極限における無限大∞はなぜ数として扱えないか:不定形とは

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

高校数学で数列や関数の極限について学ぶと、無限大\(\infty\)という記号が出てきます。

この無限大は、通常の数と同じようには扱えません(数の体系が持つ性質を満たさない)。それはなぜなのか、例を交えて紹介します。

 



引き算が定義できない例

極限について、簡単におさらいしましょう。

高校数学における数列の極限は、「数列\(\{S_k\}\)において、項の番号\(k\)が限りなく大きくなっていくとき、\(S_k\)がある一定の値\(\alpha\)に近づいていくとき、数列\(\{S_k\}\)は収束すると言い、\(\lim S_k = \alpha\)と書く。」と定義されています。

数列が近づいていく値\(\alpha\)が特定の有限な数として存在せず、変数を近づければいくらでも数列の値が大きくなるとき(「無限大」に近づくとき)、その数列は正の無限大\(\infty\)に発散すると呼び、\(\lim_{k \to \infty} S_k = \infty\)と書きます。負の無限大についても同様です。

 

例えば、\(\lim_{n \to \infty} n= \infty\)で、\(\lim_{n\to \infty}n^2 =\infty\)です。この例では、左辺を足し合わせた数列についても\(\lim_{n\to \infty}(n+n^2) =\infty\)です。

一般に、\(\lim_{n\to \infty}a_n =\infty\)かつ\(\lim_{n\to \infty}b_n =\infty\)のとき、\(\lim_{n\to \infty}(a_n+b_n) =\infty\)が成り立ちます。いわば\(\infty + \infty = \infty\)が成り立つのです。

ここまで見る限りでは、足し算が計算できるのだから、\(\infty\)も数として扱えるのではないか、と思うかもしれません。

 

しかし、他の計算、例えば「無限大同士の引き算」が定まったとすると、おかしなことが起こります。

\(S = \infty\)かつ\(S= -1\)というのはおかしい(矛盾)です。何が問題なのか、調べてみましょう。この手の極限がらみのパラドクスは、省略された\(\cdots\)の意味(極限操作)を明確にすることで解決します。

最初の式では、\(S = \sum_{k=0}^\infty 2^{k}\)と定義しています。最初の項だけ取り出せば、

\[\begin{aligned} S &= 1 + \sum_{k=1}^\infty 2^{k} \\&=1+2 \sum_{k=1}^\infty 2^{k-1} \\&= 1+2S\end{aligned}\]

となります。ここまでは正しい等式です。一方、\(S\)は極限として定義されていて、その値は\(\infty\)です。\(S=1+2S\)という等式を\(S\)について解く操作では、\(2S -S\)、つまり\(\infty -\infty\)の計算をしようとしています。ここが矛盾を導いてしまうポイントになっているわけです。

 

有限和を\(S_n = \sum_{k=0}^n 2^{k}\)と置きましょう。\(\lim_{n\to \infty}S_n =\infty\)、\(\lim_{n\to \infty} 2S_n =\infty\)であり、\(\lim_{n\to \infty}(2S_n -S_n) = \lim_{n\to \infty}S_n =\infty\)となります。

形式的に書けば\(\infty – \infty = \infty\)が成り立つように見えるわけですが、これは扱う数列に依存した、危険な式です。

足し算のケースと違って、\(\lim_{n\to \infty}a_n =\infty\)かつ\(\lim_{n\to \infty}b_n =\infty\)だからといって、\(\lim_{n\to \infty}(b_n -a_n)=\infty\)が成り立つとは限らないのです。

例えば、\(a_n = n\)、\(b_n =n+1\)としましょう。これらは\(\lim_{n\to \infty}a_n =\infty\)かつ\(\lim_{n\to \infty}b_n =\infty\)を満たします。一方、\(\lim_{n\to \infty}(b_n -a_n)=\lim_{n\to \infty} 1 =1\)です。これを形式的に書けば、\(\infty – \infty = 1\)です。

これは極限による無限大同士の引き算が(ひとつの値として)定義できないことを示しています。定義したとすると、\(\infty – \infty = \infty\)かつ\(\infty – \infty = 1\)となって矛盾してしまうので。足し算のケースと違って、「無限大の差」という表現を与えたとしても、ひとつの値を定めようがないのです。

 

\(\infty -\infty\)のように、数列の極限を使った無限大を含む数式で、結果が数列に依存しているため定められないものは、不定形(indeterminate form)と呼ばれます。不定形の例としては、他にもたくさんあり、

\[0\times \infty, \frac{0}{0}, \frac{\infty}{\infty}\]

\[0^0, 1^\infty , \infty ^0\]

などがそうです。

参考:Indeterminate form – Wikipedia

高校数学では、「\(\frac{\infty}{\infty}\)の形は不定形だからそのままでは計算できない」といったように説明されることがあります。個別具体に見れば、数列は収束するか発散するかは決まっていることに注意しましょう。

例えば、\(\frac{b_n}{a_n} =\frac{n^2}{n}\)は不定形だからといって、極限が決まらないわけではないのです。\(\infty +\infty \)だから\(\infty\)というような一般論がないという話であって、個別には極限(存在するかどうかも含め)という概念は定義できないものではありません。不定形とは、一般論が存在しないような、与えた数列によって結果が変わるような形の極限を含む数式です。

 

ちなみに、無限大\(\infty\)は通常の数のように扱えない(引き算が定義できない)ですが、広い意味での数の仲間に加えて議論することもできます。

例えば、実数\(\mathbb{R}\)に\(\infty ,-\infty\)をつけくわえた\(\overline{\mathbb{R}} = \mathbb{R} \cup \{\pm \infty\}\)は、拡大実数や補完数直線と呼ばれ、積分論などで利用されます。

また、複素数\(\mathbb{C}\)に(正負を区別しない)\(\infty\)を付け加えた、\(\mathbb{CP}^1 = \mathbb{C} \cup\{\infty\}\)はリーマン球面、または複素射影直線と呼ばれ、特異点を持つ関数の議論に便利です。

このような枠組みにしても、足し算のような部分的な演算は定義できますが、無限大同士の引き算ような不定形は定義されないことを知っておくと良いでしょう。

 

以上、極限における無限大∞はなぜ数として扱えないか、不定形について紹介してきました。

無限大という記号があると、あたかもそれを数のように扱ってしまいがちですが、それだと問題を起こしてしまうケース(不定形)があると伝われば嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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