複素関数の主値、多価関数・一価関数とは:平方根、ルートを例に

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、複素関数の主値とは何か、平方根、ルートを例に紹介します。

 



主値とは:平方根を例に

主値の考え方は、実数としてのルート関数にも既に現れているものです。

例えば、\(x^2 = 2\)という方程式を考えると、その解は\(\sqrt{2},-\sqrt{2}\)の2つがあります。

したがって、\(f(x)= 2乗して2になる数\)という定め方では、値が2つになり、通常の関数ではなくなります。

2つ以上の値を取る「関数」を多価関数(multi-valued function)、通常のように1つの値を取る関数を一価関数(single-valued function)と呼びます。あえて多価関数を定めると言わない限り、関数と言えば1つのインプットに対して1つのアウトプットを対応させる一価関数を考えたいです。

(多価関数をそのまま扱う議論としてリーマン面の話がありますが、ここでは一価関数としての話をしましょう。)

そこで、ルートの記号を使うときは、\(x^2 =2\)を満たす「正の」数として\(\sqrt{2}\)を選びます。\(x^2 =2 \)を満たす数は2つあるわけですが、\(x^2 =2 \)を満たす正の数は常にひとつです。

同様にして、正の数\(a\)に対して、\(x^2 =a\)を満たす正の数を\(\sqrt{a}\)と書くことで、ルート関数\(f(x)= \sqrt{x}\)が一価関数として定まるわけです。多価関数の値をひとつに制限して得られる値は、主値(principal value)と呼ばれます。ルートを定めるときには、正の数として主値を選んでいたわけですね。

 

では、この状況を複素数に一般化してみましょう。

\(w = \sqrt{z}\)という関数を定めたいとします。つまり、\(w^2 = z\)から、うまく値を制限したいです。

\(z,w\)を\(z= r(\cos \theta + i \sin \theta)\)、\(w= R(\cos \phi +i \sin \phi)\)と極形式で表します。ド・モアブルの公式から、\(w^2 = R^2 (\cos 2 \phi +i \sin 2\phi)\)です。

したがって、\(w^2 =z\)は\(R^2 (\cos 2 \phi +i \sin 2\phi) = r(\cos \theta + i \sin \theta)\)という等式になります。

まず両辺の絶対値が等しいので、\(R^2 =r\)です。したがって、\(R =\sqrt{r} \)(実数のルート)とすれば良いです。

また、両辺の偏角が等しいので、\(2\phi = \theta + 2k \pi\)と表せます。つまり、\(\phi = \frac{\theta}{2}+ k\pi\)です。本質的に異なるものは、\(\frac{\theta}{2} , \frac{\theta}{2}+\pi\)と2つあります。ここで\(k=0\)のときを主値として、

\[ \begin{aligned}\sqrt{z} : = w = \sqrt{r} (\cos \frac{\theta}{2} +i \sin \frac{\theta}{2})\end{aligned} \]

として定めましょう。これは絶対値の大きさを平方根を取り、偏角を半分にする関数になっていますね。

\(0\leq \theta < 2\pi\)のとき、\(\sqrt{z}\)の偏角は\(0\leq \frac{\theta}{2} < \pi\)です。つまり、ガウス平面における上側平面の値を取るものを、ルートとして定めたわけですね。

 

例として、\(\sqrt{i}\)を求めてみましょう。極形式で表すと、\(i = 1 (\cos \frac{\pi}{2} + \sin \frac{\pi}{2})\)です。

したがって、平方根の定義から

\[ \begin{aligned}\sqrt{i} = \sqrt{1} (\cos \frac{\pi}{4} + i\sin \frac{\pi}{4}) \\= \frac{1}{\sqrt{2}}(1+i)\end{aligned} \]

と求められました。

 

ルート関数

以上の話は、\(n\)乗根により定まるルート関数として一般化できます。

\(w = \sqrt[n]{z}\)という関数を定めたいとします。つまり、\(w^n= z\)から、うまく値を制限しましょう。

極形式で表せば、ド・モアブルの定理から、

\[ \begin{aligned}R^n (\cos n\phi + i \sin n\phi) = r (\cos \theta + i \sin \theta)\end{aligned} \]

となります。絶対値を比較すれば、\(R^n =r\)、すなわち\(R = \sqrt[n]{r}\)です。

偏角を比較すると、\( n\phi = \theta + 2k\pi\)、\(k\)は整数と表せます。整理すると、\(\phi = \frac{\theta}{n}+\frac{2k\pi}{n}\)です。\(k=0,1,\dots, n-1\)で、本質的に\(n\)個の解があります。そこで一価関数を得るために、\(k=0\)を主値として選びましょう。すなわち、

\[ \begin{aligned}\sqrt[n]{z} := \sqrt[n]{w}(\cos \frac{\theta}{n} +i \sin \frac{\theta}{n})\end{aligned} \]

と定めるわけです。絶対値の正の\(n\)乗根を取り、偏角を\(1/n\)しています。

\(0\leq \theta < 2\pi\)のとき、\(\sqrt[n]{z}\)の偏角は\(0\leq \frac{\theta}{n} < \frac{2\pi}{n}\)です。つまり、ガウス平面において、角度で言えば円を\(1/n\)した右側の小さな部分で値を取るものを\(\sqrt[n]{z}\)の主値として選んだわけです。

 

例として、\(\sqrt[3]{i}\)を求めてみましょう。\(i=(\cos \frac{\pi}{2} + \sin \frac{\pi}{2}) \)なので、

\[ \begin{aligned}\sqrt[3]{i} =  (\cos \frac{\pi}{6} + i\sin \frac{\pi}{6}) \\= \frac{1}{2}(\sqrt{3}+ i)\end{aligned} \]

と求められました。

 

以上、複素関数の主値、多価関数とは何か、平方根、ルートを例に紹介してきました。

複素対数関数やべき乗関数でも同様の議論をしますが、その簡単なケースとして、ルート関数の主値について理解しておくと良いでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

Advanced Engineering Mathematics
Kreyszig, Erwin(著)
John Wiley & Sons Inc (2011-05-03T00:00:01Z)
5つ星のうち4.6
¥6,333 (中古品)

 

こちらもおすすめ

オイラーの公式とは:複素指数関数、三角関数の性質