どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、複素解析・調和関数に関する平均値の性質とは何か、その例と証明を紹介します。
平均値の性質(mean value property)
\(f\)を単連結な領域\(D\)において正則な関数とする。このとき、任意の\(z_0 \in D\)、\(z_0\)を中心とする円周\(c\)に対し、次の等式が成り立つ。
\[ \begin{aligned}f(z_0)= \frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} f(z_0+re^{i\theta})d \theta\end{aligned} \]
また、実2変数関数\(u(x,y)\)を単連結な領域\(D\)における調和関数とする。このとき、任意の\((x_0,y_0) \in D\)、\((x_0,y_0)\)を中心とする半径\(r_0\)の円盤\( B((x_0,y_0),r_0)\)に対し、次の等式が成り立つ。
\[ \begin{aligned}u(x_0,y_0) \\ = \frac{1}{2\pi } \int_0^{2\pi} f(x_0+r\cos \theta,y_0+r\sin \theta) d \theta \\ =\frac{1}{\pi r_0^2} \int _{B((x_0,y_0),r_0)} f(x,y)dxdy \end{aligned} \]
正則関数や調和関数の値は、その点を中心とする円盤における関数の平均(関数を足し合わせて=積分して、積分領域の体積で割った量)に等しい、という主張です。微分に関する平均値の定理とは別物なので注意。
例として、正則関数\(f(z)=z^2\)を考えてみましょう。
\[ \begin{aligned} & f(z_0+re^{i\theta})\\&= z_0^2+ 2re^{i\theta}+r^2e^{i2\theta} \end{aligned} \]
なので、
\[ \begin{aligned} &\frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} f(z_0+re^{i\theta})d \theta\\ &= \frac{1}{2\pi}[z_0^2 \theta +\frac{2r}{i}e^{i\theta} +\frac{r^2}{2i}e^{2i\theta}]_0 ^{2\pi} \\ &= z_0^2 \\ &= f(z_0) \end{aligned} \]
となり、確かに成り立っていることがわかります。
では、一般的に証明しましょう。\(f\)は単連結領域において正則なので、コーシーの積分公式より、
\[ \begin{aligned}f(z_0) =\frac{1}{2\pi i}\int_c \frac{f(z)}{z-z_0}dz\end{aligned} \]
が成り立ちます。円周\(c\)を、\(z= z_0 +re^{i\theta}\)とパラメータ表示します。\(\frac{dz}{d\theta} = ire^{i\theta}\)に注意すると、
\[ \begin{aligned} &f(z_0)\\&= \frac{1}{2\pi i}\int_c \frac{f(z)}{z-z_0}dz \\ &=\frac{1}{2\pi i }\int_0 ^{2\pi}\frac{f(z_0 +re^{i\theta})}{re^{i\theta}}ire^{i\theta}d\theta \\ &=\frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} f(z_0+re^{i\theta})d \theta \end{aligned} \]
となることがわかりました。
続いて、\(u\)を調和関数としましょう。その共役調和関数\(v\)と合わせて、\(f(z):=u+iv\)という正則関数が得られます。これに対してさきほどの結果を利用して、実部を取れば
\[ \begin{aligned}u(x_0,y_0)= \frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} u(x_0+r\sin \theta,y_0+r\sin \theta)d \theta\end{aligned} \]
が成り立ちます。ここで両辺に\(r\)をかけ、\(r\)について\(0\)から\(r_0\)まで積分すれば、
\[ \begin{aligned} \int_0^{r_0}u(x_0,y_0) r dr = \frac{r_0^2}{2}u(x_0,y_0)\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned} \int _0^{r_0}\frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi} u(x_0+r\sin \theta,y_0+r\sin \theta)rd \theta dr \\ = \frac{1}{2\pi} \int_{0}^{r_0} \int_0^{2\pi} u(x_0+r\cos \theta,y_0+r\sin \theta) r d \theta dr\end{aligned} \]
となるので、両辺を\(\frac{r_0^2}{2}\)で割れば、
\[ \begin{aligned}u(x_0,y_0)\\= \frac{1}{\pi r_0^2} \int_{0}^{r_0} \int_0^{2\pi} u(x_0+r\cos \theta,y_0+r\sin \theta) r d \theta dr\end{aligned} \]
が得られました。極座標変換により、これは円盤における\(u\)の重積分を\(\pi r_0^2\)で割ったものに等しいです。
調和関数(ラプラス方程式)の平均値の性質は、高次元に一般化できることが知られています。
また、\(C^2\)級の関数\(u\)が任意の点を中心とする任意の球に対して平均値の性質を満たすとき、(逆に)\(u\)は調和関数となります。
証明についてはEvans「Partial Differential Equations」などを参照してください。
以上、複素解析・調和関数の平均値の性質とは何か、例と証明を紹介してきました。
最大値の原理と合わせて、正則関数・調和関数の持つ一般的で強力的な性質なので、セットで理解しておくと良いでしょう。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
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