どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、球面の幾何学入門ということで、平行な直線が存在しないことについて紹介します。
球面における直線とは
画像引用:WolframAlpha
3次元空間\(\mathbb{R}^3\)において、半径1の球面は\(x^2+y^2 +z^2 =1\)という方程式を満たす点の集まりです。これを
\[S^2 :=\{(x,y,z)\in \mathbb{R}^3 \mid x^2+y^2+z^2 =1\}\]
と書き、単位球面(unit sphere)と呼びます。
球面上の図形、幾何学について考えましょう。
平らな平面の幾何学(ユークリッド幾何学)では、直線から話が始まります。2つの点があるとき、それらを通る直線がある。球面上の直線とはなんでしょうか?
球面上の「直線」を、大円(great circle)として定義します。大円とは、単位球面と原点を通る平面の共通部分のことです。
平らな平面の幾何学では、ある平面と別の平面の共通部分が「直線」となっていました。この考え方を活かしたのが、大円を球面における直線とした定義です。大円は曲がっていますが、それでも球面における直線と呼びます。
例えば、
\[\{(x,y,z) \in S^2 \mid z=0\}\]
は単位球面における直線です。\(N=(0,0,1)\)を北極、\(S=(0,0,-1)\)を南極と呼べば、この直線は赤道に対応するものですね。
(実は、大円は球面上の最短距離を実現する曲線:測地線になることが知られています。その意味でも、直線であるわけです。)
一般に、
\[\{(x,y,z) \in S^2 \mid ax+by+cz=0\}\]
が大円です。このように定義すれば、球面上の異なる2点に対し、少なくとも1つは直線(大円)が存在すると言えます。3つの未知数\(a,b,c\)に対し、2つの線形方程式が定まるので、これは常に解を持つわけです。
一般に、舞台となる集合と(一定の条件を満たした)「直線」の組を、抽象幾何(abstract geometry)と呼びます。
今回考えた単位球面と大円による直線の組\((S^2, \mathcal{L})\)は、抽象幾何の定義を満たします。特に、これは球面の幾何学(spherical geometry)、リーマン球(Riemann sphaere)と呼ばれます(リーマン幾何は他の意味を持つ用語であることに注意)。
ユークリッド幾何学では、異なる2点を通る直線はただひとつでした。こうした条件を満たす幾何学は、結合幾何(incidence geometry)と呼ばれます。
球面の幾何学では、異なる2点を通る直線は無数に存在します。例えば、北極と南極を通る直線として、
\[\{(x,y,z) \in S^2 \mid x=0\}\]
\[\{(x,y,z) \in S^2 \mid y=0\}\]
という2つを考えられます。\(N=(0,0,1)\)、\(S=(0,0,-1)\)はどちらもこれらの直線上にある点ですね。よって、球面上の幾何学は結合幾何ではありません。
平行線が存在しないこと
ユークリッド幾何学との違いとしては、平行線の公準の話が有名です。
ユークリッド幾何学においては、直線とその直線上にない点があるとき、その点を通りその直線に平行な直線が存在します。これは議論の出発点、平行線の公準と呼ばれるものです。これはユークリッド幾何学において、他の公理から証明できないものとして知られています。
球面の幾何学においては、直線上にない点を通る平行な直線は存在しません。2つの直線が平行とは、それらが交わらない(共通部分を持たない)ことです。
例えば、
\[\{(x,y,z) \in S^2 \mid z=0\}\]
という直線を考えましょう。そして、例えば直線上にない点\(N=(0,0,1)\)を考えます。\(N\)を通る直線、つまり大円は、\(N\)を通り原点を通る平面と球面の共通部分です。したがって、原点について対称な点、対蹠点(antipodal point)を通ります。北極の対蹠点は南極\(S=(0,0,-1)\)です。
\(N,S\)をつなぐ大円を考えると、球面は連結なので、その中間である\(z=0\)を通らざるを得ません。よって、直線上にない点を通る直線を考えると、それらは必ず交わる:平行でなくなることが示せました。
以上、球面の幾何学入門として、平行な直線が存在しないことについて紹介してきました。
球面における直線とは大円のこと、平行な直線とは交わらないことであると知れば、「球面の幾何学では平行な直線が存在しない」という文の意味がわかるようになりますね。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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