ルートを含む等式の両辺を2乗するときの注意点:逆も成り立つか

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

中学や高校の数学で、等式の両辺を2乗しても良いのかどうか、迷ったことがあるでしょうか。今回は、等式の両辺を2乗するときの注意点を紹介します。

 



等式の変形と注意点

例として、\(\sqrt{x+2}=x\)という方程式を考えてみましょう。

間違った回答

\(\sqrt{x+2}=x\)の両辺を2乗して、\(x+2=x^2\)となる。移項すると、\(x^2-x-2=0\)。因数分解すると、\((x-2)(x+1)=0\)である。よって、解は\(x=2,-1\)である。

上の回答がなぜ間違っているか、説明できるでしょうか。

\(x=2\)は確かに解ですが、\(x=-1\)は解ではありません。最初の方程式に代入して確かめると、左辺は\(\sqrt{-1+2}=1\)、右辺は\(-1\)と等しくならないので。

 

どうして間違いが導かれたのでしょうか。もしかして、等式を両辺を2乗するという操作は正しくないのでしょうか。いやいや、そんなことはありません。

\[ \begin{aligned}\sqrt{a}=b ならば a =b^2\end{aligned} \]

という主張は正しいです。ただし、これは逆の主張

\[ \begin{aligned}a=b^2 ならば \sqrt{a}=b\end{aligned} \]

が一般には成り立ちません。

今回見た例のように、必要以上に解を増やしてしまう変形になっていることがあります。もちろん、問題ないケースもありますが。なので、2乗する操作をしたら、最後に解の吟味(本当に解になっているか)の確かめをすると良いでしょう。

参考:軌跡の問題で逆の確認は必要か:逆が成り立たない例

 

等式を2乗するときに、このような心配をしたくないなら、論理的に同値な変形になっているか意識すると良いでしょう。

\[ \begin{aligned}\sqrt{a}=b ならば a=b^2 かつ b \geq 0\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned} a=b^2 かつ b \geq 0ならば \sqrt{a}=b\end{aligned} \]

これらは正しいです。これを「\(\sqrt{a}=b\)」は「\(a=b^2 かつ b \geq 0\)」と論理的に同値である、必要十分条件である、と言います。

 

そもそもルートは正の数を表すので、その条件を加えておけば同値な変形になります。今回の例ならば、\(\sqrt{x+2}=x\)は\(x+2=x^2\)かつ\(x \geq 0\)と同値です。なので、\(x=-1\)という解の候補が出てきても、\(x \geq 0\)を満たさないので解でないとわかります。

似たような間違いとして、

\[ \begin{aligned}\sqrt{(x-2)^2}= x-2\end{aligned} \]

という式変形はよくあります。\( x \geq 2\)のときは正しいですが、\(x<2\)では間違った主張となってしまっています。正しくは、

\[ \begin{aligned}\sqrt{(x-2)^2}= \begin{cases}x-2 & (x \geq 2 )\\-(x-2) & (x<2)\end{cases} \end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\sqrt{(x-2)^2}= |x-2|\end{aligned} \]

です。

詳しくは:平方根とルートの違い:ルート外しの注意点

 

中学校の数学では、等式の性質として次のようなものを学ぶのではないでしょうか。

\(a,b,c\)を数とする。

  1. \(a=b\)ならば\(a+c=b+c\)
  2. \(a=b\)ならば\(a-c=b-c\)
  3. \(a=b\)ならば\(ca =cb\)
  4. \(a=b\) かつ \(c \neq 0\)ならば\(\frac{a}{c}=\frac{b}{c}\)
  5. \(a=b\)ならば\(b=a\)

これは「ならば」と書いてるので、逆が成り立つかどうかはわからないように見えます。しかし、足し算と引き算、掛け算と割り算の両方がセットで表れているので、同値な変形をして方程式を解くことができるのです。

例えば、\(a-c =b-c\)ならば、両辺に\(c\)を加えて(1番目の性質)\(a-c+c= b-c+c\)なので、\(a=b\)が成り立ちます。

例えば、\(ca =cb\)かつ\(c \neq 0\)ならば、両辺を\(c\)で割って(4番目の性質から)\(\frac{ca}{c}=\frac{cb}{c}\)なので、\(a=b\)が成り立ちます。

ここで0で割っていない \( c \neq 0\)という確認は必ず必要です。一般には、\(ca= cb\)という式があるからといって、\(a=b\)とは言えないのです。例えば、\(a=1,b=-1,c=0\)とすると、\(ca=cb=0\)ですが、\(a\neq b\)ですね。

ルートと2乗の性質について今回確認したことは、

  1. \[ \begin{aligned}\sqrt{a}=b ならば a=b^2\end{aligned} \]
  2. \[ \begin{aligned} a=b^2 かつ b \geq 0ならば \sqrt{a}=b\end{aligned} \]

です。等式を割り算するとき0で割っていないか確認をする必要があるのと同様に、ルートを含む等式を2乗するときは一方が正の数となっているかの確認が必要となります。

 

今回は、ルートを含む等式を2乗するときの注意点を紹介してきました。

等式ではなく、不等式でも同様の注意が必要となります。

参考:不等式を2乗するときの注意点:マイナスを含む場合

「2乗する」という操作そのものが数学的に間違っているわけではありません。ただし、方程式を解くにあたっては、同値でない変形になっている可能性に気をつける必要があります。解の候補を見つけたら逆を確かめるか、そもそも同値な変形となるようにすると良いでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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