どうも、木村(@kimu3_slime)です。
Twitterで、\(6-4+3\)という引き算の計算順序が話題になっていました。
1年生の息子の算数を見ていたら湧いてきた疑問 pic.twitter.com/khlwLONNvk
— めがね旦那@小学校の先生 (@megane654321) October 23, 2021
足し算や掛け算は、無条件に交換しても元の式と等しいです。一方、引き算や割り算ではそれが成り立ちません。今回は、引き算の計算の順番入れ替えの注意点について紹介します。
6-4+3の順序入れ替え
まず冒頭の例ですが、
\[ \begin{aligned}6-4+3\end{aligned} \]
という式は、
\[ \begin{aligned}(6-4)+3\end{aligned} \]
と左から優先して計算する、という暗黙の法則によって解釈されています。これは暗黙ですが重要な決まりなので、説明した方が良いでしょう。
すると、その値は
\[ \begin{aligned}(6-4)+3\\ =2+3=5\end{aligned} \]
です。一方、引き算の部分だけ順序(数字)を入れ替えた式を考えてみましょう。
\[ \begin{aligned}6-3+4\\ =(6-3)+4 =2+4\\=6\end{aligned} \]
と、異なった結果が出てきてしまいます。したがって、引き算では数字を入れ替えて計算すると、間違った結果を導いてしまいます。
小学1年生に説明するなら、\(6-4+3\)と\(6-3+4\)を何か物・ブロックを使って説明するでしょう。「4個取り除いて3個加える」と「3個除いて4個加える」では手元に残っている量が違う。だから、引き算の計算の順序入れ替えには注意しよう、といったように。
中学生になり、マイナス(負の数)を知っていれば、問題なく順序を入れ替える方法を学べます。すなわち、
\[ \begin{aligned}6-4+3\\ =6+(-4)+3 \\ =6+3+(-4)\\ =6+3-4\end{aligned} \]
とすれば良いのです。引く\(-4\)という操作を、マイナスを加える\(+(-4)\)と捉え直します。すると、足し算同士は順番を入れ替えることができるので、正しく式変形できますね。
引き算だけ数字だけ入れ替えた結果は、一般に等しくありません。
\[ \begin{aligned}-4+3=-1\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}-3+4=1\end{aligned} \]
この事実を意識すれば、順序入れ替えで違った結果を導く理由がわかるでしょう。
結合法則の破れ
この引き算の性質を、少し数学的に眺めてみましょう。
\(*\)を加減乗除のような2項演算を表す記号とします。そして、\(a,b,c\)を任意の数として、
\[ \begin{aligned}(a*b)*c= a*(b*c)\end{aligned} \]
が常に成り立つ時、その演算では結合法則(associative law)が成り立つと言います。
\[ \begin{aligned}a*b = b*a\end{aligned} \]
が常に成り立つとき、その演算では交換法則(commutative law)が成り立つと呼びます。
例えば、足し算や掛け算では結合法則、交換法則の両方が成り立ちます。したがって、
\[ \begin{aligned}5+6+9=9+6+5 \end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}6\times 7 \times 2=2\times 6\times 7\end{aligned} \]
と自由に順序を入れ替えて計算しても、結果は変わりません。
一方で、引き算や割り算では、(一般には)結合法則が成り立ちません。
\[ \begin{aligned}(6-2)-3\\= 4-3=1\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}6-(2-3)\\ =6-(-1)= 7\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}(10\div 5) \div 2\\ =2 \div 2 =1\end{aligned} \]
\[ \begin{aligned}10\div (5 \div 2)\\ =10 \div \frac{5}{2} =4\end{aligned} \]
このような演算は、非結合的(non-associative)と呼ばれます。結合の仕方によって結果が変わってしまうので、人間が何らかの意味で解釈方法を決めなければなりません。そこで一般的に採用されているのが、
\[ \begin{aligned}a*b*c:= (a*b)*c\end{aligned} \]
と左から計算するルール(左結合 left-associative)です。
この記法を採用しなければならない必然性はなく、
\[ \begin{aligned}a*b*c:= a*(b*c)\end{aligned} \]
と右から優先して計算するルール:右結合(left-associative)も考えられます。
例えば、べき乗の計算では右結合の表記が採用されています。
\[ \begin{aligned}2^{3^2}= 2^{(3^2)}\\=2^{9}=512\end{aligned} \]
と捉えるのが標準的で、左結合で
\[ \begin{aligned}2^{3^2}= (2^3)^2\\=8^2=64\end{aligned} \]
とは解釈されません(こう計算したら普通は誤り)。
左結合で書くか、右結合で書くかは慣習の問題で、どちらを選ぶか必然的な理由はありません。ただし現状では、引き算や割り算は左結合で、べき乗は右結合で書かれていると解釈するのが標準的となっています。どちらかの読み方を決めないと、人によって同じ式の解釈が違ってしまうので、いずれかひとつの読み方は決めておく必要があるわけですね。
この話は、計算順序のルールと似ています:足し算、引き算より掛け算、割り算を優先するのはなぜか
以上、引き算の計算の順序は入れ替えて良いか、入れ替えるときの注意点、結合法則の破れについて紹介してきました。
「左から計算しなければならない」と教えられがちですが、どうしてそのルールがあるのかと言えば、無条件に入れ替えると違う結果を導いてしまうからです。引き算や割り算で、試しに入れ替えた式を作って計算してみると、納得しやすいのではないでしょうか。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
すばる舎 (2016-04-21T00:00:00.000Z)
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