合成関数の偏微分、チェインルールとは:波動方程式を例に

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は、合成関数の偏微分、チェインルールについて、波動方程式を例に紹介します。

 



チェインルールとは

簡単なケースでは、合成関数の偏微分は次のように表せます。

\(f:\mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}\)、\(g: \mathbb{R}\to \mathbb{R}\)で、\(f\)は\((x,y)\in \mathbb{R}^2\)において微分可能、\(g\)は\(g(x,y) \in \mathbb{R}\)において微分可能とする。このとき、合成関数\(g\circ f \)は、\((x,y)\)において偏微分可能で、

\[ \begin{aligned}\frac{\partial (g\circ f)}{\partial x } (x,y)= g^{\prime}(f(x,y)) \frac{\partial f}{\partial x}(x,y)\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\frac{\partial (g\circ f)}{\partial y } (x,y)= g^{\prime}(f(x,y)) \frac{\partial f}{\partial y}(x,y)\end{aligned} \]

が成り立つ。これをチェインルール(連鎖律 chain rule)と呼ぶ。

証明は杉浦「解析入門 Ⅰ」を参照してください。

もし\(f\)が1変数の場合は、\((g\circ f)^{\prime} (x)= g^{\prime}(f(x)) f^{\prime}(x)\)です。チェインルールはその一般化となっています。

チェインルールにはより一般的な形もありますが、使ってみないとその意味や形は覚えにくいです。まずは「2変数+1変数」の合成という簡単なケースで、計算できるようになることが大事だと思います。

(余談ですが、僕は大学1年生の頃、一般的な形を公式のように覚えようとするだけで、実際の計算が苦手でした。まずは特殊なケース、変数が少ないケースで計算できるようになることで、自然と一般的な形も見えてくるでしょう。)

 

波動方程式の解

\(g\)を2回微分可能な(一般的な)関数とします。このとき、

\[ \begin{aligned}u(x,t):= g(x+ct)\end{aligned} \]

とすると、\(u\)が1次元の波動方程式

\[ \begin{aligned}\frac{\partial^2 u }{\partial t^2} = c^2 \frac{\partial^2 u }{\partial x^2}\end{aligned} \]

を満たすことを確かめてみましょう。\(x,t \in \mathbb{R}\)で、\(c\)は定数です。

 

まず、微分したい関数が合成関数となっているのを見抜くことが大事です。

\(f(x,t)= x+ct\)と置くと、\(u = g\circ f\)と合成関数の微分として見ることができます。この記事の最初では\(f\)の変数を\(x,y\)としていましたが、\(x,t\)と文字を置き換えても同じです。したがって、チェインルールが適用できます。

\[ \begin{aligned}\frac{\partial u}{\partial t}(x,t)= g^{\prime}(f(x,t))\frac{\partial f}{\partial t}(x,t)\\ =c g^{\prime}(f(x,t))  \end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\frac{\partial u}{\partial x}(x,t)= g^{\prime}(f(x,t))\frac{\partial f}{\partial x}(x,t)\\ = g^{\prime}(f(x,t))  \end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}(x,t)=c g^{\prime  \prime}(f(x,t))\frac{\partial f}{\partial t}(x,t)\\ =c^2 g^{\prime \prime}(f(x,t))  \end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(x,t)= g^{\prime \prime}(f(x,t))\frac{\partial f}{\partial x}(x,t)\\ = g^{\prime \prime}(f(x,t))  \end{aligned} \]

と計算できます。よって、波動方程式を満たすことがわかりました。

同様にして、\(g(x-ct)\)も波動方程式を満たすことを示せます(確かめてみてください)。

 

以上、合成関数の偏微分、チェインルールとは何か、波動方程式を例に紹介してきました。

チェインルールは、偏微分の計算で当たり前のようによく使われます。

まずは落ち着いて、\(g,f\)は何なのか、どんな関数の合成になっているのかを書き出してみましょう。\(g,f\)の変数の数、値(実数値なのかベクトル値なのか)を確認することも大事です。

\[ \begin{aligned}\frac{dz}{dx}= \frac{dz}{dy}\frac{dy}{dx}\end{aligned} \]

という形は覚えやすいですが、形式的に

\[ \begin{aligned}\frac{\partial u }{\partial x}= \frac{\partial g }{\partial f}\frac{\partial f}{\partial x}\end{aligned} \]

などとしてしまわないように注意しましょう。正しい式の右辺の第一項は、\(g\)を微分してから、導関数\(g^{\prime}\)に\(f\)を合成したものとなっています。

学びはじめの段階では、合成している関数、変数を省略せずに明示して計算するようにすると、やがて省略しても間違えずに計算できるようになるでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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