数学の本・文章・数式・記号の読み方:意味を意識して読む

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

大学で数学を学ぶうちに、数学の文章を意味を理解しながら読むことができるのは大事だと思うようになりました。

今回は、数学の本・文章・数式の読み方として、僕なりに心がけていることを紹介します。記号の読み方には、慣習や好みがあり、どのように読んでも自由ですので、参考程度にどうぞ。

 

数学の文章・記号の読み方

本をきちんと読むという行為を支えているのは、一文一文の意味を理解することです。

「門前の小僧習わぬ経を読む」と言いますが、最初のステップとして音読できることがあるでしょう。1つの文章を「より良く」音読できるためには、次のような段階があるのではないかと思っています。

  1. 文を音として読む
  2. 文の意味を理解する
    1. 文の構造(主語、述語)を見抜く
  3. 文と文の間の論理的な関係を読み取る

 

音として読む

学校に通っていた方なら、本に書かれた文章を音として読めない、ということはないと思います。

漢字が読めない、ギリシャ文字が読めない、といったつまづきを感じることはあるかもしれませんが、それは辞書やネットで調べればすぐに解決します。

ひとりで勉強するときに、きちんと理解したい部分は声に出して読むと、理解が深まります。声が出せない状況では、脳内で読み上げる、黙読すると良いでしょう。僕は英語の学習でこれを利用しましたが、数学も一種の言語学習なので同じです。

ごく簡単に理解できる文章ならば、スムーズに音読することができます。逆に、なめらかに読めない文章は、理解の難しい文章です。発音できない漢字があるとき、その意味の理解には怪しい部分があるでしょう。

「何度も繰り返して発音すれば理解できる!」というものではないですが、素早く正確に文を捉えるには、音読や黙読をして自分の理解度を検証すると良いでしょう。恥ずかしがらずに試してみてください。

 

意味を理解する

「音を取る」というステップは、少なくない人がクリアできるのではないかと思います。問題は、意味を理解するところです。ここで人によって大きな差が出ます。

例えば、

\[a=b\]

\[a<b\]

という数式は、「\(a\)イコール\(b\)」「\(a\)小なり\(b\)」と読む人は少なくないでしょう。学校ではそう教わった気がします。

発音はできています。さて、その意味を説明できるでしょうか? 脳内で、人に向けて説明してみてください。

僕はこれらの数式を、「\(a\)と\(b\)は等しい」「\(a\)は\(b\)より(真に)小さい」と読んでいます。つまり、記号の意味を省略せずに読むようにしています

 

最初に言いましたが、僕は「こう読むべき」という話をしているわけではありません。イコール・記号名で読んだほうが基本的には効率が良いです。ただし、最初から記号名だけで読む習慣をつけていると、記号の意味を忘れてしまいやすいのではないか、と思っています。

例えば、

\[\sum _{k=1}^n k\]

\[\int_ 0 ^1 x dx\]

といった数式ならどうでしょうか。

記号としては、\(\sum\)はシグマ、\(\int\)はインテグラルと発音します。僕は数学としては、記号の発音なんかどうでも良い、とすら思っています(もちろん、記号の発音の知識がないと、難しい文章に見えるので、知っておいて損はないですが)。それより大事なのは、その記号が何を意味するか記号の定義は何かということです。

「シグマ、ケーイコール1、エヌ、ケー」「インテグラル、0、1、エックス、ディーエックス」と記号的に発音する習慣はよくあります。ただ、そこから意味を読み取るのは難しいのではないでしょうか。僕ならば、「ケーを1からエヌまで動かすときのケーの総和」「エックスがゼロから1の範囲のときのエックスの積分」と読みます。

さらにもう少し補うなら、「数列\(k\)の総和」「関数\(x\)の積分」と、記号によって表された対象が何なのか(どんな型・仮定なのか)を宣言します。

一番最初の\(a=b\)という式は、数\(a,b\)が等しいことを意味するつもりで書きました。しかし別の状況では、集合\(a,b\)が等しいことを\(a=b\)と書くでしょう。記号の意味は文脈に依存し、同じ記号を少し違う意味で使ったりします。だからこそ、文字や記号の型を意識するのは大事です。

 

他にもいくつか例を紹介します。

数式 記号読み 意味読み
\(A \Leftrightarrow B\) \(A\)同値\(B\) \(A\)と\(B\)は同値である
\(A \cap B\) \(A\)キャップ\(B\) \(A\)と\(B\)の共通部分
\(\lim_{x\to a}f(x)\) リミット\(x\)矢印\(a\)\(f(x)\) \(x\)を\(a\)に近づけるときの\(f(x)\)の極限
\(A^{-1}\) \(A\)インバース \(A\)の逆行列

 

僕が意味によって読むことをすすめるのは、それが日本語の文章・単語となるから、という部分もあります。

例えば\(a=b\)は、英語で言えば「a equals b」で自然言語と記号の語順が一致しているのですが、日本語で言えば「\(a\)は\(b\)に等しい」と動詞の語順が記号と違ったものになるのが普通です。

日本語話者には不便に感じるでしょうが、数学の記法は英語的な語順のものが普通です。したがって、記号を英語的に読み下せば自然な文章となりますが、日本語として読むと意味が取りづらくなるでしょう。

なので、数学の文章もきちんと日本語として意味がわかるように習慣づけていると、何を言っているかわからないことが減るのではないか、と思っています。

 

数式は暗号文ではなく、単に日本語(自然言語)を記号で表したものです。

数学が得意で既に意味を理解している人は、省略して記号を形式的に読む方が楽ですが、そうでないならば記号的に読むのは気をつけた方が良いと思います。本当によくわからない「記号」の羅列に見えてしまう可能性があるので。

漢字を含んだ文章をただ音の羅列として読まないのと同じように、数学の文章も音だけでなく意味を理解して読んでみてはいかがでしょうか。

 

論理的な関係を読み取る

およそここまでが基本的な話で、最後にまとめとして発展的な話題を提示します。

音として読めて、意味も取ることができたら、さらに文と文の間の論理的な関係を読み取れるようになると良いでしょう。

 

例として、杉浦「解析入門 Ⅰ」のある部分を引用し、僕なりの読み方を紹介します。

命題1.2 \(f:I\to \mathbb{R}^n\)が\(t\)で微分可能ならば、\(f\)は\(t\)で連続である。

証明 \(\frac{f(t+h)-f(t)}{h}= f^{\prime}(t)+\delta (h)\)とおけば \(\lim_{h\to 0, h \neq 0 } \delta (h)=0\)だから、\(\lim_{h\to 0}f(t+h)=f(t)\)となる。

この文章で、音として読む、意味を意識して読むことを実践してみてください。さらに、数学の文章では、この文たちの論理的な意味を理解するのが大事です。

 

まず命題とありますが、これは「AならばBである」のような数学的な主張を表すサインです。\(A\)を仮定や前提、\(B\)を結論と言います。

参考:論理学の考え方、命題、主張、仮定、結論とは何か?

今回の例ならば、「\(f:I\to \mathbb{R}^n\)が\(t\)で微分可能」が仮定で、「\(f\)は\(t\)で連続である」が結論です。何が出発点で何がゴールなのか、常にはっきりと意識しましょう。

 

証明は、命題が正しい理由を、小さな事実の積み重ねによって導いた文章です。

「 \(\frac{f(t+h)-f(t)}{h}= f^{\prime}(t)+\delta (h)\)とおけば 」はどういう意味かわかりますか? 「置く」というのは、新しい記号を既知の記号によって定義することです。ここでは、\(\delta (h)\)(デルタ)という実数\(h\)を変数とする関数を、\(\delta (h):=\frac{f(t+h)-f(t)}{h} -f^{\prime}(t) \)によって定めています。仮定より、\(f\)は\(t\)で微分可能なので、その導関数\(f^\prime (t)\)も既知のものです。

「\(\lim_{h\to 0, h \neq 0 } \delta (h)=0\)だから」という部分は、\(f\)が微分可能であることの定義、\(\delta \)の定義によるものです。つまり、この文を読むには微分可能であることの定義をきちんと知っている必要があります。命題に含まれている「微分可能」の意味がもしわかっていなかったら、その時点で定義にさかのぼると良いでしょう。

「\(\lim_{h\to 0}f(t+h)=f(t)\)となる」のは、細かい理由の積み重ねが省略されています。まず\(f(t+h)-f(t)=hf^{\prime}(t) +h \delta (h)\)という等式が成り立っています。ここで\(h\to 0\)という極限を取りましょう。右辺の\(hf^{\prime}(t)\)は\(f^{\prime}(t)\)が\(h\)に依存しない定数なので、0に近づきます。\(h\delta (h)\)は\(\lim_{h\to 0} h=0\)、\(\lim _{h\to 0}\delta (h)=0\)で、関数の積の極限の性質\(\lim _{x\to a}f(x)g(x) = \alpha \beta\)より\(0\)に近づくと言えます。よって「\(\lim_{h\to 0}f(t+h)=f(t)\)となる」ことが言えました。この結論は何かというと、\(f\)が\(t\)で連続であることの定義です。

 

少し長くなってしまいましたが、教科書にはこのように省略されている理屈、「行間」があります。文の音や意味をその通りに取るだけでは、完全な理解に至らないこともあるわけです。

ただし、論理的な関係をいつでも完璧に理解するのは難しいです。まずは、「主張は何か、仮定は何か、結論は何か、使われている用語や記号の定義は何か」を意識すると良いでしょう。

 

以上、数学の本・文章・数式・記号の読み方として、意味を意識して読むことを紹介してきました。

僕は高校生のときは記号的に読んでいましたが、大学数学を学び苦戦するうちに、記号の意味をきちんと確認して読む習慣ができました。

文を正確にかつ自分にもわかるように読めることは、数学を学ぶ第一歩です。今回の話が、数学の文章を楽しく読むヒントとなれば嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

解析入門 Ⅰ(基礎数学2)

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