工学を学ぶために必要な大学数学の一覧

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

化学工学、機械工学、航空工学、電気電子工学、情報工学、建築工学、生物工学……工学といってもさまざまな分野が含まれますが、そのどれにも一定レベルの数学は欠かせません。

今回は、大学で工学を学ぶために学ぶために必要な大学数学の一覧を紹介します。

東京大学工学部計数工学科の時間割を参考に書いています。僕の大学時代の専門は数学であり、工学に関しては専門でないことをご了承ください。

 



工学と数学の関係

よく「工学の目標は人類の幸福、理学の目標は真理の探求」と言われます。

工学部では、人間にとって何か良いものを提供するために、科学的知見・理学の知識を利用して、それを実践的に使うこと、ものや仕組みに変える方法を学ぶでしょう。

物理や化学を学んだほうが工学の役に立つんじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、その物理や化学の理解にも必要になるのが、大学数学です。

画像引用:数理情報工学コース – 東京大学

もともと数学が嫌いではなかった人は、ぜひ早い段階で大学数学の基礎を身に着けておくと、どんな工学を専門とするにしても役立つでしょう。

数学に苦手知識がある人は、大学数学にはこんな分野があるのだなと知っておいて、自分の興味のある専門の工学を学び始めてみてはいかがでしょうか。教科書を手に取れば、そこで何かしら数学的知識が要求されることが明らかになるので、その段階で数学を学ぶとモチベーション的に良いと思います。

 

教養数学

教養数学は、大学1年で教養として学ぶことが多い数学科目です。

微分積分学

歴史的にみて、微積分学は工学において重要です。まず微分積分学とニュートン力学(物理学)が17世紀頃に生まれ、それが熱力学や化学や工学の発展を促し、18-19世紀の産業革命につながるといった関係があるのではないでしょうか。

工学では、現実の問題を理論的に分析するにあたり、それを何らかの数式として捉える、すなわちモデル化をして解くことになります。

そのモデル化で使う言葉として、小さな変化やその積み重ねを捉える微分や積分、微分方程式の考え方は欠かせません。例えば一般的な関数を多項式という単純な関数で近似するテイラー展開の考え方は、理論と実践のバランスを考える良い題材となるでしょう。

参考:なぜテイラー展開を学ぶ? 単振り子を例にわかりやすく解説

 

線形代数学

線形代数学は微積分学に比べると新しい学問で、特に情報・コンピュータの応用と発展に欠かせない学問と言えます。

ベクトルや行列は、離散的でデジタルな情報を統一的に扱い、効率よく処理する方法を考えるための基礎言語となるでしょう。

参考:線形代数学の応用:CG・画像処理(拡大縮小・反転、回転、せん断)についてなぜ線形代数を学ぶ? Googleのページランクに使われている固有値・固有ベクトルの考え方

ただし1年生の時点だとどんな応用があるのかイメージしにくいかもしれないので、自分の専門とする工学分野においてどう利用されているか、各自調べてみると良いと思います。

大学4年時に配属されたのは、信号処理の研究室でした。そこで私は、数学の定理や結果が、工学の理論に多いに用いられていることを知りました。線形代数はもちろん、関数解析といった純粋数学の主要な結果が、工学の理論を裏付け、意味のあるものにしています。

引用:工学から数学へ – 数理女子

 

統計学

工学では実際にたくさんのものを作ったり、たくさんの人がものを利用する状況を調査することがあるでしょう。そこで必要になるのが統計学です。

例えば精密なものづくりには、長さや温度といった物理量を正確に測定・計測する必要がありますが、そうした誤差の理論は統計学の範囲でしょう。計測工学という分野もあるくらいです。

また、工場である製品を大量に生産するときに、一定の確率でどうしても不良品は生まれてしまいます。それを効率よく確実にチェックする、品質検査や不良品検査をする問題は、統計学の基本的な問題となっています。

近年ではセンサや画像データから、コンピュータによって自動で判断してもらう方法が発達してきています。例えば、パターン認識や機械学習を学びたい人も、まずは統計学が必要となるでしょう。

 

専門数学

微分方程式、フーリエ解析、ラプラス変換

さきほども述べましたが、微分方程式は現実をモデル化して分析するためによく使われます。

力学や制御理論、回路理論の問題は、常微分方程式に帰着されることが多いでしょう。電気や空気・流体の問題を考えるには、偏微分方程式の考え方が基本となります。

フーリエ解析(フーリエ級数、フーリエ変換)は、電気信号など、アナログ-デジタルの変換を考えるときの基本ツールです。理論的に学ぶだけでなく、高速フーリエ変換(FFT)や離散フーリエ変換(DFT)といった、コンピュータで実際に計算を行うための内容までカバーするかもしれません。特に信号理論・通信理論に役立つでしょう。

ラプラス変換は、ある種の常微分方程式を代数的に解ける便利な方法です。特に制御や回路の理論で微分方程式を解く必要があるため、工学ではラプラス変換まで学ぶことが多いのではないでしょうか。

参考:なぜ偏微分を学ぶ? フーリエの熱伝導方程式を例に

 

ベクトル解析

ベクトル解析は、電磁気や流体といった、空間に広がって連続的に時間変化するものの分析に欠かせません。電磁気学や流体力学では偏微分方程式が登場しますが、多変数での微分や積分がどういうものか、ベクトル解析を通じて身につけることでしょう。

参考:ガウスの発散定理とは? 計算例、証明、電磁気学への応用

 

複素解析、複素関数論

なぜ工学の人が複素解析を学ぶかといえば、やはり電気・磁気への応用が甚だしいからでしょう。

オイラーの公式は、電磁気という波動現象をシンプルに扱うツールとして役立ってくれます。また、フーリエ解析でも複素数の言葉を使います。

参考:電気・電子システムと複素数 – 東京工業大学大学院理工学研究科電子物理工学専攻 松澤昭

 

離散数学・グラフ理論・最適化理論・OR

例えば、いくつかの都市を効率よく巡る経路を探す問題は、巡回セールスマン問題と呼ばれる有名な問題です。形のある「もの」だけでなく、計画やアルゴリズムの効率化も工学の問題となるでしょう。

こうした問題を捉える枠組みとして、ネットワークを分析するグラフ理論や、限られた条件の中で最適な解を探す最適化理論は重要です。

参考:グラフ理論入門:グラフとは、グラフの同型線形代数の応用:線形計画法~輸送コストの最小化を例に

 

数値計算、数値解析

微分方程式でモデルを作って、理論的・数学的にきれいに解けることが知られているならば良いのですが、実際にはよくわかっていない・難しい問題もあります。

そこで活躍するのがコンピュータですが、知識がなければ、それっぽく見えるが誤差が大きすぎて間違った結果を導いてしまうことがあるでしょう。そこで役立つのが、数値計算や数値解析の分野です。誤差の程度を理解しつつ、コンピュータで効率よく問題を解くための方法を考えることになります。現実的な時間で解くことは大事で、計算量の理論を学ぶことにもなるでしょう。

参考:オイラー法:常微分方程式をPythonで解く原理を解説関数のオーダー評価(ランダウの記号)をわかりやすく解説

 

以上、工学を学ぶために必要な大学数学を紹介してきました。

特に後半は幅広く紹介してきましたが、専門に応じて取捨選択して学ぶことになるのではないかと思います。

数学の教科書は、ときに応用からかけ離れていて、抽象的に感じることもあるでしょう。授業で扱う数学は技法と割り切って身につけつつ、専門としたい分野でどんな数学が使われているか調べ、往復して学ぶと楽しみやすいのではないでしょうか。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

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