どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、彌永昌吉「数学のまなび方」のレビューをします。
筑摩書房 (2008-11-10T00:00:01Z)
¥3,320
どんな本か
数学者である著者が、(主に大学)数学の学び方を案内する本です。
昔から「学問に王道なし」とは言われ、それは事実ではあるのですが、それでも学び方に工夫をすることはできるはず。
- 本は紙とペンを使って読もう。
- 具体的なものを抽象化して考えよう。
- 理論体系を1つの全体として眺めよう。
こうした工夫について、数学ファンの「Aさん」と対談しながら探っていく形の内容です。もとは雑誌の連載であり、12個のテーマからなっています。
彌永昌吉(やなが しょうきち,1906-2006)は、日本の有名な数学者で、整数論を専門としています。ほかの数学者とのつながりとして、高木貞治に師事し、指導した学生としては小平邦彦、伊藤清、岩澤健吉、佐藤幹夫といった数学者を育てました。教育的であったことが伺えますね。
目次
- 数学の本は鉛筆と紙ともって読むことのおすすめ
- 証明を味わうことのおすすめ
- 具体的なものを抽象化して考えることのおすすめ
- 抽象的なものを具体化して考えることのおすすめ
- 理論体系を1つの一貫したものとして眺めてみることのおすすめ
- 1歩1歩、まなんでゆくことのおすすめ
- 疑問をおこすことのおすすめ
- 疑問を追究することのおすすめ
- 問題を整理することのおすすめ
- 理論の構造に注目することのおすすめ
- 根本から考えることのおすすめ
メリット
数学ファンの一般人との、対話形式なのが良いです。数学書の難しい記述の読み方を、著者と一緒に探っていく感覚がつかめます。
コーシー・シュワルツの不等式の証明についての、「白紙状態からの証明」の話が面白いです。一般的な証明方法を知らない状態で、著者はどうやって証明を考えるか。まず、\(n=1,2,3,\dots\)のケースでどう証明するか考える。そのケースでの工夫を一般化することで、一般的な証明ができる。
数学の教科書では、しばしばできあがった証明のみが載せられています。この本では、それが演繹的にできあがっていく過程がつかめて、人間の営みとしての数学が感じやすいです。
僕はこのようなプロセスで数学を学ぶことに楽しみを感じていますが、そのきっかけを得たはこの本だったかもしれません。
この本を読むと、大学数学の雰囲気がつかめます。行列、集合、群論、公理的幾何学、環・体、距離空間、関数解析などなど。一般書でありながら、これほど広く専門的な話題を入門的なところから扱っているのは珍しいです。
特に、ユークリッド幾何と、非ユークリッド幾何の導入に詳しいです。僕は学部2年頃にこの本で初めて知れて、良かったと思っています。数学的な内容は正直わからない部分は多いのですが、それでも「このキーワードは聞いたことがある」と大学数学の地図を作るのに役立ちます。
デメリット
丁寧に説明されていますが、数学的内容は駆け足なので、難しいです。
数学の中身の話となると、感覚に訴えかける割合が少ないので、既に学んだ人でないとよくわからないと思います。その部分は対話形式でなく、一方的な話になってしまっています。この本を紙とペンで読む方法も良いですが、それをするならきちんとした教科書のほうが親切でしょう。
もっとも、この本は数学書ではないし、書かれた数学をすべて理解することが目的ではなく、それをどう学ぶか、どう味わうかという考え方がメインです。
また、この本を読んだからといって、この本で紹介された学び方ができるようになるわけではありません。当たり前のことですが、この本で数学の学び方のヒントをつかんだら、それを実践するしかないわけですね。
以上、彌永昌吉「数学のまなび方」のレビューをしてきました。
数学の教科書や講義では、普通は数学をどうやって学ぶと良いかについて書かれていません。しかし、興味を持って数学を学ぶならば、早い段階で学び方のコツを知っておくと効率が良いです。これから数学を学びたい人は、ぜひ手にとってみてください。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
筑摩書房 (2008-11-10T00:00:01Z)
¥3,320