2次形式の標準形、符号、シルベスターの慣性法則とは

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

今回は2次形式に標準形、符号、シルベスターの慣性法則とは何か、具体例を交えて紹介します。

 

標準形、符号、シルベスターの慣性法則

\(f(x_1,x_2)=ax_1^2+2bx_1x_2+cx_2^2\)のように、2次の項のみからなる多変数の多項式を2次形式と言いました

2次形式は、対称行列\(A\)を使って一般に

\[f(x) =x^\top Ax= \langle x ,Ax\rangle\]

と表されます。この2次形式のできるだけ簡単な形を提示するのが、シルベスターの慣性法則です。

 

\(A\)は対称行列なので、必ず対角化できます。またすべての固有値は実数となります。

シルベスターの慣性法則では、固有値が正か負か0であるかに注目します。\(A\)の正の固有値を\(p\)個\(\lambda_1,\dots,\lambda_p\)、負の固有値を\(q\)個\(\lambda_{p+1},\dots,\lambda_{p+q}\)個としましょう。残りは0固有値です。この順に固有値を並べて対角化しましょう。

\(P\)を直交行列として、\(Ax=PD P^{-1}x\)において、\(y=P^{-1}x\)とおけば、

\[\begin{eqnarray} f(x) &=& x^\top Ax \\&=&y^\top P^\top PDP^{-1}x\\&=& y^\top D y \\&=&\lambda_1 y_1^2+\cdots+\lambda_p y_p ^2 \\&&+ \lambda_{p+1} y_{p+1}^2+\cdots+\lambda_{p+q}y_{p+q}^2 \end{eqnarray}\]

となります。

さらに変数変換\(z_1 = \sqrt{\lambda_1}y_1,\dots,z_p =\sqrt{\lambda_p}y_p\)、\(z_{p+1} = \sqrt{-\lambda_1}y_{p+1},\dots,z_{p+q} =\sqrt{-\lambda_{p+q}}y_{p+q}\)をすると、

\[\begin{eqnarray}  f(x)&=& z_1^2+\cdots+ z_p ^2 \\&&- z_{p+1}^2-\cdots-z_{p+q}^2\end{eqnarray}\]

と表されます。

これを2次形式の標準形と呼びます。また、正負の項の数を表す\((p,q)\)を2次形式の符号と呼びます。(差\(p-q\)を符号ということもある)

 

例えば、

\[A=\begin{pmatrix} 0 &1\\1 & 0 \end{pmatrix}\]

により定まる2次形式の標準形と符号を求めてみましょう。対角化の計算は省略しますが、固有値は\(1,-1\)で、\(y=P^{-1}x\)と置くと

\[f(x)=y_1^2 -y_2^2\]

と表されます。一般には固有値は1ではないので、ここから係数が1となるように変数変換する必要がありますが、今回は必要ありません。

よって、これが標準形で、符号は\((1,1)\)であるとわかりました。

 

さらに、次のような結果が成り立ちます。

シルベスターの慣性法則(Sylvester’s law of inertia)

\(A\)を対称行列とし、それにより定まる2次形式を考える。

2次形式には標準形が存在し、それは可逆な変数変換の仕方によらず一意的に定まる。

つまり、どんな可逆な変数変換をしても、符号\((p,q)\)は一定である。

証明は齋藤「線型代数入門」5章を参照してください。

行列\(A\)の正の固有値の個数\(p\)は正の慣性指数(positive index of inertia)、負の固有値の個数\(q\)は負の慣性指数(negative index of inertia)とも呼ばれます。慣性法則と呼ぶのは、見かけの形は変わっても残り続ける量(正負の固有値の個数)がある、という主張だからでしょう。

 

2次形式が正定値行列などであることに関しては、固有値の符号によって判定することができました。これを2次形式の符号の言葉で言えば、次のように表せます。

行列\(A\)のサイズを\(N\)とする。

  • \(A\)が正定値行列\(\Leftrightarrow\) 符号が\((N,0)\)
  • \(A\)が半正定値行列\(\Leftrightarrow\) 符号が\((r,0)\)、\(r<N\)
  • \(A\)が負定値行列\(\Leftrightarrow\) 符号が\((0,N)\)
  • \(A\)が半負定値行列\(\Leftrightarrow\) 符号が\((0,r)\)、\(r<N\)
  • \(A\)が不定値行列\(\Leftrightarrow\) 符号が\((p,q)\)、\(pq \neq 0\)

行列の定値性は、原理的には固有値によって判定できるわけですが、別の方法でもチェックできるわけです。すなわち、2次形式の標準形を何らかの方法で求めることができれば、そこに表れる符号から定値性が判断できますね。

 

ラグランジュの方法

2次形式を固有値、対角化を直接経由せずに、符号によって調べてみましょう。

 

例として

\[f(x)=5x_1^2+8x_2^2+x_3^2+4x_1x_2+4x_1x_3\]

という2次形式を考えます。

これを標準形に持っていきたいわけですが、そのためには\(x_1x_2,x_1x_3\)のような項を消したいです。そこで平方完成をしてみましょう。

\[\begin{eqnarray}  f(x) &=&(x_1+2x_2)^2+(2x_2)^2+(2x_1+x_3)^2\end{eqnarray}\]

となるので、\(y_1=x_1+2x_2\)、\(y_2=2x_2\)、\(y_3=2x_1+x_3\)と置くことで、

\[f(x)=y_1^2+y_2^2+y_3^2\]

と標準形が求められました。符号は\((3,0)\)であり、2次形式は正定値であることがわかります。

このように平方完成と変数変換によって標準形を求める方法は、ラグランジュの方法(Lagrange method)と呼ばれるものです。他にも、ヤコビの方法、基本変形を応用した方法が知られています。

 

以上、2次形式の標準形、符号、シルベスターの慣性法則について紹介してきました。

標準形や符号の考え方は、行列の定値性を判定するのに役立ちますが、さらに2次曲線・2次曲面の分類に役立てることもできます。

また、シルベスターの慣性法則を応用すると、ある値より大きい・小さい固有値の個数がわかります。これは対称行列の固有値の数値計算における二分法と呼ばれる方法を説明してくれます。

参考:4.2 Sylvester の慣性律による説明 – 桂田圭史

2次形式の性質を調べるのに、正負の固有値の個数が重要であるという考え方に気づいてもらえたら嬉しいです。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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