = \frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} (f(x))^2 dx\end{aligned} \]
という形になります。関数の積分によるノルムと、フーリエ係数の和が等しいという関係式です。
証明
完全ならばパーセバルの等式
- 完全性:すべての\(u \in H\)に対し、\(u = \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k\)
を仮定します。ノルムと内積の関係、内積の線形性と連続性、\((e_k)_k\)が正規直交系であることから、
\[\begin{aligned} &\|u\|_H^2 \\ &= \langle u,u\rangle_H\\&=\langle \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k, \sum_{\ell=1}^\infty\langle u,e_\ell\rangle_H e_\ell\rangle_H \\ &= \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H \sum_{\ell=1}^\infty\langle u,e_\ell\rangle_H \langle e_k, e_\ell\rangle_H \\ &=\sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H \langle u,e_k\rangle_H \langle e_k, e_k\rangle_H\\ &= \sum_{k=1}^\infty |\langle u,e_k\rangle_H|^2\end{aligned}\]
とパーセバルの等式が成り立つことが示せました。
パーセバルの等式ならば完全
- パーセバルの等式:すべての\(u \in H\)に対し、\(\|u\|_H^2 = \sum_{k=1}^\infty |\langle u,e_k\rangle_H|^2\)
が成り立つとします。
\(E^{\perp}=\{v \in H \mid すべてのkに対し \langle v,e_k\rangle=0\}\)を正規直交系の直交補空間とします。\(E^{\perp}=\{0\}\)となることを示しましょう。
0との内積は、内積の線形性から常に0になるので、\(E^{\perp}\supset \{0\}\)です。逆向きの包含関係を示しましょう。\(v \in E^{\perp}\)とすると、パーセバルの等式から\(\|v\|_H^2 = \sum_{k=1}^\infty |\langle v,e_k\rangle_H|^2 =0\)です。ノルムの正定値性から、\(v=0\)となりました。
\(E^{\perp}=\{0\}\)が示せました。そこで\(v= u – \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k\)と置き、\(v\in E^{\perp}\)であることを示しましょう。内積の線形性と連続性、\((e_k)_k\)が正規直交系であることから
\[\begin{aligned} &\langle v, e_\ell\rangle_H\\ &= \langle u – \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k ,e_{\ell}\rangle_H \\&= \langle u,e_{\ell}\rangle_H- \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H \langle e_k ,e_{\ell}\rangle_H \\ &= \langle u,e_{\ell}\rangle_H- \langle u,e_\ell\rangle_H \langle e_\ell ,e_{\ell}\rangle_H \\&= \langle u,e_{\ell}\rangle_H- \langle u,e_\ell\rangle_H \\&=0 \end{aligned}\]
となり、\(v \in E^{\perp}\)です。\(E^{\perp}=\{0\}\)と合わせれば、\(v= u – \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k=0\)、つまり完全性:\(u = \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k\)が示せました。
完全ならば生成
- 完全性:すべての\(u \in H\)に対し、\(u = \sum_{k=1}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k\)
を仮定します。\(u_n=\sum_{k=n}^\infty\langle u,e_k\rangle_H e_k \)と置くと、これは\((e_k)_k\)の有限個の線形結合であり、\(u_n \in \mathrm{span}(E)\)です。どんな\(u \in H\)に対しても、\(\mathrm{span}(E)\)の点列\((u_n)\)で\(u_n \to u\)となるものが存在するので、閉包の定義から\(u \in (\overline{\mathrm{span}(E)}\)です。つまり、\(\overline{\mathrm{span}(E)}\supset H\)です。
また、そもそも\(H\)の要素が生成する空間なので\(\mathrm{span}(E)\subset H\)で、\(H\)における閉包を考えているので\(\overline{\mathrm{span}(E)}\subset H\)です。よって、\(\overline{\mathrm{span}(E)}=H\)が成り立ちます。
生成するならば完全
- 生成する閉部分空間の稠密性:\(\overline{\mathrm{span}(E)}=H\)
を仮定します。\(E^{\perp}=\{0\}\)となることを示しましょう。
\(E^{\perp}\supset \{0\}\)は既に示しました。\(v \in E^{\perp}\)とします。\(\overline{\mathrm{span}(E)}=H\)より、\(\mathrm{span}(E)\)の点列\((v_n)\)で、\(\lim_{n\to \infty}v_n =v\)を満たすものが存在します。内積の連続性、\(v_n\)は\(E\)の線形結合なので\(v\)と直交することから、
\[\begin{aligned} &\|v\|_H^2 \\ &= \langle v,v\rangle_H \\&=\lim_{n\to \infty} \langle v_n,v\rangle_H \\&=0 \end{aligned}\]
です。よって、ノルムの正定値性から\(v=0\)で、\(E^{\perp}=\{0\}\)が示せました。
したがって、パーセバルの等式ならば完全の議論と全く同様にして、完全性が示せました。
以上、正規直交系の完全性とパーセバルの等式が同値であることの証明を紹介してきました。
ヒルベルト・シュミット積分作用素がコンパクト作用素であることの証明でも、完全正規直交系で展開したあと、パーセバルの等式を利用しています。
今回の話は、ヒルベルト空間が可分であることと完全正規直交系を持つことが同値であることの証明に使えます。それについては別記事にて。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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