減衰振り子の力学系:平衡解の安定性を線形化して調べる

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、おもりバネダンパ系の力学系について、平衡解の安定性を線形化して調べてみます。

 

減衰振り子の運動方程式は、

\[ \begin{aligned}m\frac{d^2 x}{dt^2} = -k \sin x -c\frac{dx}{dt}\end{aligned} \]

と表される2階線形微分方程式です。ただし、\(c,k>0\)は定数です。\(c=0\)のときが減衰のない振り子に対応します。

これはおもりバネダンパ系に似ていて、バネの力\(-kx\)が振り子の力\(-k \sin x\)となったものです。

 

その解の挙動を力学系のアプローチで調べるために、これを連立方程式として表しましょう。\(x_1 =x\)、\(x_2 = \frac{dx}{dt}\)と置くと、方程式は

\[ \begin{aligned}\frac{dx}{dt} = \begin{pmatrix}x_2 \\ -\frac{k}{m}\sin x_1 -\frac{c}{m}x_2 \end{pmatrix}\end{aligned} \]

となります。

この方程式の平衡解は、右辺=0となる点です。サインが0となる点を考えると、\((2n\pi,0)\)、\(((2\ell+1)\pi,0)\)、\(n,\ell \)は整数となる点が平衡点ですね。

 

これらの平衡点における解の安定性を、線形化の方法で調べてみましょう。まず一般的な線形化方程式は

\[ \begin{aligned} \frac{dx}{dt}&= \begin{pmatrix} \frac{\partial f_1}{\partial x_1} & \frac{\partial f_1}{\partial x_2} \\ \frac{\partial f_2}{\partial x_1}& \frac{\partial f_2}{\partial x_2}\end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix} \\&= \begin{pmatrix} 0 &1 \\  -\frac{k}{m}\cos x_1&  -\frac{c}{m} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix} \end{aligned} \]

となります。

 

\((2n\pi,0)\)における線形化方程式は

\[ \begin{aligned} \frac{dx}{dt}&= \begin{pmatrix} 0 &1 \\  -\frac{k}{m}&  -\frac{c}{m} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix} \end{aligned} \]

です。固有値は\(\lambda = \frac{-\frac{c}{m}\pm \sqrt{\frac{c^2}{m^2} -4 \frac{k}{m}}}{2}\)となります。

\(c\)が十分小さいとき(\(\frac{c^2}{m^2} -4 \frac{k}{m} <0\)となるとき)、固有値は共役な複素数で、実部はともに負です。このケースは、平衡解は安定なスパイラルと呼ばれます。

 

\(((2\ell +1)\pi,0)\)における線形化方程式は

\[ \begin{aligned} \frac{dx}{dt}&= \begin{pmatrix} 0 &1 \\  \frac{k}{m}&  -\frac{c}{m} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix} \end{aligned} \]

です。固有値は\(\lambda = \frac{-\frac{c}{m}\pm \sqrt{\frac{c^2}{m^2} +4 \frac{k}{m}}}{2}\)となります。

\(c\)の値が何であろうが、固有値は正負の実数です。このケースは、平衡解はサドルに分類されます。

 

以上をまとめれば、全体としては次のような相図が得られます。実部が0の固有値を持たないため、線形化が元の方程式の近似として成り立っていることに注意しましょう。

\(x_2\)(速度)が十分大きいときは、

\[ \begin{aligned}\frac{dx_2}{dt} =-\frac{k}{m}\sin x_1 -\frac{c}{m}x_2\end{aligned} \]

においてサインの項の大きさに限界があるので、\(x_2\)の大きさは減少します。したがって、すべての解は平衡点の付近まで近づくわけです。\(((2\ell +1)\pi,0)\)の平衡解は不安定であり、多くの解は安定な平衡解\((2n\pi,0)\)に近づいていきます。

つまり、さまざまな初期状態から始めても、多くの場合で振り子は静止状態に向かうわけですね。

 

以上、減衰振り子の力学系、平衡解の安定性を線形化して調べてきました。

減衰なしの振り子とは違って、リヤプノフ安定(センター)だった平衡解が、漸近安定なスパイラルに変わりました。これは振り子の動きを想像すれば予想できる結果ですが、力学系と線形化の方法によってきちんと確かめられるのは嬉しいですね。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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