留数、留数定理とは:定義と証明、計算例

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、留数、留数定理とは何か、計算例を交えて紹介します。

 



留数、留数定理とは

留数という考え方を使うことで、複素積分を簡単に計算することができます。

留数定理(residue theorem)

\(f\)を\(z=z_0\)に孤立特異点を持ち、ある円環領域(アニュラス)\(0<|z−z_0|<R\)において正則な関数とする。このとき、\(f\)はローラン展開

\[ \begin{aligned}f(z) =\sum_{n=-\infty}^\infty a_n(z-z_0)^n\end{aligned} \]

できる。

そして、\(z_0\)を内部に含む単純閉曲線\(c\)における関数\(f\)の積分は、

\[ \begin{aligned}\int_c f(z) dz = 2\pi i \underset{z=z_0}{\mathrm{Res}}f(z)\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned} \underset{z=z_0}{\mathrm{Res}}f(z):= a_{-1}\end{aligned} \]

となる。

簡単に言えば、特異点を含む経路での複素積分の値は、\(2\pi i\)掛ける「ローラン展開の\(\frac{1}{z-z_0}\)の係数」で計算できる、という主張です。

コーシーの積分定理は、正則関数の周回積分は0 \(\int _c f(z)dz=0\)を主張しています。それに対し、経路の中に特異点があると、それが\(2\pi i\)掛ける「何か」だけ値が発生します。その係数\( \underset{z=z_0}{\mathrm{Res}}f(z)\)を留数(residue)と呼ぶわけです。

コーシーの積分公式 \(\int _c \frac{f(z)}{z-z_0}dz=2\pi i f(z_0)\)は、留数定理の特殊なケースとして見ることができます。すなわち、被積分関数\(\frac{f(z)}{z-z_0}\)は\(z=z_0\)に孤立特異点を持ち、留数は\( \underset{z=z_0}{\mathrm{Res}}\frac{f(z)}{z-z_0}=f(z_0)\)となっています。

(\(f\)は正則という仮定なので、\(f\)はテイラー展開\(f(z)=\sum_{n=0}^\infty \frac{f^{(n)}(z_0)}{n!}(z-z_0)^n\)されます。したがって、ローラン展開は\(\frac{f(z)}{(z-z_0)}=\frac{f(z_0)}{z-z_0}+\sum_{n=0}^\infty \frac{f^{(n+1)}(z_0)}{(n+1)!}(z-z_0)^{n}\)、となり、留数がわかるわけです。)

 

留数定理の基本的な仕組みは、次のようになっています。まずべき乗の周回積分

\[ \begin{aligned}\int_c z^k dz= \begin{cases}2\pi i & (k=-1 )\\0 & (k\neq -1)\end{cases}\end{aligned} \]

を知っておくのが大事です。これとローラン展開

\[ \begin{aligned}f(z) =\sum_{n=-\infty}^\infty a_n(z-z_0)^n\end{aligned} \]

を組み合わせましょう。両辺を積分すると、展開のうち\(n=-1\)のみの項が残ることになり、

\[ \begin{aligned}\int _c f(z) = a_{-1}\int_c \frac{1}{z-z_0} dz\\ 2\pi i a_{-1} \end{aligned} \]

となるわけです。

 

積分経路の内部に複数の孤立特異点を持つときは、留数の足し合わせがその結果となります。

単純閉曲線\(c\)の内部において、\(f\)は\(z=z_0,\dots ,z_n\)と有限個の孤立特異点を持ち、そこ以外では正則な関数とする。このとき関数\(f\)の積分は、

\[ \begin{aligned}\int_c f(z) dz = 2\pi i \sum_{k=1}^n \underset{z=z_k}{\mathrm{Res}}f(z)\end{aligned} \]

となる。

孤立特異点1個のケースを、積分路変形の原理(コーシーの積分定理)を使って組み合わせることで示せます。詳しい証明は「複素解析」などを参照してください。

右辺は「各特異点での」留数の和であることに注意しましょう。留数は、関数\(f\)だけでなく考えている特異点\(z_k\)によって変わります。複数の特異点を持つケースでは、特定の特異点での留数を求めるだけでなく、すべての留数を求める必要があります。

 

計算例

留数定理を使って、複素積分を計算してみましょう。

\(f(z)= \frac{1}{z(z-1)}\)を例とします。複素平面全体では、\(z=0,1\)が孤立特異点です。それぞれの点での留数を求めてみましょう。

部分分数分解すると、\(f(z)= -\frac{1}{z}+\frac{1}{z-1}\)です。これと等比級数(幾何級数)の公式

\[ \begin{aligned}\frac{1}{1-w}=\sum_{n=0}^\infty w^n\end{aligned} \]

ただし\(|w|<1\)、を組み合わせて、ローラン展開を求めましょう。

\(w=z\)とすることで、

\[ \begin{aligned}f(z)= -\frac{1}{z}- \frac{1}{1-z}\\=-\frac{1}{z}-\sum_{n=0}^\infty z^n\end{aligned} \]

です。これが\(z=0\)におけるローラン展開なので、そこにおける留数は\(\underset{z=0}{\mathrm{Res}}f(z)=-1\)です。

一方、\(w=z-1\)と置くと、\(f(z)=\frac{1}{(w+1)w}=-\frac{1}{w+1}+\frac{1}{w}\)と部分分数分解できます。したがって、

\[ \begin{aligned}f(z)= -\frac{1}{w+1}+\frac{1}{w}\\=-\sum_{n=0}^\infty (-w)^n+\frac{1}{w}\\ =\frac{1}{z-1}-\sum_{n=0}^\infty (-1)^n (z-1)^n\end{aligned} \]

ただし\(|w|=|z-1|<1\)、となります。これが\(z=1\)におけるローラン展開であり、留数は\(\underset{z=1}{\mathrm{Res}}f(z)=1\)です。

以上の結果を使って、積分を計算しましょう。\(c_1\)を\(z=0\)のみを含む単純閉曲線、\(c_2\)を\(z=1\)のみを含む単純閉曲線、\(c_3\)を\(z=0,1\)両方を含む単純閉曲線とします。すると、留数定理から

\[ \begin{aligned}\int_{c_1} f(z)dz =2\pi i \underset{z=0}{\mathrm{Res}}f(z)\\ =- 2\pi i\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\int_{c_2} f(z)dz =2\pi i \underset{z=1}{\mathrm{Res}}f(z)\\ = 2\pi i\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\int_{c_3} f(z)dz \\=2\pi i (\underset{z=0}{\mathrm{Res}}f(z)+\underset{z=1}{\mathrm{Res}}f(z))\\ =0\end{aligned} \]

と求めることができました。積分計算が留数を求める問題に置き換えられる、という点は便利ですね。

もっとも、この形の関数なら、\(c_1,c_2\)のケースでは、コーシーの積分公式を使うほうが簡単です(試してみてください)。

 

以上、留数、留数定理とは何か、定義と計算例を紹介してきました。

孤立特異点が極の場合は、留数を極限を使って求められる公式が知られています。また、留数積分の方法を使って、実積分を計算する応用もあります。これらのは別の記事にて紹介予定。

複素周回積分は、経路の内部に

  • 特異点を持たない場合はコーシーの積分定理
  • 孤立特異点を持つ場合はコーシーの積分公式か留数定理

によって計算することができます。一般に積分計算というものは非常に難しいので、複素解析の手法で計算できると嬉しいですね。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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