どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、一般性を失わない(without loss of generality)とは何か、例を交えて紹介します。
一般性を失わない(without loss of generality, 略して w.l.o.g.)とは、特殊な状況を仮定して考えても、一般的な議論が問題なく行えるという宣言のことです。議論の精密さを落とさずに、簡略化するために使われることが多いでしょう。
簡単な例をあげましょう。2つの実数\(a,b\)があるとします。このとき、\(a\leq b\)と仮定して議論しても、一般性を失いません。なぜならば、\( a \geq b\)となっているケースは、\( c=b,d=a\)と置くことで、\( c \leq d\)、つまり最初のケースに帰着されるからです。
別の例を、実際の教科書から引用します。
(原文)
To simplify the formulas in this section, we take \(z_0=0\) and write (1) \(\sum_{n=0}^\infty a_n z^n\).
There is no loss of generality because a series in powers of \(\hat{z}-z_0\) with any \(z_0\) can always be reduced to form (1) if we set \(\hat{z}-z_0 =z\).
(翻訳)
この節における公式を簡略化するため、\(z_0=0\)とし、(1) \(\sum_{n=0}^\infty a_n z^n\)と書くことにする。
この議論は一般性を失わない。なぜなら、任意の\(z_0\)に対し、\(\hat{z}-z_0\)のべき乗からなる級数は、 \(\hat{z}-z_0 =z\)と置くことで常に(1)の形に帰着できるからである。
引用:Advanced Engineering Mathematics
考えている一般的な議論は、中心\(z_0\)が一般的なべき級数 \(\sum_{n=0}^\infty a_n (\hat{z}-z_0)^{n}\)です。この一般的な形を考えずとも、\(z_0=0\)の形での級数(1) \(\sum_{n=0}^\infty a_n z^n\)について議論すれば、前のケースもカバーできると主張しています。なぜなら、(1) \(\sum_{n=0}^\infty a_n z^n\)での議論を、\(\hat{z}-z_0 =z\)と置き換えれば良いからです。
「一般性を失わない」という表現は、「素数」のような数学用語(テクニカルターム)ではなく、「自明」のように数学の文章でよく使われる言い回し(数学的俗語、ジャーゴン)です。
この表現に馴染みのある人は表現が簡略化できて嬉しいですが、初心者向けに文章を書くときは、「なぜ一般性を失わないのか」を書いた方が良いでしょう。確認もせずに「一般性を失わない」と書くのは危険で、実際には勝手な仮定で一般性を失っている可能性があります。
以上、一般性を失わない(without loss of generality)とは何か、例を交えて紹介してきました。
「一般性」「特殊な仮定」が指しているものは何か、一般性を失わないのはなぜかを考えることで、意味を取りやすくなるでしょう。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
Kreyszig, E: Advanced Engineering Mathematics
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