どうも、木村(@kimu3_slime)です。
今回は、空集合が任意の集合の部分集合であるのはなぜか、その理由について解説します。
定義
まず、空集合(empty set)\(\varnothing\)とは、何も要素を含まない集合です。
この定義より、「空集合の要素であるような\(x\)は存在しない \(\lnot(\exists x (x \in \varnothing))\)」、すなわち「任意の要素\(x\)は空集合に属さない \(\forall x (x \notin \varnothing)\)」が成立しています。
集合\(B\)が集合\(A\)の部分集合である\(B\subset A\)とは、\(B\)のすべての要素が\(A\)に属すること、\(\forall x (x\in B \Rightarrow x \in A)\)が成立することです。
参考:記号論理、命題論理入門:覚えるべき論理記号(否定、かつ、または、ならば、同値)とは、集合論のはじまり、全称命題と存在命題、論理記号を知ろう、集合論入門:集合の定義、数の集合、ラッセルのパラドックス
証明1
\(A\)を任意の集合とし、\(\varnothing\)が\(A\)の部分集合であること\(\varnothing \subset A\)を示しましょう。
部分集合であることの定義、\(\forall x (x\in \varnothing \Rightarrow x \in A)\)を示します。
命題\(P\Rightarrow Q\)の真偽は、その対偶\((\lnot Q )\Rightarrow (\lnot P)\)に常に一致します。(これは真偽表により証明できます。\(\Rightarrow\)の定義によるものです。)
したがって、\(\forall x (\lnot( x \in A )\Rightarrow \lnot (x\in \varnothing))\)を示せば良いわけです。
任意に\(x\)を決め、\( x \notin A \)と仮定しましょう。このとき、空集合の定義より、\( x \notin \varnothing \)が成立しています。(\(x\)に関する仮定が何であろうが、空集合の性質により成り立つことです)
よって、\(\forall x (\lnot( x \in A )\Rightarrow \lnot (x\in \varnothing))\)が成り立つこと、すなわち\(\varnothing \subset A\)が示せました。
証明2
まずは対偶によって示しましたが、直接示すこともできます。
\(\forall x (x\in \varnothing \Rightarrow x \in A)\)を示しましょう。
任意に\(x\)を取ります。すると、空集合の定義より\(x \notin \varnothing\)なので、\(x \in \varnothing\)は偽です(ある命題が真なら、その否定は偽である:排中律)。
命題\(P\Rightarrow Q\)の真偽は、仮定\(P \)が偽のとき、\(Q\)の真偽によらず常に真になります。これを空真、空ゆえに真(vacuously true)というのでした。
参考:「AならばB」のよくある誤解から学ぶ、論理学入門(対偶、逆、否定、真偽表)
よって、\(\forall x (x\in \varnothing \Rightarrow x \in A)\)は真であり、\(\varnothing \subset A\)が言えました。
解説
命題\(P \Rightarrow Q\)において、前提が偽のとき、結論が真であろうが偽であろうが真と考えるのは、論理学の基本的な取り決めです。これは論理学に慣れないうちは奇妙に思えるかも知れません。
証明1に見るように、対偶を取れば納得しやすいでしょう。つまり、対偶\((\lnot Q )\Rightarrow (\lnot P)\)は、仮定が真偽のいずれであっても結論\((\lnot P)\)が真であるケースを考えているので、\((\lnot Q )\Rightarrow (\lnot P)\)は真です。
空ゆえに真は、「結論\(Q\)が真のとき、\(P \Rightarrow Q\)は真」と同義。結論を仮定してしまえば、前提がなんであろうと正しいですが、これは当たり前すぎて空虚なものですね。「結論を正しいと仮定する」のと同等なのが「前提を満たすものが存在しないときに、結論を偽としない=真とすること」です。
応用例
最後に、空集合が任意の集合の部分集合であることの応用例を紹介しましょう。
例えば位相空間論では、集合のべき集合\(P(A)\)を考えます。\(A\)のべき集合とは、Aの部分集合全体からなる集合です。
今回示したように、常に\(\varnothing\subset A\)なので、常に\(\varnothing \in P(A)\)となります。(部分集合と要素が属する記号を取り違えないようにしましょう)
また、集合\(A\)を空でないものとする、という仮定は数学において頻繁に登場します。
\(A \neq \varnothing\)とはどういうことでしょうか。\(A \supset \varnothing\)は成立するので、\(\lnot (A \subset \varnothing)\)です。\(\lnot (\forall x (x \in A \Rightarrow x \in \varnothing))\)を言い換えれば、\(\exists x (x \in A \land x\notin \varnothing)\)ですが、後半は常に真なので\(\exists x (x \in A)\)を意味しています(同一律)。(「PならばQ」の否定は、「PかつQでない」であることに気をつけましょう)
というわけで、空集合が任意の集合の部分集合であるのはなぜか、納得していただけたでしょうか。集合の基本的な性質は、論理学・記号論理に依拠しているので、もし集合に関してわからないことがあれば、論理学を学びなおしてみると良いでしょう。
木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。
日本評論社 (2008-12-10T00:00:00.000Z)
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