集合族の扱い方(和集合・共通部分):実数の区間を例に

どうも、木村(@kimu3_slime)です。

位相空間論における位相(開集合系)やコンパクト性の定義、ルベーグ積分における可測集合を理解するには、まず集合族の扱い方を知っておく必要があります。

今回は、集合族の扱い方(和集合、共通部分)を、実数の区間を例にわかりやすく紹介していきます。

 



有限個の集合族の扱い方

集合族(family of sets)とは、簡単に言えば、集合の集まりのことです。集合系とも。

例えば、\(A_1= [1,3]\)、\(A_2 =[2,4]\)、\(A_3 = [3,5]\)という閉区間を考えましょう。閉区間とは、一般には\([a,b]=\{x \in \mathbb{R} \mid a \leq x \leq b\}\)で表される、実数\(\mathbb{R}\)の部分集合です。

これらを集めた集合\(\mathcal{A }:=(A_1, A_2,A_3)\)を集合族と言います。これを\(I =\{1,2,3\}\)として、\(\mathcal{A } = (A_i)_{i \in I} =(A_i)_{i=1} ^3\)と表すことが多いです。集合族に属する集合を指定するパラメータ\(i\)を添え字(index)、\(I\)を添え字集合(index set)と言い、\(\mathcal{A}\)は\(I\)によって添え字付けられた集合族(indexed family of sets)と言います。

集合族という言葉に戸惑うかもしれませんが、これは数列と似たようなものです。\(a_1=3\)、\(a_2=4\)、\(a_3=5\)という実数を考えましょう。これを集めた\((a_i)_{i=1}^{3}=(a_1,a_2,a_3)\)を(有限)数列と呼びます。

数列では、各番号\(i\)に対して、実数\(a_i\)が対応しています。それと同様に、集合族では、各番号\(i\)に対して、集合\(A_i\)が対応している、というわけです。

 

数列では、その和と積を考えることができました。

\[ \begin{aligned}\sum_{i=1}^3 a_i=3+4+5= 12\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\prod_{i=1}^3 a_i=3\cdot4\cdot5= 60\end{aligned} \]

それと同様に、集合族では、その和集合と共通部分(積集合)を考えることができます。

\[ \begin{aligned}\bigcup_{i=1}^3 A_i = [1,3]\cup[2,4]\cup[3,5]= [1,5]\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\bigcap_{i=1}^3 A_i = [1,3]\cap[2,4]\cap[3,5]= \{3\}\end{aligned} \]

一番右の変形では、集合が等しいことに関する証明を用いて示せるものです。そもそも集合の要素、部分集合、相等に関する扱いに慣れていなければ、次の記事を読んでください。

参考:集合の要素、部分集合、等しいことの証明の書き方

 

可算無限個の集合族の扱い方

数列で無限数列を考えたように、集合族でも無限の列を考えることができます。

例えば、\(i\)を自然数として、\(A_i = [i,i+2]\)によって定まる集合を考えましょう。集合族\((a_i)_{i \in I}\)が定まっています。添字集合は、\(I= \mathbb{N}\)です。

この集合族の要素の個数は、自然数の個数分だけ、すなわち無限にあります。特にこのような無限を、可算無限というのでした。

 

数列では無限和(級数)、無限積を考えることができました。それと同じように、集合族でも(無限)和集合や共通部分を考えることができます。どう定義したら良いでしょうか。

まず、添字集合が有限集合のとき、集合族\((A_i)_{i \in I}\)について考えます。\(x \in \bigcup_{i=1}^{n} A_i\)とは、\(x \in A_1\)または……\(x \in A_n\)が成り立つことです。つまり、\(x\)はいずれかの\(i \in I\)で\(A_i\)に属しています。すなわち、一般の和集合は

\[ \begin{aligned}\bigcup _{i \in I} A_i := \{x \mid あるi \in I で x \in A_i\}\end{aligned} \]

と定義されます。同様に、\(x \in \bigcap_{i=1}^{n} A_i\)とは、\(x \in A_1\)かつ……\(x \in A_n\)です。つまり、\(x\)はすべての\(i \in I\)で\(A_i\)に属しています。したがって、一般の共通部分は

\[ \begin{aligned}\bigcap _{i \in I} A_i := \{x \mid すべての i \in I について x \in A_i\}\end{aligned} \]

と定義されます。

\(I= \mathbb{N}\)のときは\( \bigcup _{i=1} ^\infty A_i\)、\(I= \mathbb{Z}\)のときは\( \bigcup _{k=-\infty} ^{\infty}A_i\)といったように無限大の記号を使って表すことがあります。しかし、数のケースで極限を考えるのと違って、集合族では「任意の~」「ある~」を用いた和集合・共通部分の定義による集合を考えていることに注意しましょう。

 

\(A_i = [i,i+2]\)で定まる集合族\((A_i)_{i \in \mathbb{N}}\)について、その和集合、共通部分を求めてみましょう。

集合に関する証明は、数を単に計算して求めるのと違って、どんな集合と等しいか予想して、実際にそれと等しいことを証明する必要があります。

有限の部分和集合、共通部分について、絵を書いてみれば、どんな状況か想像することはできるでしょう。結論としては、

\[ \begin{aligned}\bigcup _{i \in \mathbb{N}} A_i = [1, \infty)\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\bigcap _{i \in \mathbb{N}} A_i = \varnothing\end{aligned} \]

が成り立ちます。これを定義に従って示しましょう。

\(x \in \bigcup _{i \in \mathbb{N}} A_i\)を任意の要素とします。和集合の定義より、ある\(i \in \mathbb{N}\)で\(x \in [i, i+2]\)です。常に\(1 \leq i\)なので、\([i,i+2] \subset [1,\infty)\)であり、\(x \in [1,\infty)\)が成り立ちます。逆に、\(x \in [1,\infty)\)とします。\(\lfloor x \rfloor\)を\(x\)以下の最大の整数(床関数、ガウス記号)とすると、\(i:=\lfloor x \rfloor\)は自然数です。\(\lfloor x \rfloor \leq x < \lfloor x \rfloor+1\)が成り立つので、\(x \in [\lfloor x \rfloor, \lfloor x \rfloor +2]\)が成り立ちます。ある自然数\(\lfloor x \rfloor\)により、\(x \in A_{\lfloor x \rfloor}\)が成り立つので、\(x \in \bigcup _{i \in \mathbb{N}} A_i\)が言えました。

\(\bigcap _{i \in \mathbb{N}} A_i \)に属する要素が存在しないことを示しましょう。仮に、\(x \in \bigcap _{i \in \mathbb{N}} A_i \)が存在したとします。共通部分の定義により、すべての\(i\)で\(x \in [i,i+2]\)であるわけです。特に、\(x \in [1,3]\)であり、\(x \in [5,7]\)です。このような実数が存在したとすると、矛盾します。つまり、\(\bigcap _{i \in \mathbb{N}} A_i =\varnothing\)が言えました。

 

一般の集合族の扱い方

より一般の集合族は、\(\Lambda\)(ラムダ)を任意の添え字集合として、\((A_\lambda)_{\lambda \in \Lambda}\)と表されます。

さきほどまでの例では、添字は番号付けられたもの、可算集合でした。より一般に、連続的なパラメーター\(\lambda \in \mathbb{R}\)のような、非可算な集合族を考えることができます。

例えば、\(\lambda \in [0,1]\)に対して、\(A_\lambda := (\lambda -\frac{1}{10},\lambda + \frac{1}{10})\)とします。一般に、\((a,b):=\{x \in \mathbb{R}  \mid a <x < b\}\)を開区間と呼んでいます。集合族\((A_{\lambda})_{\lambda \in [0,1]}\)は、\(\lambda\)を中心とした半径\(\frac{1}{10}\)の開球\(B(\lambda ,\frac{1}{10})\)のなす族と言えます。

 

添字集合が可算無限でなく、一般の集合であるケースでも、和集合や共通部分は同様に定義されます。

\[ \begin{aligned}\bigcup _{\lambda \in \Lambda} A_\lambda := \{x \mid ある \lambda \in \Lambda で x \in A_\lambda\}\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\bigcap _{\lambda \in \Lambda} A_\lambda := \{x \mid すべての \lambda \in \Lambda について x \in A_\lambda\}\end{aligned} \]

\(A_\lambda = (\lambda -\frac{1}{10},\lambda + \frac{1}{10})\)、\(\lambda \in [0,1]\)で定まる集合族の和集合、共通部分は、次のようになります。

\[ \begin{aligned}\bigcup _{\lambda \in [0,1]} A_\lambda = (-\frac{1}{10},1+ \frac{1}{10})\end{aligned} \]

\[ \begin{aligned}\bigcap _{\lambda \in [0,1]} A_\lambda = \varnothing\end{aligned} \]

簡単に確かめましょう。\( x \in \bigcup _{\lambda \in [0,1]} A_\lambda\)とすると、ある\(\lambda \in [0,1]\)により\(x \in (\lambda -\frac{1}{10},\lambda + \frac{1}{10})\)となります。\( -\frac{1}{10} \leq \lambda -\frac{1}{10}< x\)であり、\(x<\lambda +\frac{1}{10} \leq 1+ \frac{1}{10} \)なので、\(x \in (-\frac{1}{10},1+ \frac{1}{10})\)です。逆に、\(x \in (-\frac{1}{10},1+ \frac{1}{10})\)としましょう。\(x < 0\)のときは\(\lambda= 0\)、\(0 \leq x \leq 1\)のときは\(\lambda = x\)、\(x>1\)のときは\(\lambda =1\)とすると、いずれにせよ\(\lambda \in [0,1]\)です。\(x<0\)のとき、\(-\frac{1}{10} < x <0\)なので、\(x \in A_0\)です。\(0 \leq x \leq 1\)のとき、\(x>1\)のときも、\(x \in A_ \lambda\)です。つまり、ある\(\lambda \)によって\(x\in A_\lambda\)なので、\(x \in\bigcup _{\lambda \in [0,1]} A_\lambda \)が言えました。

\(x \in \bigcap _{\lambda \in [0,1]} A_\lambda \)を満たす\(x\)が存在しないことを示します。もし存在したとすれば、\(x\in A_0\)、\(x \in A_1\)を満たします。つまり、\(-\frac{1}{10} <x <\frac{1}{10}\)、かつ\(\frac{9}{10} <x <\frac{11}{10}\)を満たします。このような実数\(x\)は存在しません。

集合族\((A_\lambda)_{\lambda \in [0,1]}\)は、それぞれが開集合であり、その和集合が\([0,1]\)を含んでいます。このような集合族を、\([0,1]\)の開被覆というのでした。

ここから有限部分被覆を取り出すことができます。例えば、\(\lambda_k := \frac{1}{20} k\)、\(k={0,1,\dots,20}\)としましょう。集合族\((A_{\lambda_k})_{k=0}^{20}\)についても、\(\bigcup _{k=0} ^{20} A_{\lambda_k} = (-\frac{1}{10},1+ \frac{1}{10}) \supset [0,1]\)が成り立ちます。つまり、有限部分被覆を取り出すことができました。有界閉区間\([0,1]\)については、どんな開被覆に対しても有限部分被覆を取り出せる(コンパクト)ことが知られています。

 

今回はイメージしやすい例として、添字集合\(\Lambda\)を実数\(\mathbb{R}\)やその区間としましたが、複素数\(\mathbb{C}\)でも何でも集合族を考えることができます。

\(\Lambda\)は任意の集合として選べる、任意の濃度とできるので、実数の濃度より大きな濃度を持った添字集合を考えることもできます。一般に、ある集合に対し、そのべき集合の濃度は常に真に大きくなるので、いくらでも大きい濃度というものを考えられます。任意の集合族\((A_\lambda)_{\lambda \in \Lambda}\)、非可算を許容する集合族では、このようなケースも含みうることに注意しましょう。

 

また、僕は学び始めの段階で、集合族\((A_\lambda)_{\lambda \in \Lambda}\)とは何か、少し疑問がありました。パラメーターは無限にあるのに、どうやってそれを集めているのだろうと。

集合族の形式的な定義としては、すべての\(\lambda \in \Lambda\)に対して、\(A_{\lambda}\)という集合がただ一つ定まっていることです。つまり、集合族とは、\(F(\lambda)= A_\lambda\)という対応規則、すなわち写像のことだったわけですね。この立場からは、数列\((a_n)_{n \in \mathbb{N}}\)とは、写像\(a :\mathbb{N} \to \mathbb{R}\)のことと言えます。

 

今回は、集合族の扱い方、和集合や共通部分の扱いについて、実数の区間を例に紹介してきました。

集合族を考える時、多くは無限個の集合の集まりを考えることになります。無限というと難しく感じるかもしれません。まずは有限のケースで集合を扱えるようになること「任意の」「ある」を使いこなして無限的なものを記号で厳密に扱えるようになることが大事です。

集合族の扱いをマスターすれば、位相空間論やルベーグ積分を学ぶときに、無限個の和集合・共通部分といった考え方の意味をきちんと理解することができるでしょう。

木村すらいむ(@kimu3_slime)でした。ではでは。

 

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